2016年 15冊目『チェルノブイリの祈り 未来の物語』
2015年のノーベル文学賞受賞のスベトラーナ・アレクシェービッチさんの本です。
チェルノブイル原発事故に遭遇して市井の人々の声が綴られています。
いわゆるドキュメンタリー文学と言われるジャンルの本です。
あまりのその悲しみの力の強さに衝撃を受けます。
「話をした人」、「立場」、「その人の話」という構成が、何の解説も加えられず、淡々と続けられます。
原発火災を消火しに行った消防士の妻の告白から始まります。
短時間で大量被爆し、モスクワに移送されるのですが、日々、一刻と悪化していきます。
ここでは書きませんが、その悪化状況も具体的で、人がそのようになるのか!と私の想像を超えます。
そのような変化の中でも、彼女は、夫を献身的に看病します。
しかし、たった14日で夫は亡くなります。
悲劇はこれだけではありません。
その献身的な看病の代償を払う事になります。
彼女は妊娠しており、その子供も死産となるのです。
夫の葬儀でも、夫は多量の被曝を受けており、
通常の火葬や埋葬ができません。特別な柩に入れられ埋葬されるのです。
冒頭のこのエピソードを読むと一気に引き込まれました。
奇形児を生んだ母親の話、
何も教えられずに現場修復に行かされた技術者の話、
沢山のチェルノブイリ周辺の農民や市井の人々の話、
危険を察知した技術者の話
(彼は危険をいち早く察知し、各地の被曝量が分かる地図を作成し、
関係各所に送りますが、黙殺されます。最後はガイガーカウンターを
取り上げられ、妄想により住民を扇動したと職も解かれてしまいます)。
被爆者の近くにいると放射能を浴びると言う差別を受け、
結局チェルノブイリの危険地域に戻って住んでいる人たちの話。
1つ1つが、悲しみと衝撃を伝えてきます。
沢山の声から私自身がわかったのは、次のような事です。
この当時のソ連は共産主義でした。
トップダウン。
それもとても強いトップダウン。
万が一、指示が無く動くと沢山の罰則がありました。
更に農業は集団農業。
組織で判断すると言う習性がありました。
また、アメリカから核戦争が仕掛けられるかもしれないという認識はあり、その際にシェルターに逃げ込む訓練もされていた地域もあったようです。
そして、何よりも自国を信頼しており、何かあれば、
正しい指示がくると信じていたのです。
原発事故が起きた。
しかし、テレビでは大丈夫だとプロパガンダされていた。
国からの避難指示も来ない。
近所の人も、ほんの一部しか逃げない。
集団行動をする習性があるので、逃げるのが遅れたということが
事故直後に起こります。
また、消防士、技術者、労働者など、復旧に当たる人達には、正しい情報や装備が配られずに従事されます。
あるいは、装備や薬がある場合でも、それを配ると異形の人が歩き、
現場がパニックになり、その責任を負いたくないと、
それらを倉庫に眠らしたままにしたり、横流しをして儲けた人もいたようです。
浅ましさに驚きます。
暫くすると被害が拡大し、被災地から集団避難が起こなわれます。
ところが避難先では差別を受けます。
元々共同体意識が強いコミュニティなので、
受け入れ側も他所者を受け入れる風習がありません。
被災者も分断されて暮らす事に慣れていません。
結果、危険なチェルノブイリの周辺に戻ってきて住みだしてしまいます。
そこが危険だとわかっていても、他に選択肢がないのです。
また、チェルノブイリのある国の隣国であるベラルーシ。
ここには原発は1基もありません。
しかし、原発事故の影響を最も受けたエリアの一つになっているそうです。
事故10年後5人に1人が汚染地域で暮らしていたそうです。
とてもインパクトの大きな本です。
簡単には勧められませんが、歴史の事実をある側面から知るには良い本だと思います。
▼前回のブックレビューです。
▼新著『業績を最大化させる 現場が動くマネジメント』です。