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2016年 49冊目『捏造の科学者』
※2016年にFacebookへ投稿された内容です。
毎日新聞科学環境部の須田桃子さんの著書です。STAP細胞事件についての本です。第46回大宅賞受賞と帯にあります。
最近、真偽は分かりませんがSTAP細胞を見つけたと言う話がWEB記事にあり、読んでみようと思いました。
STAP細胞報道をリードし続けたのが毎日新聞科学環境部です。その中心となった科学記者が、著者の須田桃子さんです。
STAP細胞の万能性の証明は3つのステップからなります。
ステップ1:酸処理を行った細胞を培養すると万能性に関わるOct4という遺伝子が働き、細胞が緑色の蛍光を発する。
具体的には「マウスの脾臓のリンパ球をとりだす」「弱酸性溶液につける」「培養する」「細胞が緑色の蛍光を発する」
ステップ2:Oct4が働いた細胞をマウスの皮下に移植すると様々な組織を含んだテラトーマ(良性の腫瘍)が形成される。
具体的には、上皮細胞、骨格筋、腸管上皮にテラトーマができる。
ステップ3:緑色の蛍光を発した細胞をマウスの受精卵に移植し、仮親マウスの子宮に戻すと、受精卵由来の細胞と、注入した細胞由来の細胞(緑色の蛍光を発する)が混じったキメラマウスが誕生する。
つまり、一度脾臓のリンパ球になった細胞が、初期化されて、様々な細胞になる可能性を見つけた画期的な発見だったのです。
ところが、様々な疑惑が見つかったのです。
例えばSTEP1の緑色に蛍光するという現象は、細胞が死ぬ際の自己蛍光という現象を間違ったのではないかと指摘されました。これだけであれば、捏造には当たりません。しかし、この論文内容は、以前査読を受けていて、この指摘を受けていました。科学に対して真摯であれば、この疑問に対して回答する事が求められるわけです。
STEP2では、テラトーマができた写真の3つが全く異なる実験の小保方さんの博士論文の流用である事が判明し、調査委員会から捏造と認定されました。
STEP3では、胎盤に流れ込んだ血液が流れ込んだ可能性や胎盤に分化する能力のあるTS細胞が混入した可能性が指摘されました、STAP細胞の存在を示す証拠能力がなくなりました。
そもそも、その写真自体が、STAP細胞ではなくES細胞由来のキメラマウスである事が、元データから確認されました。
また、元々脾臓のリンパ球から取ったT細胞である事を示す映像は、切り貼りされていて、これも調査委員会から不正と認定されました。
保管庫には多数のES細胞の試料も発見されました。
また、実験は複数の科学者が携わっているのですが、最初のマウスのDNAと最後の結果のDNAが異なるという致命的な矛盾も出てきました。
つまり、様々な異なる実験の中で都合の良い情報、データ、写真を繋ぎわせて、STAP細胞の存在を示したと言うのです。
なぜ、このような杜撰な論文が通ったのでしょうか?
いくつもの偶然が重なっていました。
まず、数年前にiPS細胞が見つかった事があります。発見当初誰も信用しなかったそうです。ところが存在し、ノーベル賞まで受賞したわけです。STAP細胞もあるかも?だったのです。
理研自体が予算を増やしたいと思っていた事もあります。予算が大きく減っていたそうで、世紀の発明であるSTAP細胞で花火を上げたいというのもあったようです。
笹井さん、若山さん、バカンティさんと言うそれぞれの分野での大家が共著者であり
査読者も出版社もある意味プラスのバイアスがかかっており、チェックができなかった。しかし、実際は名前を貸しているだけに近かったり、パーツだけをやっていたりで、全体に関与しているのは小保方さんだけでした。
小保方さんの実験記録がずさんでチェックのしようがなかった。しかし、誰もローデータのチェックまではしていなかった。それは、彼女の事を一流の若手研究者だと誤解をしていたからです。
これらの事が、詳細な取材、当事者や関係者とのやりとりなどから明らかになっていきます。推理小説の謎解きを読んでいるような気分になります。
ただ、これが推理小説だとすると、あまりに都合が良すぎるだろう。そんな事、実社会では起きないだろう!って内容です。まさに小説より奇なり!です。
読み応えありますよ。
▼前回のブックレビューです。