2016年 13冊目『日本の雇用 ほんとうは何が問題なのか』
リクルートワークス研究所所長の大久保さんの著書です。
帯に 不況だけではない。この雇用不安はどこからくるのか?正社員の2人に1人が不安を感じている。景気の悪化。会社への不信。ミドル・シニア社員問題。もはや非正規3割超なのに正社員中心の組織制度疲労。そして働くひとりひとりの孤立・・・。とあります。
とても学びが多い本でした。
2008年ワーキングパーソン調査によると
正社員47.5%、パートタイマー48.2%、派遣60.9%が雇用に不満を持っている。
日本は失業率が世界の中で最も低く、解雇規制が最も厳しい国で、
もっとも豊かな国の1つなのに、過半数の人が雇用に不安を持っている。
2008年秋から始まった世界同時不況で、09年の中途採用求人見通しは前年比▲43.3%。
これも原因の一因だと思うかもしれない。
しかし、この調査は2年ごとに実施しており、調査結果は大きく変わらない。
正社員の解雇には、
①解雇の必然性
②解雇回避努力義務
③解雇基準の公平性
④労働者への説明義務
と言う整理解雇の4要件が必要で、実質はほとんどできない。
また、賃金を下げるなど、労働条件の不利益変更も法律上制限がかかっているので容易ではない。
労働者よりも企業の方が、このような制限の中で景気低迷に対応しなければいけないので、条件が厳しい。
雇用不安の原因は複合要因である。
・経済環境の悪化
・企業への不信
・正規社員中心の制度疲労
・知識不足
・そして、孤立
各章のポイントをメモしておきます。一部補足を書いておきます。
1章 歴史:日本の雇用はなぜこうなったのか
この10年で起きたこと
・非正規社員の急増
:2008年 1760万人 労働者の34.1%
:人件費の変動費化が目的。人件費削減は後付け
:派遣は174万人、フリーターは181万人とそれぞれ3%。
:大半は契約社員、常用雇用パートタイマー
・成果主義の導入(人件費に歯止め)
:職能資格制度は年功序列の象徴、
成果主義は実力主義の象徴と言う短絡的論調
:やる気の阻害、協働の阻害、長時間労働
・非正規社員の生み出した光と影
:企業の光:変動費化、調達スピード、専門職採用、正社員の仕事定義明確化
:労働者の光:雇用数の増加
:影:賃金格差(新しい身分)、正社員中心のルール、若年層への教育訓練
・株主重視によるリストラ
長い歴史の中で「いま」を考える
・過去の不況から学ぶ
:昭和恐慌(1930)非正規社員切りをすると、その後復活できない
大企業の新卒抑制→他企業の新卒採用→新卒一括採用
:オイルショック(1973)労使協調の雇用調整→世界が絶賛(失業率2%)
:円高不況(1986)生産拠点の海外移転。大企業の中途採用(専門職)
:バブル崩壊(1993)年功序列型賃金の崩壊。自律と自己責任。
雇用構造の3層化と雇用調整の現実
・3層化した雇用構造での雇用調整
:1987:正規社員80:常用非正規7:臨時非正規+派遣は13
:2007:正規社員65:常用非正規22:臨時非正規+派遣は14
常用雇用は変わっていない。常用非正規を切ると業務が回らない。
・ワークライフバランスの影響
:労働時間が減り、残業調整の幅が減った。
・企業経営者が今回の不況で口をつぐんだ理由
:雇用調整の方法は1残業抑制2配置転換3休暇増加4解雇5採用抑制
しかし、選択肢は4、5しかなくなっている
2章 反論:3つの不思議:マスコミ報道が不安を拡大させている
なぜ直接雇用を作りだろうとするのか
・繰り返される類似策
:失業対策事業:短期雇用、モラルハザード
:産業政策:人材ミスマッチ
・雇用を発掘するということ
:求人は潜在化するので、これは有効。
・食を日本の強みに
:求人が多く、6次産業という横断視点で求人開拓が有効
なぜワークシェアリングにこだわるのか
・フォルクスワーゲンのワークシェアリング
:ほとんど唯一成功事例。
・オランダモデルの誤解
:男性は7〜8割の労働時間と収入。就業率の低い女性の就業→世帯収入は1.5
:周辺国より賃金が安く、複数言語を話せるため仕事増加
・ワークシェアリングの誤解
:日本は既に年間1800時間。サービス残業を減らすことが課題。
:日本に合う先進事例はない。
:育休期、シニアへのシェアはあり得る
ほんとうに新卒氷河期なのか
・根本的に底堅い
:過去最低は2000年の0.99倍。
:2009年の内定取消者1155人。就職者38万人の0.3%
:バブル期の採用抑制のしわ寄せが教訓に。安定的に採用。
・一括採用の意味
:効率的に大量採用。コア人材を作る方法として優秀。
人材投資(採用と活躍の時期のズレ)。継続により採用力向上。
・一括採用は批判はあるが
:若年失業率を低く抑え、企業の人的資本協会に貢献。
:学業と就業の問題は悩ましい→4年の春休み、4年の夏休みに集中は?
3章 身近な視点から雇用問題を考える
いま企業にできること、やってはいけないこと
・下り坂のテクニック
:アクセルを踏むこと。:リストラの正当化をしないこと。
いたずらに制度をいじらない。
・人材育成で底力をつける
:育成の好機。1現場に時間ができる。今の人材を育てつ必然性。
・ピンチとチャンスの混合
:不況期は人材採用、企業買収のチャンス。
職場のマネジャーに求められること
・非正規社員マネジメント
・ダイバーシティマネジメント
:女性、外国人、業務委託、非正規など
・3つの要素
:説明能力向上、コミュニケーションの活性化、メンタルヘルスのケア
・マネジャーにできること
:高いマネジメント能力を身につけること
自分のキャリア・リスクと向き合う
・3大リスク
:所得低下、能力停滞、意欲喪失
・初めての仕事に就く時の雇用形態
:4割が非正規。所得と教育機会を失う。
:後輩がいない職場で働く→専門性、リーダシップの欠如
・転職先を決めてから辞める
:退職以前に決めている人は20%。
・継続して学ぶ能力
・若い時のリスクに対しての誤解
:大企業=倒産しない?
4章 知識:雇用対策の3本柱を知っておく
雇用保険にできることできないこと
・雇用保険とは何か
:失業給付、失業者への能力開発、雇用安定の特別会計
・失業者の7割は失業給付をもらえない
:アメリカ6割、カナダ、イギリス5割、フランス2割、ドイツ6%
:失業率の高い非正規雇用向けの第二雇用保険が必要
:非正規向けの不安定雇用手当て:支払い総賃金の10%を退職時に支払い
職業訓練、これからの課題
・誤解の6つのポイント
:主体者:国と都道府県、だぶりもある
:費用負担:国は企業が賃金の0.3%を負担。地方は国助成と単独予算
:中身:公的機関は設備が必要な施設内訓練。他は委託訓練。
:受講者:失業者、学卒者、在職者(受講料を払う)
:規模:2〜30万人(失業者比では少ない)
:成果:6ヶ月の施設内訓練では 1人81万 で就職率82%。
・誰が職業訓練を担うのか
:本来は国に集約すべきだが、引き続き分担。
・サービス業の職業訓練
:現在は製造業中心。サービス業への人のシフト支援が必要。
・ものさし整備が重要
:イギリスのNVQ(国家職業能力評価基準)
雇用助成金、どこまでやるのか
・雇用助成金とは
:事業縮小時に対象者の給与の一部を補填
:人材を塩ずけにし、特定業種を守っているケースもある
5章 残された中長期の課題
正規社員と非正規社員の格差問題
・所得格差の拡大
:所得再配分後のジニ係数は0.39で少し格差がある
:原因は正規、非正規問題
・新たな貧困層の出現
:日本の総体貧困率(中位の50%以下)は13.5%でアメリカに次ぐ規模。
:所得200万円以下の大半は主婦のパートタイマーである事実も忘れてはいけない
:ネットカフェ難民は5000名規模に過ぎない
・同一労働同一賃金への取組み
:かなり遅れている
・パートタイマー
:短時間ではなく身分を表す言葉になっている→フルタイムパートタイマー?
・格差を固定させないために
:非正規→正規の道筋を作ること
:若年時フリーターは企業内教育を受ける機会がない
・重要なのは正社員制度改革
:正規社員の多様化。常用非正規の社員化:地域社員、職域社員など。
→条件なし無期雇用、条件あり無期雇用、有期雇用へ
ミドルとシニア
・考えるべき年齢層
:若年層が減り重要度は上がるが、ボリュームはミドルとシニア。
:ミドルが期待に応えられていない;経験不足と重すぎる負担。
・転職できない構造
:年齢の壁と企業内で塩漬けの可能性。
・プロへの道、リーダへの道
・女性ミドルが活躍する社会
:若い世代から計画的に行う必要性がある。
・シニアを活かす
:ミドル期の活躍がシニア期のキャリアの活躍へ
・定年延長と再雇用
:シニアの希望の職種開発:命令されず、短時間、ノルマなし、経験が生きる
・新しい働き方
:NPO、共同事務所などなどの開発が必要
派遣について考えなければならないこと
・派遣とは何か
:一般型派遣と常用型派遣がある
:派遣で働きたい人、派遣をステップに正社員になりたい人、他になかった人は
・派遣会社の5つの役割
:マッチング、職業訓練、交渉代理、RPO(調達代行)、雇用創出
・派遣先責任
:派遣先も雇用主としての責任があるが、認知が低い
・派遣へのまなざし
:派遣は一時就業だと思われているが、派遣の働き方を好んでいる人もいる。
:同一職種同一賃金をすべきである。
さいご 個人的なセーフティネット構築の勧め
:個人年金や貯蓄、家族・知人のネットワーク、社会保障の知識、どこでも通用する能力をつけるための学習など
:雇用構造は大きく変化した。ただ、他国比較では世界で最も良い水準にはある。
▼前回のブックレビューです。
▼新著『業績を最大化させる 現場が動くマネジメント』です。
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