歩くのが、少しおそい
旅館に住み込みで働いていたことがある。山の上にある治癒場で、旅館から迎えにくるキャタピラ付きの雪上車に乗らなければたどり着けない場所にあった。そこで僕はあるノンフィクション作家の女性と話したことがある。雪に閉ざされた二月のことだ。その日は夕方から強く吹雪いており、毎晩開催される星空観測会も中止となった。仕事を上がった僕は風呂上がりにロビーの暖炉前で蕎麦茶を啜っていたその人に声をかけられた。夕食時に僕が配膳を担当したことを彼女は覚えていたようだった。どうしてここで働いているの