中野真

第4回ブンゲイファイトクラブファイター

中野真

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  • 小説まとめ

    日記と小説が入り乱れてるのでまとめました。よかったらのぞいてください。

最近の記事

対向車

BFC5選考ありがとうございました。 ブンゲイファイトクラブは小説を書くのって読むのって小説のおはなしをするのって楽しいなあやっぱり好きだなあって思い出させてくれる特別なイベントです。 それから、小説がうまくなりたいなあって1番思う場所です。うまいのがよいのか、よいのがうまいのか、小説の優劣って、なんか難しいですけど、でもやっぱり、いい小説ってあって、いい小説を書きたいと思って書くのはどうなのかわからないけれど、でもいい小説が書きたいって思うし、良くも悪くも欲が出る。なんて

    • 100%カツルくん

       朝起きるとカツルくんはホールへ行く。ホールとはパチンコ屋のことだ。ただしカツルくんが打つのはジャグラーというスロットである。パチンコはあまり打たない。金がないからだ。カツルくんは一日二千円までしか使えない。これはかなり厳格なルールであった。二千円でパチンコをしても仕方ない。カツルくんは昨夜目星をつけていた台を確保することができた。頭上のデータを確認し、よしよしと頷く。ジャグラーが千円でペカる確率は20%と言われている。カツルくんはジャグラーを打ちたい日の前日夜十時ごろ、コン

      • センサーライト・プラネット

        センサーライト・プラネット  月まで四億九五七七万六一〇一歩。そんな落書きが町に増え始めたのはいつ頃からだろう。去年の今頃にはなかったはずだから、ここ最近のことなのかもしれない。深夜の町を歩きながら私は、どこからでも同じ歩数を書き殴る誰かを探していた。いや、探してはいない。ただ落書きを辿り、会えたらいいなとぼんやり思っていただけだ。  工場の裏手を歩いているとき、人感センサーのライトに照らされた。一瞬、光の中で何も見えない。けれど脳裏では、暗闇の中に私だけが浮かび上がる姿が

        • 愛称

          イグBFC2参加作 愛称 彼女は私のことを「コンタックエネミー」と呼ぶ。説明したほうがいいと思う。まず私は「まこと」という名前であり、付き合い始めた当初は「まこさん」と呼ばれていた。彼女は六つ年下であり、それなりに年上として敬われる呼び方をされていたわけである。しばらくするとお互いに甘えだした私たちは「ここさん」「みーちゃん」と呼び合うようになった。彼女の名前は「あみ」である。ここさんと呼ばれ始めてすぐ、いつの間にやら「こたろ」と呼ぶようなっていた彼女に気づき、すぐさま私も

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        • 小説まとめ
          33本

        記事

          渋谷

           もぐらが自分の寝顔を見たのは初めてのことだった。友人に教えられた豪人のインスタにその寝顔は投稿されていた。りそな銀行を背後にしたもぐらは足を蛙のように開き腕組みをして悩ましげな表情で地面に転がっていた。その時の自分がどんな夢を見ていたのか、もちろんもぐらには思い出せなかった。おそらく借金返済について深遠なる思考を繰り広げていたのだろう。この頃見る夢といえばたいていが金がらみだった。  その夜ももぐらは渋谷駅近くの居酒屋で百円のビールを胃に流し込んでいた。しゃぶしゃぶのビール

          文舵練習問題④問1

           結局顔なのねって華さんは鏡越しに笑った。右の頬に笑窪が浮かんで僕は吸い寄せられるようにそこを見つめるけれど鏡越しだからそれは本当は華さんの左頬にあるんだ。すきバサミが鏡の中で軽やかに踊って「相変わらず髪多いね」ってまた笑窪。鏡の中に黄色い花が咲いたみたいな気持ちになって意味わかんないよなーとか頭の中で呟いて。「今から減り出したらやべーでしょ」っていうと別に面白くもないのに華さんは手を叩いて笑う。大口開けて笑うから鏡の中の白い歯に太陽が反射して目の奥を刺す、なんてことはなくて

          文舵練習問題④問1

          #文舵3-1(追加問題) 言葉遣い変えてみるやつ

           ドア前でさき靴ぬいでビビりながら鍵まわす。中で音せんかよう確かめる。隙間からちょいと覗いてルート確保。ようこんなワンルームでふたり暮らしとるわ。ひょいと滑り込んで靴置いて目を慣らしたる。気づかれんとソファーまでいきゃ勝ちや。前みたくバスマットにひっかからんようにせんとな。ちと窓際のベッドの敵さんをチェック。動きなし。いけるな。相変わらずよう寝とるわ。ひょひょいとソファーまでいってケツを着地。こっからが難儀や。音せんよう寝転がらなあかん。腰、脇腹、肩、それから耳とつけて小休止

          #文舵3-1(追加問題) 言葉遣い変えてみるやつ

          #3-2 長短どちらもー長文

           あの圭介が意地になってそんなことを言い張るなんて家族のうちの誰も想像していなかったが、ただでさえ去年はハワイの式場をキャンセルしていた経緯もあって、兄と弟はいつも頼れるこの次男坊に「やめとけ」とはあまり強く言えず、塾をしている母親だけがさすがに無理だと諫めたけれど、向こうの親へのメンツもあってか息子はどうにも耳をかす気がこれっぽちもないとみたので、小さなチャペルを貸し切ることでなんとか最低ラインはクリア、画面もクリア、これはこれでよかったのかも、それなムービー記念になるし、

          #3-2 長短どちらもー長文

          #3 短文と長文ー短文

          練習問題3 問1 靴を脱いでからそっと鍵を外す。息を吸い、三つ数える。ドアノブの可動域を確認する。どこにも無理をさせないようそっとドアを開く。外の明かりを入れ過ぎない。瞬時に部屋の状況を把握する。ワンルームなので簡単だ。隙間から身を忍ばせる。ドアを閉じるとしばらく暗闇に目が慣れるのを待つ。靴を置き、中央のソファーベッドまで進む。途中のバスマットに足をとられないように。ここから先は細心の注意を要する。闇の中、窓際のベッドを凝視する。家主の規則的な寝息を五回数えた。衣服まで制御下

          #3 短文と長文ー短文

          #2 句読点のない語りをやってみる

           コーヒーサーバーを掃除していた女の子が腰を抜かしたまま目の前すれすれまで迫ったバンパーを見つめひっとしゃっくりをひとつしたあと強く握りしめすぎた右手を無意識にひらき圧し潰されていたスポンジが場違いに飛び出すのを見てもう一度しゃっくりをし「大丈夫ですか!」とバックヤードから駆けつけた青年が目の前の惨状にいっとき動きを止めながらもとにかく彼女を安全な場所まで運ぶことを優先したのか足元に散らばったゴミを蹴飛ばしながら駆け寄りそっと女の子を抱き起こすところまでを運転席の男はただ呆然

          #2 句読点のない語りをやってみる

          #1-2 動きのある場面をひとつ

           きい、といつもはたてない音をたてる扉。把手から離れる指先がひやりとする。誰もいない。誰もいないことを確かめるため、私は暗闇にむかいそっと手を伸ばした。過敏になった指先が家と外との境界を感じ取る。ぬるりと外の空気に触れる。死角から掴みかかってくる腕なんか、当然いない。耳鳴りがしそうな静寂の中へ私は静かに降り立った。サンダルが砂利をねじる音が鋭く響く。砂を噛んだような不意の不快感に眉をすがめる。不安を押しつぶすように息を吸い込み、さっきまでしきりに鳴り続けていたドアベルを見る。

          #1-2 動きのある場面をひとつ

          #1-1 文はうきうきと

           この島の名前をおれたちはまだ知らないしこれから先も知ることはないかもしれない、というのもはっきりいって遭難してるしそんなことより喉が渇いた。だというのにリュウのやつさっきからそればっかり気にしてててんで役に立たない。まるでそれがわかりさえすればここからどうやって家まで帰るかわかるとでもいうように腕組みしたままぶつくさいってる。キヨシとおれは必死でなにか使えそうなものを探してるんだけどなにを探せばいいのか正直いってわかっていない。そういうわけでおれたちは結構いらいらしていたし

          #1-1 文はうきうきと

          キャリーグラス

           強い光に驚いて瞬間的に覚醒する。何もかもが鮮明に見え、それはむしろ現実感がなかった。先生が何か話している。やがて言葉が聞き取れるようになった。 「トイレは済ませましたね」  はい、とあなたは応える。時計を見る。待ち望んでいた日が来たことに、期待と不安がない混ぜに立ち上った。 「よろしくおねがいします」  振り返るとレモン色のワンピースを着た詩織が頭を下げている。大きくなった、といえるほど離れていたわけではないはずだが、そう思った。あなたは少し目をそらし、同じように頭を下げ返

          キャリーグラス

          月は太陽の夢

           光の中に浮かんでいるようだった。青井はなじみの居酒屋の二階で寝転がり、顔に水の入ったビニール袋を乗せていた。まだ頭が回っている。階下で響くもぐらの笑い声に胃が収縮する。目をあけていたかった。微睡むには意識がはっきりしすぎていた。ただ体の自由だけがきかない。重い腕を伸ばし、散乱する光を遮ろうとする。光は手のひらを回り込み、青井をいつまでも包み込んでいた。身体が溶けてなくなるようなぬるい安堵を覚えた。  青井がもぐらと出会ったのは土曜会という同人雑誌の合評会だった。毎月第二土曜

          月は太陽の夢

          ブルーアント

          1 虎吾カン 
 ガラスの水槽を上から覗き、走りまわる黒いぶつぶつを眺める。あっちへ行ったりこっちへ行ったり、そんなに急いでどこへ行く。
 「健気だなあ」 
 ぼくは、あくせく働く彼らを見ては、時間を忘れ水槽の前に座る。返事もしないのに話しかけてみたり、コンコンとケースの壁を叩いてみたり。水槽いっぱいに入れた土のなかへ伸びる巣は漫画の吹き出しのような部屋を作りながら下へ下へとトンネルが分かれる。それぞれの部屋は食料を貯めておいたり、子ども部屋になっていたり、休憩をする部

          ブルーアント

          武装メイク

           人生つまんないなと思ったら渋谷においでよ。    死のうと思いロープを探している時に私はそのギャル雑誌を見つけた。母が押し入れにとっておいたものだろう。ロープは見つからなかった。ワークマンへ行きロープはどこかと尋ねる。店員は首を振り、百均とかなら売ってんじゃねとかいう。私の命はその程度かと思うと虚しくなり帰宅する。空き巣に入られたように散らばった部屋の中で、今朝放り投げたギャル雑誌が目にとまった。  ページを開くと「武装メイク」という言葉が飛び出してきた。メイクによっ

          武装メイク