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BFC5選考ありがとうございました。 ブンゲイファイトクラブは小説を書くのって読むのって小説のおはなしをするのって楽しいなあやっぱり好きだなあって思い出させてくれる特別なイベントです。 それから、小説がうまくなりたいなあって1番思う場所です。うまいのがよいのか、よいのがうまいのか、小説の優劣って、なんか難しいですけど、でもやっぱり、いい小説ってあって、いい小説を書きたいと思って書くのはどうなのかわからないけれど、でもいい小説が書きたいって思うし、良くも悪くも欲が出る。なんて
センサーライト・プラネット 月まで四億九五七七万六一〇一歩。そんな落書きが町に増え始めたのはいつ頃からだろう。去年の今頃にはなかったはずだから、ここ最近のことなのかもしれない。深夜の町を歩きながら私は、どこからでも同じ歩数を書き殴る誰かを探していた。いや、探してはいない。ただ落書きを辿り、会えたらいいなとぼんやり思っていただけだ。 工場の裏手を歩いているとき、人感センサーのライトに照らされた。一瞬、光の中で何も見えない。けれど脳裏では、暗闇の中に私だけが浮かび上がる姿が
僕のおうちは温泉旅館。お父さんは四代目なんて呼ばれててかっこいい。僕が継いだら五代目になるみたいだけど、四代目の方がカッコいいからなんかずるい。旅館は山の上にあるんだ。カラマツに囲まれたくねくね道をスキー場まで上がったらもうちょっと。そこから先は不思議な三角のタイヤで雪の上を登っていく。雪上車って言うらしい。朝早く起きるとね、山の下の街はもくもくの雲に覆われて沈んでしまうんだ。お父さんは雲海って呼んでいるけど、僕はわたうみって言う方が好き。だって、大きなわたあめみたいでね、
本文縦書き 本文横書き 工場長は星鳥予報士の資格を持っていた。ただし私はどんな形であれその資格というものを見たことはなかった。 「僕が地球に来てもう五十年になります」 工場長はそう言うがどう見ても三十台後半以上には見えなかった。私は髪を白く染めることを提案した。工場長は悲しそうに首を振り「それはもうできないのです」と言った。 「この星に来た時に私は地球人に擬態しました。そのときにそういった能力は失ってしまったのです」 何も本人の擬態能力だけで髪を白くしろと言ったわけでは
僕の左手がかえってきた。散々殺菌された手はひどく他人行儀に振る舞っていた。アイデンティティを漂白され限りなく物に近い何かになっているように思えた。そのせいで逆に僕の体の一部としては異質の存在となった。 高校を卒業し、僕は地元の大学へ、未羽は東京の大学へとそれぞれ進学した。寂しがり屋の彼女は東京へ僕の左手を持っていった。未羽はそれで安心し、僕はそれを感じ安心した。 「ほんとキス魔だよね」 「そうかな」 初めて東京のアパートへ泊まりに行った日、そんな話をしたこと
六枚道場001に参加させて頂いたものを書き直しました。 いろいろ蛇足のような気もしないではないがきさめさんの後押しがあったのでアップしました。 改めて稿を重ねるごとに研ぎ澄ましていくプロの作家さんたちってすごいなあと思いました。 良い小説ってのがなんなのかわかるようにならないとなあ。どうすれば良いのでしょうかね。読んで、書いて、また読んで、また書くしかないのかな。 一歩一歩とか、コツコツとか、口で言うのは簡単だがなあ。せっかちでいけない。まあ、楽しんでいこう。改め
カタチなくとろけてゆくものをチーズと呼びアイと呼ぶ。ただし彼女はナスと呼ぶ。ナスにはカタチがありとろけない。カタチなくとろけるものはチーズであり、アイはナスである。道端にナスが落ちていた、と始めてもよいのだろうか。どうして道端にナスが落ちていたのか、僕には今でもわからないのだけれど。ましてやアイが落ちているなんてことは。 道端にナスが落ちていた。 「アイが落ちてる」 手を伸ばす彼女を制止しナスを見た。 「どうしたの」 彼女の瞳に少し動揺したが、誰かの愛に気安く触れ
『肩パン』 中ニの夏頃、スリッパの裏を一部くり抜いて壁に飛ばし破裂音を響かせる遊びの次に流行ったのが肩パンだった。肩パンは単純な遊びで、ただお互いの二の腕をグーパンチで殴るだけのこと。それを繰り返し喜び合う波は陰キャの僕たちのもとまで押し寄せてきた。 殴り殴られ続けた僕らの右の二の腕はやがて肥大化しカッターシャツの袖が通らなくなったので男子生徒のほとんどが右の袖だけノースリーブになった。 小池はクラスで唯一のサウスポーとして左の袖を破っていたのでたちまち女子たちに
もともと書こうとしてたのは上のやつのようなことでした。 (以下本文横書き) しんどいのは嫌いだ。中学に上がった時、サッカーはもう辞めようと思っていた。練習が嫌いだからだ。けれど親も友達もみんな僕がサッカー部に入るものと思い込んでいたので僕はそれを裏切れなかった。スパイクやウェアだってそう安いものではない。僕の持っている服と言えばサッカー用のジャージか制服しかなかったのだ。高校に入学したての頃、軽音楽部の見学へ行った。僕はギターを手にしたこともなかったけれど「階段途中
ロックスタイル阿波踊り「スダチのトキ」の演舞が終わった。最後の和音が耳の奥で熱を持ち続けている。これで温泉アイドルも引退か。いや、まだ接触イベントがある。気を抜かず笑顔でやり遂げよう。決めポーズのまま肩を揺らす僕の尻を翼が強く叩く。汗まみれの顔に涙を浮かべている。翼も老けたなあ、と僕は吐息を漏らした。聞こえてくるのは満場の拍手、というわけではなかった。まばらな宴会場の多くを占める若者たちはスマホでもっと面白いものを見ている。それでも最前列の和子さんの涙を見ると、やりきったと
ねれないね。コーヒーでものむ?余計ねれないよ。じゃあレモネード。僕はホットミルク。あたし牛乳嫌い。しってるよ。 やかんを火にかけマグカップをふたつ用意しキッチンにもたれスマホをいじっている間にユズは寝息をたて始めた。やかんの蓋がおかしそうに震える。火を消して湯気をたてるやかんを放置し牛乳を注いだマグカップを電子レンジにかける。レモネードの粉末が入ったマグカップにはラップをして、どうしようもないなと思う。どうしようもなく苛々する。理由はない。目の前にはない。うまく説明
旅館に住み込みで働いていたことがある。山の上にある治癒場で、旅館から迎えにくるキャタピラ付きの雪上車に乗らなければたどり着けない場所にあった。そこで僕はあるノンフィクション作家の女性と話したことがある。雪に閉ざされた二月のことだ。その日は夕方から強く吹雪いており、毎晩開催される星空観測会も中止となった。仕事を上がった僕は風呂上がりにロビーの暖炉前で蕎麦茶を啜っていたその人に声をかけられた。夕食時に僕が配膳を担当したことを彼女は覚えていたようだった。どうしてここで働いているの
(以下本文横書き) 彼女できたらパチンコやめる、と森さんは言っていた。パチンコを続けている間に彼女ができることはなかった。しかし今月、極端に負け続けたことをきっかけにパチンコを辞めざるを得なくなると彼女ができたらしい。因果を逆転させるんや、と森さんはドヤ顔で言った。 「つまりパチンコやめると彼女ができると」 「そういうことになるな」 「もともとやってない僕は?」 「まず始めるとこからやな。教えたろか?」 「やめたんじゃないの」 まあまあ、と森さんは急須からお茶を注ご
かぐやSFコンテスト落選作です。 テーマ「未来の学校」