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かほる

リゴレットー永遠かどうかなんて、死ぬまでーいや死んでもー自分にはわからないことかもしれない。それでも、忘れられないーというより、長いときが経っても思い出してしまうー夏がある。鮮やかに、でもモノクロのまま、記憶に蘇ってくる夜がある。

自分が生まれたあとの日本しか知らない。日本の夏しか知らない。日本の夜しか知らない。でも、日本の夏が好きだ。日本の夜が好きだ。

君はいつまでそこにいるのだろう。私はいつまでそこを見つめているのだろう。

同じ匂いだ。同じ濃さ、同じ香り。いつものように川沿いを走り込み、クールダウンしているときだった。とっくに夜の七時を過ぎていた。それでも夏がやってきた足音がして、空はまだピンク色。
同じ匂いだ。なんとなく瞳を閉じ、鼻の奥に意識的にその夜を吸い込む。バーベキューや花火のような、夏の匂いが色とりどり混ざった、生ぬるい香。排気ガスが加えられて濁っている。その濁りさえ、私には甘い。
同じ匂いだ。夏はもう何度も繰り返してきたはずなのに、その匂いは、私をあの日に連れ戻す。

最高の夜だ。あの日が私にとって最高の夜だ。
君は笑っていた。私も笑っていた。君は少し真面目な顔をした。私もけっこう真面目な顔をした。君の背中を見ていた。君の横顔を見ていた。君は…君が何を見ていたのか、私にはわからない。そうだよね。
魔法のような夜中の2時に、魔法のようなお酒を飲んで、魔法のような食事をした。もどかしくて愛おしい感情の渦に包まれて、その中で微笑んでいた。二人とも、幸せだった。
翌朝、私はお腹を壊した。魔法のような夜が去った副作用なのか、生まれて初めて飲んだウヰスキーのせいなのかはわからない。それでも、舌にやけどを負った苦くて不味い珈琲の味も、ひきちぎれそうな胃腸の悲鳴も、あまり思い出せない。あんなに幸せな眠気は、他にどこに転がっているだろう。

帰宅してすぐに仕事のためにパソコンを開き、何の気なしにスクリーンの右下隅にふと目をやる。あぁ、私の鼻は…脳は、間違っていなかった。キーボードにハンカチを添える。夏は君、あの夜は今。

君だけに見せた表情、君だけに聴かせた声、君だけに与えた温もり、君だけに贈った言葉。取り戻すことは永遠にできなくて、でもそんなことはちゃんと心得ていて。ただ、気付くのが遅くて。もう二度と願望で終わることのないように。そう願って、大切な人を大切にしようと一生懸命に今を生きている。

あの夜は、あの夏は、

君と同じ匂いだ






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