見出し画像

矢代と百目鬼の未来が描れている!?『囀る鳥…』前日譚「Don't stay gold」

『囀る鳥は羽ばたかない』の感想・解釈を述べるにあたって、まず、前日譚「Don't stay gold」について取り上げたいと思います。

本編の前に挿入された、わずか44頁のエピソード。
前日譚ということで、登場人物の紹介や、プロローグ的役割なのかと思いきや、本編へ繋がる大きな役割を果たしていることに驚きました。

この短いエピソードに、いったいどのような意味が隠されているのか、これから私見を述べていきたいと思います。
非常に長くなりますが、ゆる〜とお付き合いいただければ幸いです。



これほどまでに、読み返すたび印象の変わる前日譚があろうか。
また、これほどまでに本編に大きな意味を与えている前日譚があるだろうか。
たった44頁なのに!

無駄なものをすべて排除し、濃縮に濃縮を重ね、この物語における核心を前日譚としてサラッと描き出す、ヨネダコウさんの才能に舌を巻いてしまった。

結論から言えば、「Don't stay gold」(以下、ドンステと呼ぶ)には、以下の3つの役割があると解釈する。

1.矢代が百目鬼に惹かれるための前提条件を満たす役割
2.影山がなぜ矢代を選ばなかったのかを暗に示す役割
3.矢代と百目鬼の未来を予見させる役割

具体的に1点ずつ、私なりの解釈を述べていこうと思う。



【1.矢代が百目鬼に惹かれるための前提条件を満たす役割】


こちらは、1度目に読んだ時の私の解釈である。

ドンステでは、矢代の想い人が影山だという描写はいっさいない。
矢代をきっかけとして出会った影山と久我が、矢代の計らいにより恋人関係となるまでが描かれているだけだ。

しかし、本編に入ってから、読者は気付く。
高校生の頃から現在に至るまで、矢代は影山にずっと惚れ続けていたということを。

つまり、『囀る鳥は羽ばたかない』本編は、「矢代の失恋」からスタートしているのである。
そして、傷心の矢代の前に現れたのが、どこか影山の面影をやどした百目鬼。
高校時代の影山に似ている(1巻88頁)との矢代のセリフもある。 

影山を(恋人の対象として)失った矢代が、(自分が惚れた頃の)影山に似ている百目鬼に惹かれる土台が、前日譚で整えられていたわけだ。 

逆説的に言えば、もし失恋をしていなければ、高校時代からずっと一途に影山だけを想い続けてきた矢代が、いくら影山に似ているからとはいえ、百目鬼に惹かれる可能性は皆無だっただろう。

つまり、前日譚は「惹かれ合う矢代と百目鬼」を描くための前段階として、必要不可欠なエピソードとなっているのである。


【2.影山がなぜ矢代を選ばなかったのかを暗に示す役割】

こちらは、現時点で刊行済みである9巻まで読了し、再度読み返した時の解釈である。

影山がなぜ矢代でなく久我を選んだかについては、現時点では明らかになっていない。

また、本編において影山という人物については、心中思惟の描写が極端に少なく、謎が多い。
しかし前日譚においては、本編ではあまり触れられない影山の心中思惟が、多く語られている。
これは、ヨネダコウ先生が意図的になさっていることなのだろう。

医者の家庭に生まれ、一見恵まれた家庭環境に思える影山が、どうして「火傷跡やケロイド」に異常な執着を見せるのか、この種明かしが今後あるのかも興味深いところである。

さて本題に戻り、高校時代、矢代の体に何度も触れていた影山が、なぜ据え膳状態だった矢代とは肉体関係を結ばず、その一方で久我とは肉体関係をもったのか。
現時点の本ストーリーではその理由について触れられていないが、前日譚ドンステと、矢代&影山の高校時代を比較してみると、その理由が薄く透けてみえるのである。

以下に比較表を示した。

比較表

こうやって並べて比較すると、影山は久我に「高校時代の矢代」の面影を重ね、矢代と境遇までも似ている久我に惹かれたのではないかと思える。

そして、影山が矢代を選ばなかった理由は、「キラキラしすぎてて自分には手に負えない」と思い、「惚れちまいそうだったから(その想いから)」逃げて、「俺はお前が大事だ。親友として」と、ある意味理性で自制することで、矢代との距離を保ってきたと仮定できるのではないか。

実際、影山は久我に対しても、矢代と同様に肉体的な距離を取ろうとした。
しかし、皮肉にも矢代が影山の「惚れちまいそうな想い」をアシストしてしまった。

この解釈が正しければ、矢代と影山は実は両想いだったにも関わらず、それは実らずに終わり、その燻ぶる想いから「互いの形代」として、それぞれ百目鬼と久我に惹かれたのではないだろうか。

しかし、強く主張したいのは、そういうきっかけで無意識に相手に惹かれたにしろ、本編においては両者とも、百目鬼に対しても久我に対しても本気惚れになっているのは確かだろう。

そして、おそらく影山にとって矢代は、今は「恋人以上に大切な家族同然の」存在となっているはずで、そこには「惚れた腫れた」のレベルではない深い深い絆があると見ている。(そうでなければ、影山のためにヤクザになった矢代があまりにも報われない)

そのことが、百目鬼の無償の愛と共に、後々、矢代の魂の救済へと繋がることを切に願うばかりである。


【3.矢代と百目鬼の未来を予見させる役割】


こちらは3度目に読んだ時に、ふと思い至った解釈である。

2で前述した通り、「矢代・久我」「影山・百目鬼」それぞれの共通点は多い。
大きな類似点を箇条書きすると、以下のようになる。

【矢代・久我の類似点】

  1. 幼少期に虐待を受けていた

  2. ヤクザになる気がない(なかった)

  3. 綺麗なルックス

  4. ヤクザから執心されている(矢代は三角から・久我は矢代から)

  5. 勝手にアパートを解約されて拉致された(同上)

  6. コツコツ借金を返そうとする生真面目さ義理堅さがある

  7. 恋愛対象は男だが、一度惚れたら一途にその相手を想い続ける

その一方で、相違点もある。

久我はバージンで身持ちが固かったこと、そして久我は矢代よりも自己肯定感が強く、矢代ほど精神的に脆くないという点である。(久我は自傷行為を行っていない)

そして、これが最も大きな違いだと思うのは、
「矢代は影山と同級生であるのに対し、久我は影山よりかなり年下である」こと。

高校時代の矢代を守るには、同級生の影山はあまりにも未熟だった。
しかし、久我と出会った頃の影山はもういい大人のオッサンであり、久我を包み込む包容力も強さもすでに身につけていた。

これらの相違点がどういう意味を持つかは、後ほど詳しく述べたいと思う。


では次に、影山と百目鬼の共通点を挙げていこう。

【影山・百目鬼の類似点】

  1. 元々ノンケで、久我・矢代以外の男とセックスした経験がない

  2. 精悍なルックス

  3. 基本的に無表情

  4. (矢代・久我にとって)好みの顔

  5. (矢代・久我から)かわいいと言われることがある

1に関しては、影山も百目鬼も男が好きという理由で久我・矢代に惹かれたわけではなく、そういう性的嗜好を飛び越えて相手に惚れたと言える。

つまり、矢代の「人間に惚れたのは後にも先にも一度だけだ(1巻88頁)」という感情と同様なのだ。
これは、影山が久我を、百目鬼が矢代を守り救う存在となり得る大きな要素となっているのだろう。

以上のように、「矢代・久我」「影山・百目鬼」それぞれの共通点は多い訳だが、ここに「矢代と百目鬼」が「久我と影山」のように結ばれるためのヒントが隠されているように思う。

「わかってんだ。俺みてぇなのが堅気なんて無理なのも(ドンステ19頁)」と呟いていた久我が、影山という恋人を得ることで暴力的な面がなくなり、堅気の仕事をし堅気の生活を送っている(9巻189頁)。

これは、矢代が百目鬼を恋人として受け入れられる時が来れば、そのことが矢代の人生をヤクザから堅気へと引き戻す契機となることを暗に示しているのではないか。

しかし、上でも述べたように、高校時代の影山と同じく、百目鬼は矢代を守るにはあまりにも若かった。
また嘘が下手で不器用で、6巻までの百目鬼では、矢代を救い守るには未熟すぎた。

それは百目鬼も痛いほど自覚しているはずで、だからこそ、矢代から捨てられてから7巻までの4年間が必要だったのではないかと思う。
精神的にもヤクザとしても、強靭な力と強かさを身につけたのは、ただただ矢代を守り救いたいという一途な想いのため。

そして、矢代自身もこの4年で「百目鬼以外の男とでは性的快感を得られない」体となっていた。
これは、バージンのまま影山と結ばれた、身持ちの固い久我と重なる。

つまり、まとめると、前日譚ドンステで描かれた「久我と影山」のラブストーリーは、今後の「矢代と百目鬼」の展開を予期させるものとして描かれているのではないかということである。

ドンステから推測される、矢代と百目鬼が結ばれるための条件は
①矢代が他の男とセックスしない(身持ちが固くなる)
②矢代が自傷行為をしなくなる(トラウマを克服する)
③百目鬼が矢代との年齢差を超越するくらい頼れる大人の男になる

①と③に関しては、9巻の時点でかなり王手に近付いていると思う。

残すところは②の問題になる訳だが、これは『囀る鳥は羽ばたかない』という作品の根幹にして最大のテーマであることは間違いないので、きっと今後丁寧に「矢代のトラウマが昇華される」過程が描かれていくのだろう。

そして、矢代と百目鬼の未来は、前日譚「Don't stay gold」のようにハッピーエンドになると、私は強く強く信じている。


以上、3回ドンステを読んだ、独断的な解釈・感想を述べて参りましたが、4回目にはまた新たな発見があるかもしれません。

その際には、またノートに記したいと思います。
長い長〜い文章を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!

※新米腐女子なため、先行研究・先行考察・先行書評に目を通せておりません。こちらには独断的な解釈・感想を述べているだけですので、ご了承くださいませ。
※これは私の独断的な解釈で、ヨネダコウ先生がこのような意図を持って描いたと断定するものではありません。

#囀る鳥は羽ばたかない #前日譚
#Don'tstaygold  #ドンステ #BL

いいなと思ったら応援しよう!