reborn 番外続編 天音翔
2024年3月です。
3月も半ばを過ぎて、春野菜が目を引くようになりました。
今日は、久しぶりに亮平さんと、家で食事です。
昨日のうちに、材料は買いそろえておいたので、余裕です。
今日のメニューは、筍ご飯と、根三つ葉のおひたし、あさりの味噌汁、天ぷらは、菜の花,筍、人参、鶏ささみにしました。
ふだん外食の多い亮平さんを気遣ってのやさしいメニューのつもりです。
同居しているのに、こうして昼ご飯いっしょに食べるのは、久しぶりでなんだか、照れ臭い気さえします。
「おーうまそうだな!」
「亮平さんビールのみます?」
「うん! もう春だな」
「根三つ葉、久しぶりだけど、シャキシャキして、香りもいいね!」
「よかった! 美味いですか?」
「翔! お前 最近、別人のようだな」 「えっ!そうですか?」
「ホントのこと言ってもいいか?」 「なんです?」
「寂しいんだよ お前がしっかりし過ぎて」
「なんですか?それ」
「俺はね、なんか心許ない感じのミステリアスな翔が、大好きだったんだ」
「過去形ですか?」 「いや! そういう訳じゃないけど」
「じゃあさ ちょっとキス してみてよ!」 「えっ」
「なんか違うんだよなー! ぜんぜんエロくないし」
翔をあらゆる角度から、チェックする亮平です。
「だって、今は店長なのに、そんなにぼうっーともしていられないじゃないですか」
「まあな 」
「僕が亮平さんに相談したかった事、話してもいいですか?」
「いいよ! わかれたいとか?」
「違います。 僕は亮平さんが大好きです。 でも甘えすぎだと思っています。 僕は、両親を事故で亡くして、養護施設で育ってます。
高校の時に、悪いやつらに誘われるままに悪さして、そのまま組に入りました。 流されるがままに、生きてきました。
亮平さんに、ひっぱり上げて貰って、今はMillerの店長任されて、本当に有難いと思っています。
でも、今のままじゃダメだって、最近思うんです」
「別れたいってことか?」
「だから! 違います!」
「亮平さんと対等に付き合える男になりたいんです」
「でも、俺はそういう小賢しいこと言わない翔が好きなんだよ!」
「僕だって、いつまでも若い訳じゃないから、せめて自分の足で立っていたいなと、思うんです」 「ふーん」
「今、下の階のワンルームが賃貸で出てるんです。 そこを借りたいなと、思ってます」
「同じマンションなら会おうと思えば、すぐに会えるし・・・」
「翔の言いたい事はわかったよ。 なんか無駄なような気もするけど、そうやってちょっと距離をおいてみるのもいいかも知れないね」
「じゃあ 決めちゃっていいですか?」
「うん まあいいけど、なんだな、俺はせつない、あのころの翔に会いたいよ。これは俺のわがままなのか?」
こんなことを言い合っているうちに、翔はけっこうな量を飲んでいました。
「亮平さんは、わがままですよ! 僕は亮平さんのこと大事に思っているのに、小賢しいとか言いますか? ふつう!」とぐでぐでになってきました。
翔の魂が別人だということに、なんとなく気づいてしまった亮平さんには気の毒です。 もう、あの頃の翔はいないのですから・・・。
だって、翔の魂は、恋愛経験のない、Z世代の女子なのです。
きっと少し距離を置いたら、気持ちの整理もついて、これからの事も、収まるところに収まるような気がします。
おわりです。 ナカムラ・エム