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パラレル 2

 第2章なんて大げさですみません。
前回、混乱をひとまとめに胃袋に追いやった で終わっています。
続きを、読んで頂けたら嬉しいです。

第二章

胃袋は消化しきれないもので、満杯になった。
往々にして私は、押し切られると、すぐ観念してしまう。
極道気質とでもいうのか、迅速な判断を良しとする帰来がある。
若い頃には、キャッチセールスにひっかかりやすい方だった。
「先生、これって保険使えますか?」
「大丈夫、なんとか巧くやりましょう」
私は趣味の悪いラブホテルのベッドの様な、限りなくバブリーだけど、過去の遺物みたいなベッドに、恐る恐る横になった。
ルイス先生は今、評判の医者だ。
先生におまかせすれば間違いないはずだ。
大丈夫、大丈夫、私は自分に暗示をかけた。
私の価値観はそうやっていつも社会的弱者のように、簡単に叩き落とされた。 そうしていつも私の中で燻っていた。
「いいですか? 左側の赤のプラグを左手の薬指に、青のプラグは右手の親指にセットしてください。 間違えないようにね。
あなたが今とても消耗していると思われるH波とC波を流しましょう。
H波は、性的波動を高めます。  C波はちょっと古くなりますが、C調のCです。 何も考えないことです。
そうですね10分程で、あなたの心は、蕩ける程の柔らかさを取り戻すでしょう」   そう言うが早いかルイス先生はスイッチを入れた。
身体の中で、淫らな波動と、ちょっと古いサザンの曲が乱舞した。
それは私の核心にまでは届いていないものの、表皮から1.5センチ位の血液をかなり循環させた。  
暫くして、夢の中で落ちる時みたいに、ビクッとして波動は消えた。
目を開けると、ルイス先生のエメラルドグリーンの瞳が目の前にあった。
カルテを書く白い腕は、金色の産毛がたまらなくセクシー、私はルイス先生の産毛に触れて、身震いすると、ルイス先生をベットに引き倒す。
性的衝動に駆られる私の目の前でルイス先生は、固まった。
「それはプログラミングされておりません!」
「また、アンドロイドだわ。 最近はアンドロイドもよく出来てるから騙されちゃう」 なんて思いながら、じょじょに覚醒していった。
バブリーなベッドは、六畳間に敷いた、私の慣れ親しんだ布団に変わっていた。   夢か・・・。それにしてもルイスなんてどこから出てきた?
まあいいか、夢なんだから。 少しウトウトすると携帯の電子音が鳴る。
4時50分だ。  布団の上に座り、とりあえず煙草に着火する。
寝起きのたばこが身体によくないことくらいよーくわかってる。
けど身体にいいことだけするというのも、ひ弱な気がする。

炊飯器のタイマーの切れる音が、ピーッとキッチンから聞こえる。
私はまずベランダに向かった自室の窓を開ける。
この所どんよりとした灰色の天候続きで、空気さえ動かなかった。
今日は少し風があって、ベランダからはほんの少し冷たい外気が、私の部屋に流れこむ。
ベトナム製のちょっと大きな丸座卓に、パン皿を三つ並べて、卵を三個ボールに割りほぐす。
ベーコンがあればベーコンと、あとピーマンとか絹さやを混ぜて彩りよくスクランブルエッグ,キュウイとバナナを切ってプレーンヨーグルトとハチミツをかける。
明日実の皿にはドライプルーンを三つ、これは貧血予防、5時15分明日実を起こす。   返事したけど多分起きない。
赤ちゃんの時から、寝起きは恐ろしく悪い。
電子ポットに水を入れて、炊けてるご飯のいき抜いてもう一度「明日実、起きて休むのー」と言うとやっとベットに起き上がる。
これでもましになった。 
中坊のころは、4,5回起こして起きないから、ほっておいたら、人のせいにして学校行かなかったこともあった。
トースターにパンをセットする。
5時25分明日実がスッチーみたいな制服に着替えて食卓につく。
「いただきまーす」黄色いドリンクをついでやる。
これはクエン酸とアミノ酸の入った飲み物で疲労をとり、代謝をよくするらしいが、恐ろしく酸っぱい。
それから鉄分のサプリ。 気休めかもしれないが、気は休まる。
これだけ聞いたら、過保護の健康オタクみたいだ。
駅伝の名門校に、走る条件で特待生で入ったはいいが、練習の厳しさ、思い荷物を持っての片道一時間半は、思った以上のハードワークで4月、明日実は、ヘロヘロだった。
5月になって、ようやく身体も少し慣れてきたってところだ。
明日実が食べている間に、私は寝ぐせのついた頭のままで、弁当作りに専念する。  明日実は慣れているから、ビックリもしないが、この寝ぐせも傑作な時はみんなが出かけた後、鏡みて啞然とする。
この間なんかは、明日実が出かけてホットしていたら電話。
こんなに朝早くから誰だろうと思ったら明日実で「ユイちゃん、今、駅、定期忘れたお願い!」とまるで電報みたいだ。
パジャマの上にウインドブレーカー引っ掛けて、チャリンコ必死でこいだ。
全くもうと思いながらも、朝の空気は気持ちいいなんて思ったりもして、帰ってきて鏡みたらかなり傑作な寝ぐせがそこにあってファーファーしてた。
そう言えば犬の散歩のおじさんも、数少ない通行人も怪訝な一瞥をくれていた。   しかし明日実は驚きもしなかった。
至極真剣な面持ちで定期を受け取ると、「ありがとう」とたすきでも受け取ったように、走っていった。

             つづく

            次回もよろしくお願い致します。

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