見出し画像

6月15日「オルレアンでのホームシックな朝」

その朝は、遠く離れた家族のことを思うと、どうしても心が落ち着かなかった。部屋の中にいると、ホームシックの感情は一層強まるばかり。もしかすると、この旅の緊張が私の想像以上に大きいのかもしれない。涙が勝手に溢れ出し、一人きりの部屋で、その感情にただただ押しつぶされそうになっていた。

しかし、そんな状況から逃れるように、重い腰を上げて外に出た。ふと見つけたホテルの近くの手芸屋が、心の救いとなった。店内に足を踏み入れると、店主のおじさんが温かい笑顔で迎えてくれた。彼の優しい雰囲気が、少しずつ私の心を解きほぐしてくれるようだった。店内にはビーズで作られた繊細な花が展示されており、その美しさに思わず「Tres joli.(とてもきれい!)」と声を上げた。おじさんはその反応を喜び、更に他の作品を見せてくれた。特に印象的だったのは、奥様へ贈られたというビーズで作った花嫁のブーケ。その物語と美しさに感動した。

結局、おじさんとの交流を通じて、友人へのお土産にぴったりのチョーカーとブレスレットを購入した。友人がこれを見たときの喜びを想像すると、私自身も幸せな気持ちに包まれた。店を出るときには、おじさんに心からの感謝を伝え、「Au revoir(さようなら)」と笑顔で別れを告げることができた。その一件で、気持ちに大きな変化が訪れ、再び前を向いて歩き出せる力を得た。

その後、ジャンヌ・ダルク広場近くの大聖堂の横にあるベンチに座り、絵を描くことにした。集中して絵に没頭するうちに、徐々に心が落ち着いてきた。時間はかかったが、持参した温かい紅茶とサンドウィッチの昼食を楽しみながら、絵を仕上げることができた。絵を描くという単純な行為が、私にとってどれほど心を癒してくれるかを再認識した瞬間だった。

この旅での経験は、私に多くのことを教えてくれた。一時的なホームシックや不安もあったが、それを乗り越えた先には、新たな発見と成長が待っていることを。人との温かい交流や、創造的な活動が心を豊かにすることを改めて実感した。2004年の夏、フランスのオルレアンで過ごした時間は、私の人生における大切な一ページとして、いつまでも記憶に残るだろう。


いいなと思ったら応援しよう!