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能の秘曲「道成寺」⑥

乱拍子の最後にシテが「成寺(じょうじ)とは名付けたりや」と謡いながら爪先を左右に動かし(習いの足裁きです)拍子を踏むのが常の型。「無躙之崩(ひょうしなしのくずし)」の小書が附くと足拍子を踏まずに回り込んで急之舞に入ります。

「急之舞」はその字の如く最も早いテンポの舞で、小鼓はそれまでの一番ゆっくりしたリズムからいきなりフルスロットルで打たなければなりませんし、大鼓は40分以上固まっていた状態から特急電車に飛び乗るように打ち始めます。

笛も乱拍子の中はアシライを吹いていますが、吹き出しのタイミングが取りにくいので非常に神経を使います。

シテも乱拍子の間は身体の動きを止める筋肉を目一杯使っていて、そこから急に違う筋肉を使うので気ばかり焦ってなかなかリズムに乗れないものです。舞自体の型は特別なものではありませんが、足拍子を踏まずに「シズミ」と言う型を段の合図に使います。

舞の途中で一ヶ所鐘を見込む型がありこれが二回目の「執心の目付」です。その後笛が「ヒシギ」と言う高い音を連続して吹くときにシテが鐘の下を走り抜けますが、シテが鐘の真下を通れるのはここだけです。

舞が終わりシテの謡が始まると舞台上は慌ただしくなります。鐘後見が一斉に動き出し正後見が1人で鐘の綱を持ち、主後見は鐘入りに備えて大小鼓の後ろに移動しシテを見守ります。

「立ち舞うようにて狙いよりて」とシテは角から鐘を見込み烏帽子を飛ばし扇を立てて鐘に狙いを定めて走り寄ります。この時烏帽子が上手く飛べば良いのですが、緊張して足下や鐘への通り道に落ちたり烏帽子と一緒に面が飛んだりすることもあります。

鐘の真下に行かないと鐘は落とせません!そのために様々の口伝があり何重にも安全策を取って型は作られています。でも実際には極度の緊張と疲労により事故は結構起きています・・・観世流では鐘の真下で縁に手を掛けて拍子を踏んでから鐘を落としますが、流儀によっては鐘の外に居て落ちる鐘に飛び込むと言う型もあります。鐘は竹と布で出来ていますが重量は70㎏以上有りひとつ間違えば大怪我です。実際に脊椎骨折や膝のお皿を割るという事故も過去に起きており、鐘後見は無理と思ったら鐘を静かに下ろすことも出来ます。

口伝は聞いてしまえばどうと言うことも無いのですが、言われてみないとわからない事でもあります。先人達の貴重な失敗から学んだ知恵を心して守る事が良い舞台を作る事に繋がると信じております。

鐘が落ちると私の師匠家では主後見が鐘の後ろに来て床をコツコツと叩きます。シテが無事ならばシテも床を叩いて無事を知らせます。・・・もしも合図がなければ鐘は最後まで上がることなく後見が後シテを舞う事になります。
次回は鐘の中での着替えから後シテの話をしていきましょう。

◇公益財団法人鎌倉能舞台HP   http://www.nohbutai.com/

◇「能を知る会東京公演-道成寺」 
◆日時 2021年6月20日(日)13:00
◆会場 国立能楽堂(JR千駄ヶ谷駅下車徒歩5分)
◆入場料 正面自由席13,200円/脇中自由席9,900円
◆演目
講演「隔てるもの・乗り越える力」葛西聖司
仕舞「清経」津村禮次郎
  「海士」永島忠侈
  「融」 駒瀬直也
狂言「樋の酒」野村萬斎
仕舞「砧」  観世喜正
  「卒都婆小町」観世喜之
能 「道成寺」中森健之介 
詳細 https://blog.canpan.info/nohbutai/archive/816

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中森貫太
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