#02ピッチの外の組織論-競争闘争理論-
今回は河内一馬さんの著書の「競争闘争理論」から、組織への向き合い方を考えてみたい。
著者の立てた問いは「サッカーは『競う』べきか『闘う』べきか?」であり、この問いを通して「サッカーとは何か?」を考えさせれらる一冊である。
分類(言葉)で表すことの重要性
スポーツにおける分類
スポーツは「競争」と「闘争」に分類でき、著者はサッカーを「闘争」と分類する。
「競争」と「闘争」の分類に大きく影響するのが、「妨害」である。
例えば、サッカーと同じ団体競技である陸上のリレーを想像してみると、相手に妨害することは許されておらず、妨害すれば失格になる。
サッカーにおいては、相手に接触し、直接的に相手を妨害することが許されている。
この2つの分類は極めて重要である。
「妨害」が許されない競技においては、極論自分を高め、チームの連携を高めれば結果に繋げることができる。
日本が陸上のリレーで結果を出せるのは、バトンパスを極限まで磨き続けたからであり、試合中にバトンパスを他のチームに「妨害」されることはないからである。つまり、基本的に努力が結果に結びつくのである。
一方、「妨害」が発生する「闘争」では自分を高め、チームの連携を高めたとしても、結果(勝利)に結びつかないことがある。
いくらチームの完成度を高めたとしても、相手の「妨害」の程度に結果が大きく左右されてしまうのだ。
同じ「闘争」に野球もカテゴリ化されるが、「妨害」の程度がサッカーに比べ明らかに低く、間接的な「妨害」となるため、野球よりもサッカーの方が相手から受ける「妨害」の影響度が強いと言える。
このように分類を分けていくと、サッカーの前提条件が整理されてくるのだが、多くの人はこの作業をしていない。
なんとなく、「サッカー」をスポーツとして捉え、「妨害」の存在を無視し、努力(練習)の先に結果があるように考える。
しかしながら、いくら努力し練習で上手くいったとしても、試合においては相手の「妨害」により上手くいかないことが往々にしてある。
努力が実を結ぶとか実を結ばないとかではなく、この事実にしっかりと向き合う必要があるのだと思う。
こうして整理されている内容を纏めるのは簡単だが、スポーツ種目の分類を整理し、サッカーの前提を可視化した著者の着想は素晴らしいものだと思う。
学生生活と会社生活の分類の違い
「競争」と「闘争」の分類は「学生生活」と「会社生活」にも当てはまるのではないかと思う。
「学生生活」は、「競争」の概念に近く、勉強の面で考えれば、努力をすることで偏差値が少しでも高い学校に入ることが目的となる。その際に、相手から直接的な「妨害」を受けることはなく、ある程度努力が報われることになる。
一方、「会社生活」は、「闘争」の概念に近く、様々な外部要因が入ってくる。「妨害」とまでは言わないかもしれないが、必ずしも努力が実を結ぶわけではない。
恐らく、頭の中でこの点が整理できている人はそう多くないと思われる。
会社生活の中で、努力しても報われないことに対して不満に持つ人は一定数いるわけであるが、そもそも「会社生活」は努力が必ずしも実を結ぶわけではない分類に属することを理解できていない。
これには理由があり、「学生生活」が努力が実を結ぶ分類に属するため、その延長線上でどうしても物事を考えてしまうのではないかと思われる。
「学生生活」と「会社生活」という分類の違いを理解し、その中でどう結果を出していくのか?という視点で考える必要があるのである。
意思の重要性
サッカーにおける「意思」
サッカーを観ていて攻撃と守備について、どのように判断するだろうか?
恐らく、「ボールを持っている=攻撃」、「ボールを持っていない=守備」として判断している人が大半だと思われる。
著者は、ボールの有無は「権利」として要素であり、もう一つの重要な要素として「意思」を挙げている。
要するに、ボールを持っていなくてもボールに向かうという「攻撃の意思」が存在するということである。一方、ボールを持っていてもゴールに向かわなければ、「意思」の面では攻撃をしているとは言えないのである。
ボールの有無に気を取られ「意思」の重要性を見逃しがちなのだが、チームとして「意思」が揃っていれば揃っている程、チームは連動しパフォーマンスは高くなる。
会社組織における「意思」
会社組織においても「意思」は重要である。
「ティール組織」の本の中で、組織に当てはめたウィルバーの「四象限モデル」というモデルが出てくる。
「意思」というのは、「内面的な次元」に分類されており、決して外から見ることが出来ない。だから、見ることが出来る「外面的な次元」である、組織のシステム(制度等)を変えたり、人々の行動を変えようと評価制度を変えたりすることに注力をすることになる。
しかしながら、外から見ることができない「組織文化」を含めた「意思」という「内面的な次元」に向き合い、組織のメンバーの「意思」を揃えることが、極めて重要である。
見えないからといって、「意思」から目を背けてはいけないのである。
ピッチの外の組織論
「競争闘争理論」において、「(ゲームとしての)サッカーの目的は勝利である」と明確にしている。
但し、「サッカーをする上であなたの目的は何か?」「サッカークラブの存在目的は何か?」という問いに対して「勝つこと」ではないとしている。
ビジネスにあてはめると、「(営利企業である)会社組織の目的は利益である」ということが言える。
但し、「会社組織で働くあなたの目的は何か?」「会社組織の存在目的は何か?」という問いに対しては「利益」ではないとも言える。
本書から考えさせられることは、サッカーにおいても、ビジネスにおいても、言葉でイメージを共有することが、まだまだ出来ていないということである。
全てを言葉で伝えきることはできるとは思っていないが、言葉で伝える努力はしなければならないと考える。
その意味で、様々な分野の本を引用しながら、紡ぎ出された「競争闘争理論」は、言葉の可能性への挑戦とも捉えることができる。
サッカーに関りが無い人であっても、モノの見方を変えるきっかけになる本である。是非、多くの人に手に取って欲しいと思う。
著者の河内さんにこのnoteについてツイートしていただいた。
最高に嬉しい!