心が変わる 脳が変わる
心理療法や子育てをしているなかで、「人が変わる」って、「心が変わる」って、どういうことなんだろう???とずっと不思議に思っていました。
最近「脳」に関する何冊かの本を読んで、「ああ、そうなんだ」と納得する一つの答えが得られた気がしました。
心理学の分野には、「学習」という分野があるのですが、一番有名な実験が、Pavlov(パブロフ)による、何度も繰り返して、肉片と同時にメトロノームの音を聞かされると、やがて犬は、肉はなくとも、メトロノームの音を聞くだけで、よだれを垂らすようになってしまう、というものです。
そしてその結果は、今日の脳科学的に考えるならば、「音を聞く」→「よだれが出る」という、刺激を受けた後に体が反応する回路(シナプス結合)が、繰り返しの経験を通して、脳の中に形成されたことを意味します。
この「脳の中の新しい回路」の形成が、犬の新しい行動の獲得を可能にしたと考えられるのです。
わたしたちのの心や行動は、わたしたちの中の「なにか」の変化なしには、変わらないと考えられます。その「なにか」というのが、これまではわからなかったのですが、それは実は、脳の中の回路(シナプスの結びつき)だったというのです。
よく使われる脳の回路は残され、あまり使われない回路は刈り込まれて、新たな回路をつくろうとする。そういうはたらきが、脳にはあるようで、それは「脳の可塑性(かそせい)」と呼ばれています。
このように考えてくると、「一回怒られただけ」とか、「ちょっと本を読んだりしただけ」では、人はなかなか深くは変われない、ということがよく分かりますよね。
人が変わるには、時間をかけて、繰り返し繰り返し経験を積んで、脳の回路を「強化」することが必要で、バットの素振りをしたり、字を書く練習をしたり、というのは、脳の中に、そのことを可能にする回路を定着(長期増強)させるためだと考えられるのです。
つまり、「新しい行動や考え方」が身につくためには、いろいろ実際に試したりしながら、新しい脳の回路が育つまで、「じっくり時間をかけて、何度も何度もやる」必要があるのです。
そうすると、心理療法やカウンセリングというのは、セラピストという新しい人間との出会いの中で、自由に話してもらい、心を解放してもらうことを通して、どこかに無理があったり、しこり(過去の感情的わだかまり)があるために、エネルギーが流れにくくなってしまっている心の回路を解きほぐして、より柔軟で生きやすいような、「新しい生き方の回路」を獲得してもらうための援助、と考えることができるのかもしれません。
過去の傷つきに共感して、感情のブロックを取り除きながら、少しずつ少しずつ、よりよく自分を生きられるような新しい「心の構え」を取り入れていっていただけるように。脳の中に「より本来の自分らしい生き方ができるような回路」をつくっていってもらえるように。
ゆっくり時間をかけて、そのサポートをしていくのが、心理療法の役割なのではないか?そう思うのです。
「教育」や「子育て」においても、なににどうかかわっていったらいいのかが見えないので、どうしたものかと困ってしまうのですが、かかわりの向こう側に「脳の仕組みやはたらき」というものを想定すると、すごく役に立つ手がかりが見えてくるかもしれないですね。