虫武一俊 第一歌集『羽虫群』
舞う虫が織り成す闇と光との秀逸な対比のレトリック
よれよれのシャツを着てきてその日じゅうよれよれのシャツのひとと言われる
鴨川に一番近い自販機のキリンレモンのきれいな背筋
この夏も一度しかなく空き瓶は発見次第まっすぐ立てる
立ち直る必要はない 蝋燭のろうへし折れていくのを見てる
虫武一俊 /『羽虫群』
実を申しますとこの第一歌集には過度の期待はしていませんでした。
何故なら私は著者のファンであるため、既知作品が列んでいると思っていたからです。
しかしながら巧みな編集や構成の妙味で、存分に堪能出来る素晴らしい一冊でした。
もちろん歌集としても興味深く読み進めましたが、ページを捲る度に上記の引用歌にあるような秀逸な対比のレトリックが仕掛けられているので、そのコントラストを洒落たモノクロの写真集を見るように拝読させていただきました。
表面的には鬱屈とした歌が多く列べられているのですが、時折現れる人物以外の事物の光が眩しいほどに耀いているのです。
ここにある数々の闇と光は苦境と楽境でもありますが、読者には抑制と興奮を齎し、やがて依存から自立への声明に代わり、挫折から直立へと向かう未来をも暗示しているようでした。
目の前に黒揚羽舞う朝がありあなたのなにを知ってるだろう
私のスーパーポジティブリーディングではこのような感想になってしまうのですが、無性に堕ちたい夜がある方や、他者の憂節や窮状を読んで優越感に浸りたい方などにも推奨できる一冊です。
あすはきょうの続きではなく太陽がアメリカザリガニ色して落ちる
羽虫どもぶぶぶぶぶぶと集まって希望とはその明るさのこと