「(仮)カバードアグレッション SIDE:B」Rev.0 

「(仮)カバードアグレッション SIDE:B」Rev.0 
                          作者:中島 征一郎

「はい、Aさん良いですね、では次の人続きから読んで。」

そう言われて、ほっとしながら、教科書を机に置いて席についた。
教科書を読むはいつも緊張する。バレエのようにたくさん練習していれば良いのだけど、その場で読む場所を指定されるから、間違わないように、噛まないように、と思うから、緊張する。

「Bさん、聞いてますか?」
「は、はい!」

急に言われてびっくりしたBちゃんの声に、クスクスとクラスが乾いた笑いに包まれた。
Bちゃんの方を見ると、教科書だ顔を隠していた。

Bちゃんは私と違って、切長の目とパーマを当てたような緩い癖っ毛をショートにしていて、とても綺麗で可愛い。誰かと一緒にいるのではなく一人で本を読んだりしていて、自分を持っている人で、大切な幼馴染。
でも、最近は前ほど一緒に遊んだりせずに、なんとなく距離が遠くなっている。
そんなBちゃんがたまに見せる、おっちょこちょいな姿は、とても微笑ましい。

でも、私は色々な挫折を経験して心は傷だらけだから、Bの自然な感じが眩しすぎる。

小さい頃にバレエを始めて、才能がある、と親も周りの大人は喜んでいたけど、一緒にやっている友達は違った。
一緒に始めた友達も、先に始めた友達よりも、私の方がどんどん上手くなって先輩達を追い抜く頃には、友達ではなくなっていた。
かげで悪口を言われる事はいつもあって、靴を隠されたりした事も何度もあって、足を怪我した時はみんな喜んでいた。
足の怪我を口実にバレエから逃げ出して、同年代の人達が怖くて、学校に行けなくなった。

「人は人、自分は自分、だよ。」

親が連れてきたカウンセラーの人に、そう言われた。
最初は意味がわからなかったけど、嫌な気持ちになった時にそう心の中で唱えると、少しずつ心が軽くなっていった。

「自分の事を嫌ったり傷付ける人を、好きになる必要はないんだよ。」

悪口を言われるのは自分が悪いからだ、そう思い込んでいたから、びっくりしたしスッキリもした。
好きで始めたバレエだったけど、気付けば親のためコーチのために練習して、周りの子達から嫌われないように仲間外れにされないようにしてきたから、自由になれたように感じた。

今ではバレエも再開したし、前とは違う友達もいるし、何より自由に生きている。
もちろん、好き勝手にわがままにではなく、自分がやりたい事を、ルールを守ったり人に親切にしたり、逆にやりたくない事を断ったりして、自分で決めて生きている。
周りの意見に流されたりしないから私を嫌いな人はいるけど、人は人、自分は自分、だから気にもしていない。

「寄り道せずに、真っ直ぐ帰るんですよ。」

帰りの会が終わった。
今日は友達は塾で私は予定がないから、帰ってから何しようかな、と考えながら帰ろうとすると、Aちゃんが声をかけてきた。

「Bちゃん、今日一緒に帰らない?」
「え?うん、いいよ。なんか久しぶりだね。」

Bちゃんは私と目を合わそうとせずに、何か困ったような顔をしていた。
きっと何か言い辛い事があるんだと思った。
私は、黙ってBちゃんの隣を一緒に歩いた。

「あのさ、私聞いちゃったんだよね。」

Bちゃんは、学校を出てから、周りを見渡して誰もいない事を確認したのか、話し始めた。
ああ、これだったのか、と思った。
教室では言えなかったのは、私に関する悪口とかなんだろうなと思った。

「うん、それが言いたかったこと?」
「え?」

心を言い当てられたようにびっくりしたBちゃんの表情を見て、私は続けた。

「なんか深刻な顔をしていたし、何か言いたい事があるんだろうな、って思ってたの。」

私の悪口ぐらいでBちゃんには嫌な気持ちになって欲しくなかったし、そう心配してくれたのが嬉しかった。
でも、Bちゃんは少し考えるような、決心したような表情になって続けた。

「あのさ、Cさん達が、Aちゃんが生意気だ、って言ってたんだよね。」
「そうなんだ。」

ああ、やっぱりCさん達か。
私はCさんを嫌いじゃないんだけど、挫折前の私みたいなところがあって、嫌われているのは知っていたから。
自分で決められない人は、自分で決める人を妬ましく思ってしまうものだから。

「物隠したり、嫌がらせするって言っていたよ?」
「ふーん、そうなんだ。」

Bちゃんが心配してくれる気持ちは嬉しいけど、なんとか気持ちを軽くして欲しくて、答えた。
でも、なんで言ってくれたんだろ?
秘密を抱えるのは大変だから?私を心配してくれたから?他にも何かあるのかな?

「ねえ。」

うつむいているBちゃんのに顔を近づけた。
切長の目に長いまつ毛に、少し困った表情が似合っていた。

「なんで、その話、私にしたの?」

意地悪な質問。
その顔をもう少し見ていたくて、思わず口に出た。
ああ、自分はひどいヤツだ、と思って謝ろうとしたら、Bちゃんの頬に涙が流れた。

「私は大丈夫だから、泣かないで?」

Bちゃんは涙が流れた事に気付いていないようで、慌てて指で涙を拭った。
罪悪感でいっぱいで、いつも持っている予備のハンカチを手渡した。

「はい。」

Bちゃんは、ハンカチを見つめていた。
使ったハンカチを渡されたと思っているのかな?
そんな事はしないのに、と思ったら可笑しくなった

「これは使ってないだから、キレイだよ。」

久しぶりに、Bちゃんと一緒に笑った。

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