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詩とメルヘン

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やなせたかしさんがやられていた雑誌「詩とファンタジー」をオマージュしたマガジンです。 時々ふいに出来る詩が載せてあります。だいたい週一更新ペース。
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記事一覧

言の葉 舞い散る桜によせて(詩)

言葉とさよならしたのはいつだろう かけがえがなかった自分の言葉 発した言葉がすべてが自分自身だった 捨てられて さらされた言葉の終わりに ずっと断末魔の悲鳴を聞いていた 今日桜の花が散る 花びらが舞って舞う 失われた言葉のように 散るよりも散らせたかのように 言葉ははらはらと舞って 誰かの心の池に舞い落ちた 言葉が別れをつげてきたのはいつだろう それはいつでも他人の言葉 言葉のすべては他人のものだった 笑われて無視された ありふれた言葉の始まりに 言葉自身のため息を

葉っぱを千切りながら(詩)

小さい頃の道すがら 生け垣の葉っぱを千切りながら 歩いていた そのとききっと自分の心も 千切っていたのだろう 千切っても千切っても 消えないつらさ 辛いと思ってしまう自分の辛さ 代わりに死んでいった葉っぱの山 生け垣の葉っぱは 眼前に立ちはだかる社会の 代わりだった このとき他人の心も 千切っていただろう 千切っても千切っても 消えない怒り 怒ってしまう自分のやるせなさ 代わりに死んでいった葉っぱの山 そんな葉っぱの山に いつしか自分も千切られて そっと埋もれてい

地図(詩)

時間があると地図を眺める 旅で行きたい町 いつか住みたい町 絶対に行けない町 そして指先でそっと撫でてみる まるでそこに 未来が埋まっているかのように こうして町は架空の実体を手にする 何かあると地図を開く 聞いたことある町 ニュースで知った町 本で読んだ町 そして町の名を○で囲んでみる まるでそこで 生きたかのように すると町は過ぎた時間をとりもどす まだ知られていないことが 隠されている もっと知って欲しいことが うまっている 地図はそっと教えてくれる

時の果て(詩)

時の果てを見極めようと 小さな船が漕ぎ出でる きっと見えてくるのは 新しき予言か止まった過去 時を作った彼らも いっしょに小さな船で漕ぎ進む 蜘蛛の巣のように 無限に広がりゆく宇宙の果ての その向こうに時を止めた 小さな星があって そこにはりんごを食べなかった 二人の姿があるやもしれない 歴史という一つの思い出も 淫らと呼ばれる妄想もなく そこでは刹那の思いが一瞬のうちに きらめくのみ 時は接するすべてを 予言と記憶に変えながら 今という光の海は 矛盾の中に消えて

どうか教えてください(詩)

おのれを あなたの中に見たとき あなたはおのれを 誰の中に見いだすのでしょう あなたは見たと言う わたしのおのれは みんなが見るあなたが ただ見ている おのれにすぎないかもしれません それは悲劇の妄想 はたして妄想と妄想は 恋におちいれるのでしょうか ないものにおのれを見いだすとき それが幻だと気づいたとき そんなわたしを 愛せるでしょうか あなたがわたしに おのれを見たとき わたしはあなたの何を おのれと見るべきなのでしょうか わたしがあなたを 愛し続けるために

わからない(詩)

イデアとは仏性か 哲学上の世界精神、心理学上の共通意識 そこにある「真善美」を実現するのが存在の宿命か 善なるものとは、普遍性でもある まちがったと思うことをしない、思わない 普遍性に沿いつづける、それが「善」 とんがったことでもないし、際だったことでもない 永遠に学び続ける 意識という、あるという形ではなく、ないというもう一つの形 それでも残るかすかなぬくもり 品性とは存在に反すること、知性とは存在を知らないこと イデアに溶け行く先、すべての存在がわか

二つの空 (詩)

誰かが愛する 空そのものに 生まれる雲が、人、意識、一切衆生 理由はわからない 縁起、偶然、無 雲は流れ 消えていく 流れぬものもなく、流れゆくものもあり 雲がなくても、人がいなくても 空は空であり 無を包括する空でもある それこそが有なのか 意味と夢を見て良いのか悪いのか 現象の空と論理的果ての「空」 どちらに心を遊ばせよう

ひなたぼっこ(詩)

ぽかぽかとした日差しを浴びて  川辺で亀が甲羅干し お日様の光を浴びないと 自慢の甲羅もふにやふにゃに 一番大切なもののため ときには遊んで見えてしまう ふにゃふにゃになった心を 元気にさせるために ぼくらも時にはひなたぼっこ 澄み切った日差しを受けて 川辺で亀が甲羅干し さっそく見習って 縁側にのべーっと寝転んで

そんな犬(詩)

ある秋晴れの昼下がり  こんな犬を作ってみた   毛は枯れ草のような茶色 ビーズ玉のようなうるんだ目をしていて 鼻はしゅっとしている しっぽはくるんと巻かれていて 黒いひげはさぼてんのよう 長い舌はべろんと垂れ いつもなめる相手を探している 名前を叫ぶと まるで神様に呼ばれたように 急いで飛んでくる いつもうれしそうにまとわりついて くんくんとにおいを嗅いで 全身でぼくを感じてくれる 手を差し出してもお手もせず 手をかざしてもちんちんもしない けれどいつもいっしょに

もはや(詩)

私の目 私の耳 私の意識 すべてが他人の想いで 動いてる もはや私のものではない いったいどこにいったのだろう ありのままを見て あるがままを聞き 思うように思っていたかつての私 ひりひりするような孤独の中で びりびりする思いに打れ ぎらぎらする言葉に滾っていたあのときの私 いったいどこに消えてしまったのだろう 何と取り替えたのか 何を欲しすぎたのか 思いたいように思っていた私 もはやとりもどせないなら こんなものはいらないので そこらの誰かにくれてやろう

秋の日(詩)

さびしい秋の光を 感じていると 堕落してもいいかと 思えてしまう すすきの穂のように 風に吹かれるがまま おののいたまま 秋に負けるよりも   すずしげな秋の風を 感じていると 壊れてもいいかと 思えてしまう くずのつるのように 雨に打たれるがまま しぶとくねばって 秋に勝とうとするよりも 寄る辺なき秋の空気を 感じていると 誰かに すがりたくなってしまう 金木犀の香りのように 石の塀を越えるがまま 恥じらったまま 秋に引き分けるよりも 勝負の秋がきた 勝っても負けても

きれいごとかもしれないけれど(詩)

きれいごとかもしれないけれど ぼくはちょっと臆病だから  人の気持ちの上ずみの すきとおって きらきらしている 思いだけを形にしたい  気持ちの本音の姿は 猥雑で耳をふさいでしまうものだから きれいごとかもしれないけれど ぼくはちょっと恐がりだから 人は少し離れたところから その人の いいところだけを 見ていたい  人間の本当の姿は 無様にも目を覆ってまうものだから  きれいごとかもしれないけれど ぼくはちょっと弱虫だから 世界の誰とも戦いたくない  戦うなら いさぎよく

あいさつ(詩)

毎日同じ道を歩んでも 踏みしめる箇所が少しずつ違うように あなたと交わす言葉が同じに聞こえても 少しずつ意味を変えていく 若い「おはよう」 慣れた「おはよう」 疲れた「おはよう」 ふりかえっても やっぱり同じものはない それでもいつか 悲しい「おはよう」と言う日が来るでしょう それまでは やさしくやさしくおはようと 心を込めて清らかに 言えたらいいなと思います   毎日顔を合わしても ちょっとした表情が少しずつ違うように あなたと交わす言葉が同じように響いても 少しずつ

鐘の音 (詩)

ゴーン どこかで鐘が鳴っている 巡る季節をともに迎えながら 愛しい人達と歩いていく しかし、五十年後には その何人とは別れている   ゴーン ゴーン いくつもの春を喜んで たくさんの冬に耐えたとしても しかし、百年後には 多くの命は消えている ゴーン ゴーン ゴーン 誰かの心に残された 誰かの記憶 しかし、千年後には ほとんどの記憶は消えていく ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン 鐘は再び鳴り響き 新たなる誕生を告げる かつての友人もかつての命もかつての記憶も 未来の予言に