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近代日本文学を代表する傑作―三島由紀夫の『金閣寺』②

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11月第1作目には三島由紀夫の小説、『金閣寺』を取り上げます。

『金閣寺』は、1950(昭和25)年七月二日に、実際に起きた金閣寺放火事件をもとに書かれた小説です。

鬼才・三島の全青春をかけた総決算にして、近代日本文学を代表する傑作として、海外でも高い評価を得ています。



『金閣寺』……鬼才・三島の全青春の総決算にして、近代日本文学を代表する傑作

三島由紀夫(1925~1970)

東京都生まれ。
本名、平岡公威(ひらおかきみたけ)。
小説家、劇作家。
学習院中等科時代に小説『花ざかりの森』が同人誌「文藝文化」に掲載される。
東京大学法学部卒業。大蔵省(現財務省)に入省するも、九カ月で退職し、執筆活動に入る。
晩年は民兵組織「楯の会」を結成し、右翼的政治活動を行う。
1970年、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で自衛隊員にクーデターを呼びかけるが果たせず、割腹自殺した。享年四十五歳。

代表作品:『仮面の告白』『金閣寺』『鹿鳴館』『憂国』『豊穣の海』など。


【書き出し】


幼時から父は、私によく、金閣のことを語った。

私の生れたのは、舞鶴から東北の、日本海へ突き出たうらさびしい岬である。

父の故郷はそこではなく、舞鶴東郊の志楽である。

懇望されて、僧籍に入り、辺鄙な岬の寺の住職になり、その地で妻をもらって、私という子を授けた。


【名言】


この世のどこかに、まだ私自身の知らない使命が私を待っているような気がしていた。

美ということだけを思いつめると、人間はこの世で最も暗黒な思想にしらずしらずぶつかるのである。

金閣を焼かなければならぬ。


※あらすじの前編はこちら⇓⇓



【あらすじ】(後編)


老師の取り計らいで大学に入った私は、柏木という学生と話すようになった。

柏木には両足に奇形の障害があった。

彼の不具は私を安心させたが、柏木は障害を武器にして、何人もの女を支配するような男であった。

私に人生の暗い抜け道をはじめて教えてくれた友であり、鶴川とは対照的な存在であった。


鶴川は柏木を良く思わず、私に忠告したが、私は聞かなかった。

疎遠になったまま、鶴川は家族の問題で一週間ほど東京に帰ることになった。


私が童貞であると知った柏木は、嵐山遊山で下宿の娘を紹介してきた。

私は娘を抱こうとしたが、その時、目の前に威厳に満ちた金閣の幻が立ち現れ、失敗に終わった。


その夜、寺に、鶴川が自動車事故に遭って死んだという知らせが届く。

「私と明るい世界をつなぐ一縷の糸」は断たれたのである。

私はふたたび、孤独になった。


その頃から、私の金閣に対する思いに微妙な変化が生じた。

「私の内に徐々に芽生えつつあるものと、金閣とが、決して相容れない事態がいつか来るにちがいない」という予感がするのである。


昭和二十四年の正月、私は新京極の雑踏で芸妓を連れた老師に遭遇する。

それを境に、老師に対する軽蔑や不安が重くのしかかり、学業もおろそかになっていった。


その年の十一月、私は柏木に金を借りて出奔した。直接の動機は、前日に老師から、「お前を後継にする気はない」とはっきり言われたことだった。

汽車の中で、有為子や父や鶴川らが思い出された。

「私が愛せるのは死者だけなのだろうか」と思いながら、丹後宮津の由良へ向かった。


日本海の荒波と強い北風に向かっていた時、今まで思いもしなかった想念が生まれ、たちまち力を増し、大きさを増した。

「金閣を焼かねばならぬ」

私は警官に保護されて寺に戻されたが、その想念は私を捉え続けた。

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