思想による殺人……犯した罪は許されるのか?ドストエフスキーの『罪と罰』③
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第2作目には、ドストエフスキーの『罪と罰』を取り上げます。
ドストエフスキーといえば、近代文学を代表する世界的文豪です。
同時代に活躍したトルストイと並び、ロシア文学の世界的存在感を一気に引き上げた立役者でもあります。
長編が多く、内容も難解だと言われていますが、教養としては概要だけでも知っておきたい名作の数々!!
『罪と罰』と共に代表作として有名なのが、『カラマーゾフの兄弟』です。
今回は、話の内容が比較的分かりやすく、考えさせられる議論もしやすい『罪と罰』の方をピックアップさせていただきますね。
それでは、『罪と罰』の世界へ入っていきましょう!
『罪と罰』―思想犯の罪と許しをキリスト教観点から描く世界的傑作
フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(1821~1881)
【書き出し】
七月はじめの酷暑のころのある日の夕暮れ近く、一人の青年が、小部屋を借りているS横丁のある建物の門をふらりと出て、思いまようらしく、のろのろと、K橋のほうへ歩きだした。
【名言】
【解説①】
・思想による殺人
『罪と罰』を一言でいうと、
お金に困った大学生が、「未来ある若者(自分)のためには、強欲な高利貸しを殺すことは許されるのだ!」という思想を打ち立てて殺人を犯し、のちに、ひたむきな恋人に心を動かされて改心する、という話です。
主人公のラスコーリニコフは、頭脳明晰で才気溢れる大学生でしたが、法学部の学費未納により放校処分となり、下宿代も滞納するなど、困窮した生活を送っていました。
追い込まれたラスコーリニコフは、強欲な高利貸しの老婆アリョーナを殺害し、その金品を奪うという”強盗殺人計画”を思いつきます。
彼の頭のなかでは、「生きていることが害悪のような欲深い老婆の命とお金を奪い、そのお金で多くの人間の命を救うことができるならば、その殺人は正義なのではないか」、という恐ろしい考え方が成立していたのです。
また、ラスコーリニコフの”思想”を裏付けるかのように、作品中には彼の学生時代の論文が紹介されます。
彼の主な主張は次のようなものでした。
「歴史上の英雄や天才等の数少ない『非凡人』は、その他大勢の『凡人』とは異なり、人類にとって有益な目的のためであるならば、自分の思想の実行のために『一線を踏み越える』、つまり、従来の法律を乗り越え、罪を犯す権利を持つ」
「マホメットやナポレオンなどの選ばれし『非凡人』は、古い法律を破棄して、自ら新しい法律を定めており、また自らの理想実現のために流血をも辞さなかった。
そうであるならば、才気溢れる自分の未来のため、また人々の救済のために、強欲な老婆一人を殺すくらい、何の問題もないのではないか」
つまり、「優秀な自分の未来のためなら、強欲な凡人一人を殺すくらい問題はない」という思想による殺人。
いわゆる、「自分だけが超人となって神に成り代わり、凡人に裁きを加える存在となる」という極端な超人思想・選民思想になります。
このようなな過激な論理で自己正当化したラスコーリニコフは、高利貸しアリョーナの殺害を決行し、さらに殺人の現場に偶然に鉢合わせた、罪のないアリョーナの義理の妹・リザヴェータをも殺害してしまいます。
皆さんは彼のこの動機を、どのように感じられるでしょうか?
・克明に描かれる犯罪心理
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