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生成AI時代に求められるビジネスパーソンの能力とは? -課題解決力から発想力へ

 「生成AIで何かできないか?」という相談を毎日のように受ける中で、課題解決型の営業や提案を行っています。

 クライアント企業の悩みを聞き、最適なソリューションを提案する...…そんな仕事です。ところが、これが結構難しいものなのです。



その課題設定は適切か?

 何が難しいかと言うと、多くの場合、クライアントが認識している課題自体が正しく設定されていないのですね。

 「XXに困っているから、生成AIで何とかできないか?」と言われることが多いのですが、よくよくお話しを伺うと、「XX」って解くべき重要な課題ですか?と思うことが多くあります。

 すぐにやりたいことや、思いついた打ち手を、解くべき課題と思い込まれているケースも数多くあります。

 そもそもですが、今の時代、真の課題を見つけるのは難しいし、課題を解決する能力自体に、意味がなくなってきつつもある……。

 課題の発見やそれを解くことが、生成AIと何の関係があるの?と言われそうですが、実は大いに関係があります(笑)。

 順を追って、話していきましょう。


現代社会における課題とは

 そもそも、課題って何でしょうか?

 僕たちを取り巻く環境は、この数十年で劇的に変化しました。

  かつては物質的な課題が山積みでしたよね。食料不足、住宅不足、モノの不足……でも今や、少なくとも先進国では、ほとんどが解決されています。

 残されているのは何か?というと、解決が難しい社会問題や「物質的ではない」課題ばかりです。

 例えば、孤独の問題、環境問題、格差の問題...…。これらはテクノロジーや論理的な思考によって単純には解決はできません。

 こうした課題は、ビジネスの課題にはなりえない。企業でなく、国家レベルの問題だからです。

 要するに、企業レベルで解決すべきビジネス課題は、そう多くは残っていないということです。


「問題解決力」の価値低下

 僕たちの社会は、これまで長きに渡って常に多くの「不満」「不安」「不便」という「問題」に苛まれてきてたため、これらを解決することが大きな富の創出につながってきました。

 そのため、これまでの社会では「問題を解決できる人=プロブレム・ソルバー」がビジネスでは、高い評価を受けてきました。

 やがて、文明や科学の発展と共に、こうした問題は少しずつ解決されてきました。高度成長期を迎え、コンピューターが一般化された現代では、合理性をもって解消される問題は解消されしつくした感がありますよね。

 科学や文明が進み、論理的に問題解決がなされてきた結果として、問題解決能力が供給過剰になり、「問題」自体が希少になってきているのです。


「問題解決者」から「課題設定者」の時代に

 「問題解決から問題発見へ」のトレンドに拍車をかけているのが、生成AIの急速な発展です。

 特定の領域ではすでに、AIの「正解を出す能力」が人間のそれを凌駕しています。例えば、チェスや囲碁ではAIが人間のチャンピオンを破りましたし、医療診断の精度でもAIが人間の医師を上回るケースが出てきています。

 AIの「正解を出す能力」は「推論能力」を獲得し始めた、OpenAI o1モデルの出現により、平均的な人間の知性=IQを凌駕しているということは、以前の記事でお話ししました。

 「問題解決能力」が供給過剰になり、問題が希少化するということは、ビジネスのボトルネックが、「問題解決の能力」から「問題発見・提起の能力」へとシフトすることを意味します。

 この変化に伴い、ビジネスの世界における、人材の価値に大きな変化が起こっています。

 これまで高く評価されてきた「問題解決者(プロブレム・ソルバー)」の価値が低下し、代わって「課題設定者(アジェンダ・シェイパー)」が注目を集めるようになってきたのです。


生成AIの登場で求められるヒトの能力

 これはつまり、IQや偏差値、MBAに代表されるような「正解を出す能力」の価値が相対的に下がってきたということです。

 従前のビジネス現場では、常に「目指すべき目標=KPI」が明確に示され、それを目指して努力すればいい、という状況にありました。

 なぜなら解くべき課題がビジネスには多く存在し、課題を解決する製品やサービスを作り出すことが企業利益に繋がってきたからです。

 しかし、現在は、モノがあふれ、サービスが行きわたり、不確実性の社会、すなわちVUCAの時代に突入しています。

VUCA=Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性) 
社会やビジネスにおいて将来の予測が困難な状態

  そこに生成AIが登場して、推論能力を身に着けだし始めて、IQレベルが既に、ヒトの平均値100を超えた、120に到達しているのです。

OpenAI o1 IQレベル

 こうなると、既に少なくなってきている「解くべき課題」は、生成AIの推論応力により、AIが解決してしまう時代になる。

 つまり、生成AIの時代は、従来の課題解決型人材、言い換えると、「問題を解ける人、正解を出す能力が高い人」よりも「問題を発見し、提起できる人」こそが評価されることになります。


VUCAの時代に未来予想は難しい

 そもそも、問題とは「あるべき姿」と「現状」とのギャップですよね。

 いままでは「あるべき姿」は明白でした。課題が山積していたからです。ですので現状とのギャップもわかりやすく問題の特定は簡単にできました。

 しかし、課題がそう簡単に定義できない今日のビジネスにおいては、あるべき姿ではなくて、「未来はどうなるか」という、未来予測が議論されることが多いのです。

 それは、未来予想ができれば、未来と現状のギャップから課題が導き出せると思われてのことです。しかし、そもそもVUCAの時代に未来予想は難しい

 誰がコロナを予測していましたか? 誰が生成AIが登場すると思っていましたか? 誰にも予想はできていなかったはずです。

 ですから今、僕たちがすべきことは、未来予想だけでなく、「未来をどうしたいか=未来構想」を論じることです。

 そして、そのためのカギとなるのが「社会や人間のあるべき姿を構想する力」だということになります。

 これからのビジネスでは、「問題解決の能力」よりも「問題発見・提起の能力」が重要になってきます。そして、その能力の根幹にあるのが「社会や人間のあるべき姿を構想する力」だと僕は確信しています。


未来予測から未来構想へ

 ここで重要なのは、単なる「未来予測」ではなく「未来構想」です。

 「未来がどうなるのか?」ではなく「未来をどうしたいか?」を考えることが、これからのビジネスパーソンには求められます。

 「AIがどのような仕事を奪うのか」と心配するのではなく、「AI共生時代に、人間はどのように進化していくべきか」を考えることが大切なのです。


「構想」の具体例:アラン・ケイとダイナブック

 アラン・ケイという人物をご存知でしょうか?

 彼は、現代のパソコンの原型となるダイナブックを1970年代に構想した人物です。彼は未来を「予測」したのではありません。「こういうものがあったら素晴らしい」と考え、そのイメージを具体化し、多くの人に働きかけたのです。これこそが「構想」の力です。

アラン・ケイの構想したダイナブック

 今のiPadそっくりですね。これが1970年代に構想されていたとは驚きですが、アラン・ケイは、未来予測をしたのではありません。

 「こんなのが欲しい」という類まれなき「好奇心」が、彼の斬新と思える、このような構想を偶発的に生み出したのでしょう。


人間に求められるのは発想力

 つまり、生成AIの登場によって、僕たち人間に求められる能力は、課題を発見する能力、から、課題を発見し、未来を構想する発想力にシフトしていくことになります。

 そして、単に「役に立つ」だけでなく「意味がある」ことが評価されるようになります。その「意味」を見出すためには、論理的思考だけでなく直感力も必要になってくるのです。

 言い換えますと、左脳=論理的思考から脱却し、右脳=ひらめき、発想力、を駆使しないと、ビジネスパーソンとして通用しなくなるということです。

 右脳を使う能力を高めるには、類まれなき好奇心と、サイエンスではない分野である、リベラルアーツの習得が今後大切になってきます。

 この件については、次回、お話ししたいと思います。




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