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【挿絵あり】№43_召喚術の授業は××な魔物と、 …過去を引きずる人に贈る、ヒーリングBL…

【月下美人系魔物 VS 安全第一なぼっち学生】の召喚契約を巡る攻防を描く、現代的で現実的なファンタジー召喚BLです。


 
ふと目の端を、雪解け後の川のような煌めきが横切った気がした。
そちらに目をやると、柔らかい光が厳重な扉の明かり窓から差し込んでいる。
 
僕の視線に気づいたのか、魔物はその部屋を案内してくれた。

 

 

脱走防止網を捲りぬけた先は、仄明るい温室のような場所だった。

通路以外の場所のそこここで、魔界の植物がのびのびと生い茂っている。
網や膜のようなもので広く空間が区切られているが、こちらは飼育室とは違い、個々の空間内では生育スペースに区切りはないようだ。
おそらく野生での環境を模して生育しているのだろう。
 

「!」

フワリと舞い降りてきたその蝶は、自分が初めて召喚した魔物に似ていた。
翡翠色の羽ばたきに目を奪われていると、蝶はなぜか僕の肩に止まった。

「魔力は遮断しているはずだが、残り香でも感知しているのか…」
その様子を観察し一人ごちた白緑の魔物へ、僕は恐る恐る尋ねた。

「こ、この蝶ってもしかして…」
「ああ、以前話した”歪み穴”を感知できると言われている”翡翠蝶”だ。」
「ッッ!!?!」
(っぉ、わ、ぁ、ああぁ……!っこ、これが、あの、”翡翠蝶”……!!)

 

僕が酷く精神不安定だった時、魔物は落ち着くまで僕を抱きしめながら、色々と魔界の話をしてくれた。


その中の一つに青緑色の翅を持つ、かなり長い距離を旅する蝶の話があった。
翡翠蝶と呼ばれるその魔物は、移動の際に感知した”歪み穴”を利用するのだという。

”歪み穴”は、魔界の恐ろしい自然現象の一つとして知られている。
白緑の魔物によると、高位の魔物であってもその存在を感知するのは難しいらしい。
そもそも危険すぎて、普通は利用なんてできる代物ではないそうだ。
 

「っこ、こんなに綺麗で儚げなのに、あの”歪み穴”を利用するんですね…っ!」
実際出会えた感動に胸を震わせながら呟くと、研究者は補足説明をしてくれた。
「ああ、だが強靭性が高いわけではない。
 察知能力を特化させ、徹底的に危険を回避する生存戦略を取ったのだろう。
 ”歪み穴”の利用も、その過程で編み出したのだと考えている。」

そんな翡翠蝶はもともと個体数が少ない種であったらしい。
そして今自分の肩に止まっているその蝶が、確認された中では最後の一匹であり、この個体が死んだら絶滅するところだったという。
 

「…だった…?」
「ああ。…ほら、もう一匹きたな」
ひらひらとやってきた翡翠色の輝き。
その蝶は仲間を迎えに来たかのように、僕の肩にいた蝶に近づき、戯れ始めた。
そんな2匹の微笑ましい様子を眺めていた僕に、魔物が驚きの研究成果を伝えた。
 

「あの後にやって来た方の蝶…
 あれは人工的に作った細胞に、お前の魔力を注いだ結果生まれたものだ。」
「っ!!?ぼ、僕の魔力を……?!」
「ああ。今までも細胞を培養し様々な生物の魔力を使って試したが、どうにも上手くいかなかった。」
そこでかなり薄めた僕の魔力を使ってみたところ、安定した個体を生み出せたのだという。
魔物はそれを達成感をにじませながら話してくれた。
 

(安定した個体を生み出せた…
 ということは、あの蝶が生まれるまで不安定な個体、”失敗作”も生み出されていたって事だよな…)
楽しそうに追いかけっこをする蝶たちを目にしながらも、考えずにはいられなかった。
この光景を生み出すために、どれだけの命が積み上げられたのか、と。

成果は手放しに凄いと思う。
それに自分の魔力が役立ったことも、なんだか誇らしくも感じる。
でも、”失敗作”の蝶たちのことを考えると、手放しに喜んでいいのか分からなくなった。

「……、」
(人間だって動物実験を色々やっている。自分だって医療とかを受けることでその恩恵を受けている…)
さっきの話だけで、白緑の魔物の倫理観が特筆すべきほど低いとは言えないのではないか。
まして、相手は魔物だ。人間の倫理観を押し付けるのだって傲慢だろう。

一人もやもやと考えていると、遊び疲れたらしい蝶たちが僕の方に戻ってきた。
そして、左右の肩で各々一休みし始めた。
 
(……今はまず、良かったことに目を向けておくか)
 
 


今回はここまでにします~
ではまた~ 

1話目はこちら




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