Society for Text & Discourse 2020@Cyberspace に参加しました
Society for Text & Discourseの2020年の年次大会に参加(と発表も)しました。この学会への参加は3年連続3回目で,本来であればAtlantaのGeorgia State Universityで行われるはずでしたが,今年はパンデミックの影響で7月21-22日でオンライン開催となりました。(※下書きのまま止まっていて,参加から随分時間が経っての公開になっています)
オンライン開催について
どのようにオンラインで開催したかというと,発表者はスライドを使った5分程度のプレゼン動画をFlipgridというウェブサイトにアップロードし,それと同時にウェブ上のプログラムに2,500 wordsを上限としたPreprintを掲載するという形で行われました。(一部の発表はPreprintが掲載されていませんでしたが…)基調講演など一部のプログラムはZoomでリアルタイム配信されました。個人的にはPre-conferece workshopを楽しみにしていたのですが,そちらは中止になってしまい残念です。
研究発表については,いつもは20分の発表を聞いているところを5分で済むので,まずは気になる発表の動画をいろいろ見ていって,さらに興味を持ったらPreprintを読むという形で参加でき,効率的で良かったなと思います。また,学会の日時よりも前に(後にも)公開されていたので,多くの動画を少しずつ何日もかけてみるということもでき,個人的には結構好きな方法でした。国際学会は参加者の居住地で時差もありますし,英語の発表は母語話者でない者からすると理解したり吟味するのに時間が掛かるので,その点でもこの方法は良かったかなと思います。
Flipgridにアップロードされた動画には一応コメントや質問もできるのですが,そのコメントも動画で行わなければならないので,コメントはどの発表もそんなに多くない感じでした。このあたり,文字でのコメントができるようになるとだいぶ違ったのではないかと思います。実際,私の発表に対しても動画でのコメントに加え,メールでのコメントも数件いただきました。
基調講演
基調講演は本学会の前会長でもあるDanielle McNamaraで,Chasing Theory with Technology: A Quest to Understand Understandingというタイトルでした。有名なところでいうとCoh-Metrixの開発者で,最近だとReaderBenchというツールの開発にも携わっています。これらの研究によって,以下に述べるような近年のこの学会の特色が強まったのは間違いないと思います。発表自体はこれまで開発したツールやその功績を振り返るというもので新しいものではありませんでしたが,リアルタイム配信だったので,夜中の二時に眠い目をこすりながらなんとか参加しました。
気になった発表
近年この学会に連続して参加しているのは,認知科学的な文章理解研究と自然言語処理のようなテクノロジーを活用した言語研究が多いことが理由の1つです。今回の学会でもこの2つの観点,あるいはこれらをミックスさせた研究をたくさん聞くことができました。以下で特に気になった発表をいくつかピックアップしたいと思います。
認知科学的な研究
認知科学的な研究で最も興味深かったのは,読解中の視線計測指標で文章の深いレベルでの理解 (deep comprehension) を予測できるかを検討した研究です。読解後に行われたself-explanation(読解した内容の理解を自分で説明する)を得点化し,それを予測する統計モデル(線形回帰,ランダムフォレスト)を読解中の注視時間や注視回数をもとに構築した研究になります。
Southwell, R., Mills, C., & D’Mello, S. (2020). Eye Movements During Reading Can Predict Deep Comprehension (No. 3838). EasyChair.
この研究は今自分が進めている研究と似ているとまでいかないまでも,関連の深い内容でした。この研究の前段階としてrote comprehensionを検証した研究が出版されているようなので,こちらも読んでみたいと思います。
D’Mello, S. K., Southwell, R., & Gregg, J. (2020). Machine-Learned Computational Models Can Enhance the Study of Text and Discourse: A Case Study Using Eye Tracking to Model Reading Comprehension. Discourse Processes, 1-21. https://doi.org/10.1080/0163853X.2020.1739600
また,音韻処理に関わる脳内反応と若年者の単語認知能力との関わりを見たものも興味深かったです。必ずしも明確な結果は得られていないのですが,Behaviralな音韻処理の指標とNeuralな音韻処理の指標を比較し,どちらもが5歳から8歳間の単語認知能力の伸びを予測することを示しています。Behaviral vs. Neuralという視点が面白いと思います。
Yamasaki, B. L., McGregor, K. K., & Booth, J. R. (2020). Exploring the Role of Language-Related Neural Specialization in Early Reading Skill Development (No. 3852). EasyChair.
また,近年のこの学会で必ず発表されているのが Scenario-based Assessment という文章理解の評価方法を使った研究です。本当の定義はもっと複雑なのですが,簡単に言えばreading scenarioを与えることで受験者により柔軟な,高度な読みをさせようというものです。以下の研究もそれに該当しますが,この研究自体は要因が多いかつ結果が期待したものとは違っている印象があります。
McCarthy, K., Steinberg, J., Dreier, K., O'Reilly, T., Sabatini, J., & McNamara, D. (2020). Revisiting the Reverse Cohesion Effect: Influences of Text Cohesion, Prior Knowledge, and Foundational Reading Skill on Scenario-Based Comprehension Assessment Performance (No. 3879). EasyChair.
テクノロジーを活用した研究
近年増えている認知理論とテクノロジーを掛け合わせた研究も多くありました。文章理解研究でしばしば扱われるSelf-explanationとThink aloudという手法があるのですが,これらの発話をNLPツールで分析・比較するという研究があり,認知理論とテクノロジーの2つのアプローチを掛け合わせた好例だと思います。
Creer, S. D., McCarthy, K. S., Magliano, J. P., McNamara, D. S., & Allen, L. K. (2020). Self-Explanation vs. Think Aloud: What Natural Language Processing Can Tell Us (No. 3624). EasyChair.
結果的にはSelf-explanationでの発話のほうがNLPツールで評価される結束性が高くなっており,これはSelf-explanationがThink aloudよりも言語や思考をまとめることを促しているという主張につながります。このようなアプローチはいろいろな方面に応用できそうです。
形態素分析を自動的に行うツールを活用した研究もありました。具体的には,語形変化があった語(inflextion, derivation)の割合をツールを用いて算出して,日本人英語学習者のwrittenとspokenコーパスを分類できるかというものです。このツールの応用の仕方としては文書分類よりも適切なケースがありそうですが,アプローチ自体は参考になります。
Tywoniw, R., & Crossley, S. (2020). Using Automatic Measurements of Morphological Features to Distinguish Spoken and Written Discourse (No. 3912). EasyChair.
最後に,これはかなり自分の理解を超えていた研究ではあるのですが,単語ベクトルを平均して文ベクトルを算出した場合のモデルと,文を1つの単位としてベクトルを算出するモデルで,文処理の際のfMRIデータに対する予測力を比較したものがありました。細かいモデルの仕組みは理解できていませんが,結論は "sentence representations in the brain are more than a combination of word semantic representations." という明快なものになっています。
Seyfried, F., & Li, P. (2020). Comparing Sentence-Based and Word-Based Semantic Space Representations to Brain Responses (No. 3877). EasyChair.
来年の開催
来年はノルウェーのOsloで開催の予定だったのですが,最近になってこちらもオンライン開催が決定しました。http://www.societyfortextanddiscourse.org/std-2021-transition-to-a-virtual-conference/
オンラインだと参加費も安くなりますし(今年は会員は25$でした),今年のような開催方法であれば時差もあまり関係ないので,日本からも参加しやすくなるでしょう。
ちなみに2022年は今年やるはずだったAtlanta,2023年はOsloとなっています。
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