
Kim & Crossley (2018),Kim et al. (2018) のレビュー
タイトルにある2つの文献についてレヴューする。1つはライティング,もう1つはリーディングに関するもの。レヴューといっても内容をまとめるようなものではなく,紹介と感想という感じなのでそこはご容赦いただきたい。
まずは1つ目。
Kim, M., & Crossley, S. A. (2018). Modeling second language writing quality: A structural equation investigation of lexical, syntactic, and cohesive features in source-based and independent writing. Assessing Writing, 37, 39-56. doi: 10.1016/j.asw.2018.03.002
TOEFLのライティングコーパスを使って,その得点を予測するモデルを語彙,統語,結束性の特徴に基づいて構築するという論文。分析はSEMを使っていて,語彙特徴はお決まりのTAALES,結束性はTAACO,統語特徴はSCAを使っている。
ライティングの研究はあまり馴染みがないのだけれど,論文の記述に基づくとsource-based writingとindependent writingを個別に分析するのではなく,それらに共通する言語的特徴を見出そうとしていることや,writing promptや性別,EFL/ESLによるmeasurement invarianceを検証しているところに独自性があるそう。
結果としては,語彙性判断時間の反応時間,節の長さ,段落間の語彙の重複がモデルに含まれている。反応時間はL1 speakerのものに基づいているんだけれど,採点者が同じくL1 speakerだからその指標が有意になったのだろうと論文では述べられている。この反応時間は別の研究でも効果が有意になっていたりしているが,個人的には他の語彙指標(コーパスにおける頻度など)を差し置いてこの影響が最も強くなるのが不思議に感じる。
あとDiscourse processingを主な研究対象としている立場としては,なぜ隣接する文間の語彙重複 (local cohesion) ではなく,段落間の語彙重複 (global cohesion) のほうで影響があったのかというのを,もう少し理論的に考えたいなと思った。論文中ではライティングタスク (source-based writing or independent writing) との関連が指摘されているけど,その先が気になるところ。
語彙,統語,結束性という言語的特徴の評価やそれを学習者の認知的なプロセスとどのように結びつけるかという観点で,とても書き方が参考になる論文だった。また,統計分析についても前提などを含めてとても丁寧に書いている印象。勉強になりました。
次に2つ目。
Kim, M., Crossley, S. A., & Skalicky, S. (2018). Effects of lexical features, textual properties, and individual differences on word processing times during second language reading comprehension. Reading and Writing, 31, 1155-1180. doi: 10.1007/s11145-018-9833-x
リーディングを扱っているこちらのほうが自分の専門,興味には近い。実験文はsimplifyされた初級向け,中級向けのESLテキストと,authenticなテキストを用いて,word-by-word readingをさせた時の処理時間を,語彙特徴(頻度や具象性,orthographic neighborhood densityなど),テキスト特徴(テキストのレベルや読解順序),個人差(読解力や背景知識)を要因に予測しようとした研究。
語彙やリーディングに関する知識がないと,上の論文よりもちょっと読みにくいかも。あとはデータがCrossley et al. (2014) * のものに基づいているので,こちらを先に読んでおくほうが読みやすいと思う。
結果としては語彙の頻度,具象性,orthographic neighborhood density,テキストのレベル,テキストの読解順序,単語がテキストに出てくる位置,L2読解力が有意に単語処理時間を予測していたことが示された。
単語処理の時間なので語彙特徴が影響するのはある程度当たり前なんだけど,ちなみに具象性とorthographic neighborhood densityに関しては阻害効果である。
「テキストのレベル」というのはCrossley et al. (2014) で分類されているもので,Coh-Metrixで言語的特徴の各種指標がレベル間で異なることが示されている。もちろんその中には語彙特徴の指標も入っているわけで,そういった意味ではここでいう「テキストのレベル」という言葉の解釈は少し注意が必要かなと思う。
テキストの言語的特徴とL2リーディングの関わり,という点では自分の研究関心と重なることが多く,大変面白く読ませて頂いた。今回は単語処理を分析データにしているので,要因に統語特徴とか結束性は入ってこないのはまぁ分かるけど,そのあたりを今後の自分の研究などを見据えながらいろいろと考えさせてもらった。
ところで,本論文の筆頭著者であるKim Minkyungさん,夏の国際学会でお会いした時に伺ったのですが,9月より名古屋商科大学に着任されたそうです。日本の学会などにも出てみたいとおっしゃっていたので,もしお会いする機会がある方はいろいろとお話ししてもらえるとよいと思います。日本でもぜひ,新進気鋭の研究者としてご活躍して頂きたいですね。
*この研究は同じくReading in a Foreign Languageに掲載されたCrossley et al. (2011) がさらにそのもとになっていて,さらにその後に同誌に掲載されたCrossley and McNamara (2016) と合わせて一連の研究となっている。この一連の研究も後日レビューしたい。