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真菰(マコモ) ヌチグスイ*⑨
また、マコモダケの美味しい季節が巡ってきた。クセのないホックリとした歯ごたえと、ほんのりとした甘みと香りを想像して、食欲の秋の到来をわたくしは喜ぶ。真菰という植物の茎に黒穂菌が繁殖して可食できる部位になる、という不思議な野菜。
わたくしがマコモダケを初めて口にしたのは、15年ほど前だった。たまたまお昼時に通りかかった自然食品店のごはん屋さんの、日替わりランチのメニューにマコモダケの天ぷらが在った。
熱々の天ぷらは、それまで味わったことのない、滋養と過不足のない美味しさをわたくしに与えてくれた。店主が「この季節だけ食べられるんですよ。」とマコモダケの実物を示しながら、マコモダケの良さをおおまかに教えてくれたのが、私とマコモダケのご縁の始まりだ。
マコモダケについて詳しく正しく、レシピも示してくれているのは、このサイトである。↓
https://macaro-ni.jp/20360
最初は「美味しい」、その食いしん坊な動機一直線だったのが、段々と秋が巡る度にわたくしの目の前にひょっこりと現れては、植物としての真菰(マコモ)の様々な面白い側面を見せてくれるようになった。
例えば、奈良の石上神宮の鎮魂祭に参列するために立ち寄った、天理駅前広場の産直品ショップで、マコモ茶のパックを手にした。お茶が在ることに驚いて、お土産に買い求めた。香ばしく軽い味わいのお茶をしばらく楽しませてもらった。今では各地で栽培される真菰のお茶や粉末が販売されているようで、通販でも簡単に入手できるようだ。
そして、わたくしにとっては、食材としての真菰にとどまらず、神事に関わる、聖なる植物としての真菰を知ることになった。
何度も参拝した出雲大社。なんと、あの有名な神楽殿の大しめ縄が真菰でできていた。さらに、重要なご神事にも真菰は使われ、神性が宿る聖なる植物として氏子の方々が持ち帰るという習わしも知った。神が憑依した神官に触れた真菰は大いに霊性を帯びて、護りの力を発揮すると信じられているのではないだろうか?かように出雲大社では、真菰の持つ聖性を活用し、厄除け、祓の力にあずかるのである。
https://www.543life.com/sengusaijiki6.html
そして、全国の八幡宮の総本社である宇佐八幡宮の祖宮ともいわれる薦神社のご由緒では、凶賊を討つ百王を護る神様所縁の真菰で編まれた枕について託宣が下った神池の記述も残ると。
http://komojinja.jp/publics/index/11/
八幡宮の神様の依代となった、薦で編まれた枕。出雲大社の真菰のしめ縄。国津神にとって真菰は重要な意味と力を帯びた植物である徴が今も残されていることに驚かされる。
今のわたくしには、ただ美味しさを堪能し、命を健やかに養う秋の味覚のマコモダケである。けれど、はるか昔の神話の時代は、生活の中で枕や縄、敷物になって身を護り、秋には食材にもなってくれるありがたい植物としてたいそう喜ばれた植物だったのだろう。
お気楽な現代人のわたくしは、輪切りにしたマコモダケをベーコンとアスパラガスと一緒にオイスターソースで炒めて、秋の滋養食・ヌチグスイとする。今年の秋もこの美味しさを嬉しく味わいながら、聖なるマコモの謎めいた深い歴史に思いを馳せる、秋の夕暮れである。