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マイクロノベル集「遠い山の話」

マイクロノベルNo.1964
「川を流れてきたの」娘が拾ったのは、百均で売っていそうな安っぽいお椀。娘はそれを気に入って毎日使っている。「今日のお味噌汁は量が少ないんじゃない?」今ならわかる。減った分は神様が飲んでいたんだ。今日、娘は私の味を受け継いで、山へと嫁いだ。


マイクロノベルNo.1965
早朝、遠くの山に雲がかかっていた。昨夜、この辺に大雨を降らせた雨雲だろう。あっちではまだ降っているんだろうか? あの辺に住む友人に電話してみた。「雨か? ああ、降ってるよ。夜の土砂降りってのは気味が悪いもんだね」それは僕の声だった。


マイクロノベルNo.1966
山に染み込んでいたものが、周囲のものを押しのけて染み出してくるんだ。山の中で磨き上げられた悪意は、ちょっと堰き止めた程度じゃ折れたりしない。あれが、俺たちがかつて投げつけた悪意。説得? お前は山が崩れる寸前に金を積むのか。とっとと失せろ。



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