マイクロノベル集 349「夢と幻、あと忠犬」
マイクロノベルNo.1897
あの山に近づいてはならん。あれは近くから見れば本物そっくりだが、杜撰な幻なんだ。遠くから見ればはっきりわかる。たまに帰ってくる者もいるが、奴らが持ち帰った水や食べ物を絶対に口にするな。ましてや種を植えるな。広がったら、この地も幻に沈むから。
マイクロノベルNo.1898
裏道を抜けて山へ。これは表道からは絶対にたどり着けない山に続く、秘密の通路なんだ。そこに棲む狸は言葉を話す。「このあたりの鼠は食い飽きた」ペロリと手を舐める。「土地で味が違うのさ。基本は女。そして金。名誉。そろそろ夢とやらを喰ってみたい」
マイクロノベルNo.1899
病院の自動ドアの前で犬がお座りしている。「開けて下さい。ご主人様が病気なのに、自動ドアが反応しなくて」犬の首についた赤いリードは病院の中へ。「ご主人様が心配です。入れて下さい」よしよし。特別に入れてやろう。さて、予防接種の準備をするかな。