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オノマトペって面白い!「寄り道のつもりがライフワークになった」名大研究者
「ふわふわ」「くるくる」「ドッキリ」「ニャー」・・・、これらはみんな「オノマトペ」。国語の授業で習った「擬音語・擬態語」といえばピンとくるかもしれません。このオノマトペを題材として、言語の誕生や進化、さらにはヒトの根源にまで迫る新書『言語の本質』(中公新書)が5月の発売以来、発行14万部を超すベストセラーとなり話題を呼んでいます。
著者の一人が、名古屋大学文学部の秋田喜美(きみ)准教授。オノマトペ研究の第一人者として知られる秋田先生に、言語学においてもサブカル的(?)なオノマトペの奥深さや面白さ、研究にのめり込んだいきさつなどをうかがいました。
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続々と生まれ、進化するオノマトペ。「新語大賞」「流行語大賞」でも話題に
「仕事に追われてセカセカ、イライラしちゃって」「ソファでウトウトしていたら飼い犬がキャンと吠えてハッと目が覚めた」・・・など、私たちが日々当たり前のように使っているオノマトペ。SNSでは新たな造語が続々と生まれ、最近では、泣いている様子を表す言葉「ぴえん」が若者に浸透し、辞書を編纂する専門家らが選ぶ「今年の新語」大賞に選ばれ、各種の「流行語大賞」にも選ばれるなど注目を集めました。
そんなオノマトペを言語学として探究するのが、文学部の秋田先生。オノマトペを「感覚のイメージを音で写し取った言葉」と表現します。たとえば「ドサッ」「さらさら」「ポツリ」といえば、誰もがなんとなくその状態や動きを連想できるのが特徴です。
では、ここで質問。「コロコロ」と「ゴロゴロ」を比べ、大きくて重いものが転がるのはどっち――? 答えは言うまでもありません。先生はこれを、オノマトペの語音とイメージが類似していると感じられる「アイコン性」だと説明します。
日本語だけでなく世界中の言語に存在するオノマトペは、その語音とイメージが万国共通かといえば、そうではないのも不思議なところ。日本語の「ワンワン」は、英語では「バウワウ」。ネコの鳴き声は英語で「ミアウmeow」、韓国語で「ヤオン」。母国語が違えば語音も異なり、必ずしもイメージや連想が合致しないのも不思議です。
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奥深さに魅せられ「寄り道のつもりが、気付けばライフワークに」
秋田先生は学部生時代に英語学を専攻し、修士課程で英語の文法や感情表現について研究する中で偶然、オノマトペに巡り合いました。「英語のworryを日本語にすると“くよくよ”。surpriseは“びっくり”。英語と比較して日本語は感情を表すオノマトペが多いことに気付き、コレだ!と思いました」と振り返ります。この気付きをきっかけに、博士課程では世界のオノマトペをテーマに論文を執筆。以来20年近く言語の研究を続けてきました。
今でこそオノマトペは注目されるようになってきましたが、「言語学の世界では本流でなく“周辺的”な存在とされる一面もあり、研究者としてオノマトペでやっていけるかどうか不安もありましたが、“これしかない”と賭けに出ました」と明かします。
新書『言語の本質』の中で、「オノマトペのことを考えていると、知りたいことがムクムクと湧き上がってくる」と記した秋田先生。「普通の言葉(たとえば「ウサギ」)は音から意味を推測できないのに、なぜオノマトペは音から意味が分かるのだろう?」「どういう音とどういう意味が「似ている」と感じさせるのだろう?」「音と意味のつながりの関係は生まれつき決まっているのだろうか?」「AI(人工知能)にオノマトペを作ることができるだろうか?」と、興味は尽きることがありません。
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人間とは何者かを知らされるオノマトペ。言語学の面白さと研究意義を伝えたい
現在取り組んでいるプロジェクトが、オックスフォード大学出版局によるオノマトペやアイコン性の研究史・論文集の編集 です。着手からすでに3年かかっている大作で、編者として世界各国の研究者と連絡を取り合いながら、2024年の刊行を目指して膨大な情報の整理と編集作業を進めています。
世界中の研究者も言語として認識するオノマトペ。学術的、社会的な存在感の高まりもあってか関心を寄せる学生が増え、現在は3人がオノマトペの研究に取り込んでいるとのこと。「何かを壊すときの音」を検証している学生は、日本語、中国語、英語の3言語について母語の異なる話者による擬音語の感覚の違いを研究中です。
「オノマトペを掘り下げることで、人間がこれほど複雑なコミュニケーションを行えることに驚かされると同時に、人間の知性のすごさを垣間見ることができます」と、魅力を語る秋田先生は「理工系のようにわかりやすい社会還元はなかなかできませんが、オノマトペを通じ、人文学の研究で何が見えるか、その面白さを伝えたいです」と、今日も思索にふけります。
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