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初老のふたり

帰省の日が近くなり、履いていく足元が気になっていた
そんな時夫からのお誘い
「俺、靴を買いたいんだけど一緒に出掛けない?」
二つ返事でオーケーした

靴屋はなかなかの混雑ぶり
それはそうだ、バーゲンはすでに始まっている
30%オフのアイキャッチにつられサンダルを手に取った
斬新なデザイン、私に似合うだろうか、若すぎないかな
オフしてのこのお値段
あれやこれやと考えていると
「買ってあげるよ、俺のこずかいでさ」
夫、いい男になったな
「いいの?わるいわあ」といいながらもワンチャンスは逃さない

デザインが決まりあとは色の選択
ブラウンとベージュで悩んだ末、何にでも合うか、とベージュに決めた
レジへ持ち込むと頭の計算と違う金額を言われ

店員のお兄さんが「こちらは定番の色でございますので割引はありません」と。
早く言ってよ
色で悩んでる私を隣で見てたくせに
スポンサーに相談すると
「気に入った方を買えばいいでしょ」
夫、今日はほんと、いい男になったな

夫自身の靴は決めかねて二人で店を出た
夫が不意に「コーヒー飲みたいんだけどどっか入っていい?」と尋ねてきた
ここはショッピングモール、なんだってあるのだ
「うちのコーヒーメーカーの抽出がどの程度か知りたいんだ。飲み比べてみたい」
そうか、そうか、もちろんいいよ。ごちそうするから好きなの飲んで。  しかし夫のホットコーヒー一択は明白、私はアイスコーヒーだけど。
カウンターで受け取りテーブル席に向かい合った

店内に流れているのはジャズだ
軽い疲労感に包まれて女性ボーカルの歌声にしばし聞き入っていた
そして自分では手に取らないであろう高価なサンダルの事を考えた
私はうれしいのだ
うれしいから今履いていこう
新しいサンダルを箱から取り出し、履いてきた方をその中にしまった

どう?
いいんじゃない?

ねぇ、これってビリーホリデイかな
そうだね、この歌声はビリーホリデイだね

私、昔好きだったよね、女性ボーカルのジャズ。奇妙な果実も持ってたもん
知ってるよ

外は雨だ
私は記憶をたどろうとしていた
ビリーホリデイから今に至る二人の道のりを。
いや、そんな大げさなものでなくていい
ただ、同じ時代を生きてきた者同士の確認を楽しもうとしていたのだ。

私がサンダルを脱いだり履いたり、または店内に流れる曲について考えている間、夫はただただずっと頭を下げてスマホの画面を眺めていた

ねえ、さっきから何見てるの?
さっき見つけた靴の色で悩んじゃって。ずーっとネットで確認してたんだ。昔の思い出話よりも「傘がない」ってことかな

参りました
初老のふたり
同じ時代を確かに生きていました







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