『AI素人vs.数学者』
『AIvs.教科書が読めない子どもたち』
新井紀子/東洋経済新報社
「AI」
この言葉に対してみなさんはどんな印象をお持ちでしょうか?
私の印象は、
・最先端の技術
・勝手に成長していく
・いつか人間の能力を超える
・よくわからんけど、とにかくすごい技術
・ここまできたらもう理解が追いつきっこないっす
以上。
AIの技術によりこれまでできなかったことが次々可能になっていく。そういうニュースを聞く度に、理系(とくに機械系)が苦手な私はAI様が遠い存在に思えてくる。
AIについて考えることを私の脳が諦めている。
いや、拒否していると言ってもいいかもしれない。
それでもなんとなく、
「これじゃダメだ」
「世間に置いてけぼりにされる」
そんな思いでこの本を手に取ってみることに。
数学者の方が書かれた本ではあるけれど、私のようなAI初心者にも大変わかりやすく書かれています。
しかし、普段こういう分野の本を読み慣れていないと少し疲れてしまい、やはりAI様と向き合うことから逃げそうになるかもしれません。
それでも最初は少し耐えて、63ページの「AIが仕事を奪う」のところまできたら、それ以降は自分事のように感じられるゾーンにくるので、AIに苦手意識がある方も最初だけ少し乗り越えれば大丈夫だよということを先にお伝えいたします。
以下、私がこの本を読んで感じたことです。
1.AIは人間が作っている
当たり前と言えば当たり前なのですが、このことを改めて知ることができました。
どこか魔法のようなイメージがあったのですが、実際は多くの研究者が地道にデータを収集し、読み込ませることで成り立っているのです。
漠然と「AIがあれば、何でもできる!AI万歳!」というイメージを持っていました。作者の新井さんが聞いたらうんざりすることでしょう。
たしかに科学技術の発展は加速度的に進化を遂げています。しかしだからと言って何でもできるわけではない。
何ができて、何ができないのか。
できない部分はなぜできないのか。
今後できるようになる日は来るのか。
このようにAIの可能性と限界を冷静に教えてくれるのがこの本です。
私なりにこの本のタイトルをつけるなら次のような感じでしょうか。
『AIに無知な人間(私)の漠然とした期待 vs AIの作り手が語る現実』
2.なぜAIに幻想を抱くのか
アレクサに話しかけると、あたかも人間かのように反応してくれます。
これは技術者が一生懸命そうなるように仕向けているからであって、アレクサ自身に感情があるわけではありません。
そうなの!?
と驚いてしまいます。
作者は「シンギュラリティ(AIが人間の能力を超える地点)は到来しない」と述べていますが、四則演算だけでは、たしかに人間の能力を超えるのは難しいのはイメージが湧きます。
それでも、やはりAIが人間のようになる日が来るのをどこかで期待している(恐れている)自分を完全に消し去ることはできません。
これまでの科学技術の発展を見ると、一般人が「到底無理だろう」と思っていたようなことが次々と可能になっており、AIに限界があると言われても、「またまた〜、そんなこと言ってぇ。なんやかんやでどこかの誰かがすごい技術を発明して、一気に成長するんでしょ」みたいな感覚があることは否めないのです。(作者の大きなため息が聞こえてきそうですが)
その可能性はきっとゼロではない。
しかし、論理的な考えでもない。
であれば、冷静に今の技術を見つめなければなりません。
AIを魔法として崇めるのではなく、可能性と限界を示し、どんな分野なら活かせるかを見極めていく必要があります。
3.AIに仕事を奪われる!?
この本の本当のタイトルは
『AIvs.教科書が読めない子どもたち』です。
なぜこのようなタイトルなのでしょうか。
AIに仕事を奪われるというのは本当か?
↓
AIにも、できることとできないことがある
↓
人間はAIにできないことをすればよい
↓
AIは「理解する」のが苦手
↓
しかし理解する上で大切な「読解力」が子どもたちには欠けている
↓
なんとかせねば!!
ここで改めてタイトルを。
『AIvs.教科書が読めない子どもたち』
本書では、子どもたちの読解力のレベルが例題とともに示されています。
正直、目を疑うような結果でした。
私自身、読解力がそんなに高い方ではないと思っていますが、この例題のレベルを理解できない人が多いならば今後の社会に不安を抱かずにはいられません。
私には小学生の甥っ子がいるのですが、彼は算数が得意で、国語が苦手です。
なのでただの計算式だけならすぐ解けるのですが、文章が入った計算問題は苦手です。
たとえば、
「140÷0.7=」
は解けても、
「ある商品を3割引で購入したら140円になりました。元の値段はいくらでしょう?」
という文章から
140÷0.7
という式を導き出すのが難しい。
人は得意不得意があるので甥っ子を責める気はまったくありません。
ただ、140÷0.7のような計算はAIでもできるけど(このレベルなら電卓でもできますが)、文章から140÷0.7を導き出すのは難しい。
つまり読解力こそがAIの限界を補う能力なのに、それが苦手な子どもたちが多い。
就職で苦労することが増えるし、そういう人が増えれば社会全体の問題にも発展します。
4.私たちはAIの不足を補うために生きているわけではない
意味を理解しないAIに、「明日のデート、どっちの服にしようかな?」と話しかけたら何と返ってくるのでしょうか?
その女性と服の画像から、どちらが似合うか判断して「こっちの服のほうが似合いますよ」とか、「明日は風が強いからスカートよりパンツスタイルの方がいいですよ」とかでしょうか。
しかし、彼女が本当に服のアドバイスを求めているとは限りません。
デートができる幸せを誰かに言いたいだけかもしれません。
彼女の言葉の真意を探るには、これまでの彼との関係、声のトーン、表情など様々な要素が必要になります。
この見極めは、人間でさえ難しい。
しかしこういうコミュニケーション能力こそが普段の生活でもとても大切です。
心理学で有名なアルフレッド・アドラーは「すべての悩みは対人関係」と言っています。人間が幸せに生きるためには、良好な対人関係が必須です。そして対人関係に大切なのはコミュニケーション能力や読解力です。
つまりこれらの能力を身につける意味は、単にそれがAIにとって難しいからということではなく、そもそも生きる上で大切な能力、人生を豊かにするために必要な能力だからだと言えます。
5.AIとの向き合い方
作者は今後のビジネスについて次のように書いています。
私はこれはビジネスだけではなく、生きる上でのヒントになると思います。
人が幸せに生きるためには何が必要なのか、大切な人の笑顔を守るためには何ができるのか。
この本を読むまではAIに対して漠然とした期待と不安を抱いていましたが、AIありきではなく、こういう根本的な部分から見つめ直す中で、AIとの向き合い方を考えていこうと思いました。
6.まとめ
この本を読み終えて、AIの印象が次のように変わりました。
・魔法ではなく、人力で作った道具
・AIにもできることとできないことがある
・コミュニケーション力や読解力など、生きる上で大切な能力こそ、AIは苦手
AIについて学べたことはもちろん良かったのですが、そもそも人間にとって大切なものは何かについても考えることができたのは予想外でした。
AIが四則演算をしているということで一気に親近感か湧いたので、今後もAIの動向に注目していきたいと思います。