ワインは見た目がすべて? | ワインの色と分類の関係
先日、Twitter上で面白いPostを目にしました。
記事を拝見すると、気になることが2つほど。そのうちの1つ目が、
「ホワイト・ピノ・ノワール」ってなんだ??
今まで聞いたことのない名前です。WINE FOLLYの、「ザ・ガイド・トゥ・ホワイト・ピノ・ノワール」という記事から引用されているそうですが、寡聞にしてこの時までこの表現方法を知りませんでした。面白い呼び名があるんですね。
そして2つ目が、この記事のテーマでもあるのですが、ホワイト・ピノ・ノワールは「白ワイン」なのか、という点。
ちなみにこのPostに対する私の反応はこんな感じです。
(ヒマワインさんの記事、とても面白いのでぜひ読んでみてください)
さて少し話の矛先をかえて質問をさせてください。
この記事を読んでくださっている皆さんは、ワインの見た目を考えて、と言われたら何を思い浮かべるでしょうか?
おそらく多くの人が赤、白、ピンク。もしかしたらオレンジの色を思い浮かべるのではないでしょうか。たぶん、いきなりブドウを思い浮かべる人はそう多くないはずです。第一、ブドウはまだワインじゃないのでワインの見た目、ではちょっとなさそう…
ワインは世界中に星の数ほどありますが、そのすべてが一つの基準に則って分類できます。
それが「色」です。
赤ワイン、白ワイン、ロゼ。最近ではオレンジワイン。
これらはすべてワインの「色」で、つまりワインは見た目で区別されているように思えます。グラスに注がれたワインを一目見たその瞬間に、ああこのワインは赤ワインだな、とか白ワインだな、とか分かるのですから、これほどシンプルな分類方法はないように思えます。
でも、それ、本当にそうでしょうか?
カラスの色は黒いのか
突然ですが、ちょっと話をカラスの話題にそらします。
皆さん、「カラス」を頭の中に思い浮かべてみてください。さて、それはいったいどのような鳥だったでしょうか?
おそらく99%くらいの方が黒い鳥を思い浮かべたのではないかと思います。人によってもっと詳細だったり、デフォルメされていたりするでしょうが、基本は「黒い鳥」で、赤や青、白い鳥を思い浮かべた方はほぼいなかったと思います。
さて、ここでちょっと考えてみます。
皆さんの頭の中ではカラスは「黒い鳥」です。私の頭の中でもそうです。
では、カラス = 黒い鳥の関係が成り立つとして、「黒い鳥」はすべて「カラス」でしょうか?
さらに、「黒くない鳥」は「カラス」では絶対にないでしょうか?
「黒い鳥」がすべて「カラス」でないことを証明するのは比較的簡単です。カラス以外の黒い鳥を1羽捕まえてくれば証明は完了です。黒鳥など分かりやすくていいかもしれません。
一方で、「黒くないカラスは存在する」を証明するのは骨が折れます。
なにしろ、黒いカラスを何百万羽捕まえてきても、それは「黒くないカラスはいない」という論理を補強するだけに終わります。もちろん、これをもって「黒くないカラスはいない」は証明できません。
世界のどこかにはまだ「黒くないカラス」が大空をのんきに飛んでいるかもしれないからです。
つまり「黒くないカラスは存在する」を証明するためには、実際に「黒くないカラス」を捕まえてくるしか方法はありませんし、「黒くないカラスは存在しない」を証明するためには世界中のカラスを1羽残らず捕まえたうえでそれを保証し、そのすべてが黒いことを実証するしかありません。
とてつもなく難しい要求です。
白ワインは絶対に白ワインか
なぜ突然カラスの話など持ち出したのかといえば、ワインにも同じ議論が持ち込めるからです。
赤ワインが赤いですし、ロゼは色味の濃淡に幅があるにしても一応はピンクを中心に赤系統の色がついています。問題は白ワインです。
白ワインはそもそも白い色はしていないわけですが、基本的は赤くない透明度の高いワインは白ワイン、のように思われている方が多いように思います。ここでは便宜上、赤やピンクなど明確な「色」を感じない色をまとめて「白」と表現します。
さて、果たしてワインが「白い色」をしていれば、それはすべからく「白ワイン」でしょうか?
先ほどのカラスの話と同じように考えてみます。
まず、「白くないワインは白ワインではない」という論理式の証明は比較的簡単に思えます。ワインが持っている色で白い以外の赤やピンクには赤ワインやロゼといった別の区分が用意されています。したがってこれらは「白ワイン」ではありません。
最近話題になることの多いオレンジワインは実はここでの「白くないワインは白ワインではない」という論理式の証明を見事なまでに妨げてくれます。理由はこのまま読み進めていただくとわかりますので、ぜひ続けてお読みください。
そうするとついついこの逆で、「白いワインは白ワイン」と考えてしまいたくなります。
なにしろワイン界隈にある、色の区分である赤ワイン、ロゼ、白ワインのうちで赤ワインとロゼはすでに定位置が決まっています。そうなれば残りの椅子に白ワインが座るのは当たり前のように思えます。そして残りの椅子とは、「赤く」なくかつ「ピンク色」をしていない、まさに「白い」であるはずです。
これをもって、「よし証明完了!」と言いたいところなのですが、ここでQ.E.D.を宣言してしまうとあなたの解答用紙には大きな赤いバッテンマークが書かれてしまいます。残念なことに、ワインの世界には「黒くないカラス」が存在しているのです。
実は見た目ではないワインの区分
ワインの業界における「黒くないカラス」は、実は「赤くない赤ワイン」です。
え、赤ワインは赤いもの、ってさっき話したよね、と思われた方、もう少しお付き合いください。
まず、「赤くないけど赤色をしたワイン」というものを考えてみてください。これ、ロゼです。
つまり、ロゼとは赤ワインの色が薄くなったもののことです。一丁前の顔をして赤ワインや白ワインと同列にいる分類のようにふるまっていますが、実はロゼは赤ワインの下に存在する区分です。
逆に言えば、赤ワインの赤い色が薄くなって、薄くなって、さらに薄くなってもう色味なんてないじゃない、となってもそれはあくまでも「赤ワイン」の透明バージョンなだけで、ロゼではあっても白ワインではないのです。
なんでこんな面倒くさいことが起きるのかというと、ワインの分類はその見た目では実はなく、出身でされているからです。
出身主義なワインの世界
ちょっと考えてみてもらうと、ワインの世界は意外なまでに出身主義です。
どの国の、どの地域の、どの畑の、どの年。もう出身しか聞かれていませんね。これと同じでワインの分類も出身主義です。
ワインの出身と聞くと出身地を思い浮かべやすいですが、「ワイン」自体の出身を問う場合は場所ではなく、ブドウの品種です。そのワインがどのブドウ品種を使って造られたのかで、そのワインの座るべき椅子が決まります。
逆に言えば、どの品種を使って造られたのかさえ明確であれば、そのワインの色を見る必要はありません。最低限度はそれだけで分類できてしまうのです。
さてこのブドウ品種による分類ですが、簡単に言ってしまえば「白ワイン用品種 (白ブドウ)」で造られたのか、「赤ワイン用品種 (黒ブドウ)」で造られたのか。これだけです。
そのワインが白ワイン用ブドウ品種で造られていたのであれば、そのワインが仮にオレンジ色をしていようがピンクっぽい色をしていようが、それは分類上は「白ワイン」です。逆にそのワインが黒ブドウから造られていたのであれば、それは赤ワインで、見た目が特に透明に近い色をしていたのであれば別にロゼという分類が当てられます。すでに書いたとおり、「赤ワイン > ロゼ」の関係であることに変わりはありません。
赤ワイン用品種から造られた白ワインっぽいワインといえばブラン・ド・ノワール (Blanc de Noirs) が有名ですが、これも「赤」の白、と赤であることを明言しています。
余談ですが、上記のホワイト・ピノ・ノワール、このブラン・ド・ノワールの英訳ともいわれているようです。じゃあブラン・ド・ノワールは全部ホワイト・ピノ・ノワールかといえば、もちろん違います。黒ブドウから造られた透明に近い色をしたワインがすべてブラン・ド・ノワールですから、この理屈でいえば、ホワイト・カベルネ・ソーヴィニヨンも、ホワイト・メルローも、ホワイト・シラーだって成り立ちます。
こちらの商品では商品名には「オランジュ」と書かれていますが、同時に「白ワイン」とも明記されています。甲州は白ワイン品種なので、甲州を使っている以上はこのワインは100%白ワインに区分されます。
分かりやすければそれでいいのか
「そんなことを言っても、見た目が白いんだから白ワインでいいじゃない」
そうしたご意見があることは百も承知です。それにその方がお客さんも混乱しなくていいのかもしれません。でも、それ、白ワインじゃないんです。
「白い色」かもしれませんが、「白ワイン」ではありません。
欧米人から見れば東洋人は誰も同じような顔に見えますが、国籍を間違えられた場合には大概の場合において訂正します。東洋圏であることに違いはないしそれでいいか、とはそうそうなりません。
つまりはそういうことなのかな、と思います。
それに「これ白ワインっぽいけど、実は赤ワインなんですよ」と売り込んだ方が受ける気がします。
日本語には「っぽい」という非常に使い勝手のいい表現があります。
ぜひこれを使って分かりにくさを回避しつつ、分かりやすく「赤くないけど赤ワイン」もしくは「白いけど白ワインではないワイン」を紹介していっていただければと思います。
こじんまりとワイン用ブドウの栽培やワイン醸造のお手伝いもさせていただいています。
最近ちょっと上手くいっていないんだよね、とか、自分だけでやるのに行き詰まりを感じてて、なんて感じている方はお気軽にお問い合わせください。
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