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「家族という信仰」を乗り越える。ー『ふつうの非婚出産 シングルマザー、新しい「かぞく」を生きる』を読んでー

櫨畑敦子(はじはたあつこ)さんの『ふつうの非婚出産 シングルマザー、新しい「かぞく」を生きる』を読んだ。

1.「家族の枠組み」にモヤモヤするすべての人の話

これは産む産まないの話、結婚するしないの話ではない。
女性だけの話でもないし、出産を迷う年齢の人だけの話でもない。

従来の「家族の枠組み」に違和感を感じているすべての人に関わる話だと思う。

櫨畑さんは、家族のあり方に疑問を持ちながら思春期を過ごし、
男性に責任を取ってもらったり認知してもらったりしない形で子どもを持ちたいと考え、試行錯誤する。
その試行錯誤も、契約結婚やゲイカップルからの精子提供も含まれるので本格的だ。
最終的には良い関係にある男性との子どもを授かり、
友人たちと協力しながら子育てをしているようだ。

生い立ちから非婚出産を決断するまで、妊娠するまで、妊娠中、出産を終えてから、
それぞれの過程での櫨畑さんの「家族」に対する考え方が書かれている。
経験した人でないと書けないことなので、このように読める形にしていただけたことをとてもありがたいと思う。

2.「標準世帯」の幻影につきまとわれるアラフォー世代

先日、
大和総研から、税や社会保障のモデルケースとなる「夫が働いて収入を得て、妻は専業主婦、子どもは2人の4人世帯」、つまり「標準世帯」が総世帯数の5%にも満たないという記事が発表された。
https://www.dir.co.jp/report/column/20180710_010074.html

しかし、上記記事にもあるように私たちが誕生し子供時代を過ごした1970年代〜80年代は、上記の「標準世帯」がまだまだ主流だった。

アラフォー世代の方の子ども時代は、お父さんが会社員でお母さんが専業主婦、2人きょうだいという家庭は非常に多かったのではないだろうか。

その後、時代は変化し、シングルで子どもを持つ人、結婚するが子どもを持たない人、LGBTのカップル、事実婚など、家族のバリエーションは多彩になった。

なので、現在のアラフォー世代は、一つ前の世代の「標準世帯」(と、それが象徴する家族観)の影響を長らく受けつつ、自分が家庭を持つ年齢になると「家族」というものがとてつもなくバリエーション豊かになっていた…という過渡期の世代なのではないかと思う。

アラフォー世代の中には、「標準世帯」のような従来の家族の枠組みに違和感を感じつつも、長らく刷り込まれてきたものを完全に拭えず、自分に合った家族のあり方を選べない人もいるのではないか。

そのように「標準世帯」の幻影につきまとわれるアラフォー世代に対し、一つ下の世代の櫨畑さんがさらりとそれを乗り越えてくれたのは、とても清々しい。

3.「家族という信仰」を乗り越える

私たちを踏み止めてしまう従来の「家族の枠組み」や、それに伴う「理想的な構成員像」(母親像、父親像、娘像、息子像…)。それらをひっくるめて、櫨畑さんの言う、私たちそれぞれが抱いている「家族という信仰」なんだと思う。

あくまで「信仰」なのだから、絶対的なものではない。しかし、否定されるものでもない。誰が何を信仰しようと自由だし、人にあれこれ言われる理由はないのだ。

世間の「家族はこうあるべき」という価値観に合わせていくことを、「みんなで同じ船に乗っているようなもの」と櫨畑さんは表現する。誰かが舵を切ってくれて、みんなが乗っているから安心できるのだと。そして、それを否定することなく、「実際は自分で船を作ることもできる」というもう一つの方法を提案するのだ。自分で舵を切り、誰にも乗っ取られず、大きな大きな海にで出るのだと。

4.産みたいという気持ちはエゴなのか

子どもを産むか産まないか迷った経験のある人は、
「産みたいという気持ちは私のエゴなのではないのか」
と考えたことが一度はあるのではないかと思う。

櫨畑さんは「非婚出産は親のエゴではないのか」という質問に対し、このように答えている。

その通りかもしれません。これは完全にわたしのエゴだと思います。ただ、わたしも親のエゴで産まれてきたんだと思っています。みんな誰かのエゴによって産まれてきて、今生きているのではないでしょうか?

そう言い切れる人は強い。自分勝手であることやわがままに生きることが非難されてしまう社会の中で、「これは私のエゴです」と言い切って前に進める人は強いし、その後に続く人を勇気づけてくれる。

5.ゆるいつながりの中で子育てをする

櫨畑さんの最も素晴らしいところは、妊娠に協力してくれた男性を含め、
進んで子育てに協力してくれるような友人関係を築いてきたことだと思う。

義務とか依存とか責任の押し付け合いではない、
ゆるくつながった共存関係。

積極的に外に出て、価値観の合う人と出会い語り合う、
そういう努力を続けてきた結果でもあるのだろう。

この本を読んでくれる人とも、本当は直接会って話したい。一緒に笑ったり、泣いたり、悩んだり、働いたり、近くに住んだりしたいと思う。

こういうことを書いている本ってあまりないよなぁ。私も櫨畑さんと直接会って話したいです。

「普通」を否定するわけでなく、新しい「普通」を作ろうという感覚も、今の時代に合っていると思う。
ああ、これが「普通」でいいんだ。と思えるような。

巻末の家族社会学者の永田夏来さんのデータに基づいた専門的な考察も納得させられるものでした。

久しぶりに自分の家族観を見つめ直せるような本に出会ったなぁ。

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