濾過する炉火#02

ナギサウラでのレジデンスは、今回で2度目の実施になります。

初回は油絵作家を招聘しました。
彼女には熱海をテーマにした4作品を制作していただき、企画とキュレーションを私が務めました。その時期はお互い「住居空間における絵画の在り方」について関心が高かったため、ナギサウラの宿泊部屋(=疑似的な居住空間)を展示場所として、成果発表まで実施しました。

彼女は「描こうとせずに描く方法」を模索しながら絵画や美術と向き合っており、その姿勢は制作方法にも現れていました。
当時の作品には油絵具と、市販のピンと貼ったキャンバスではなくゆるく張った麻布をキャンバスに使用。
麻布を手足で引っ張りながら、そこへ油絵具を何層も重ねる。その過程で偶発的に現れてくる色むらや染み、手足の跡の曖昧な形を、自分が見えている形に描きおこしては塗り潰しています。

また、キャンバス自体ぐるぐる回転させながら描いているので、出来た作品には正位置があまりなく、鑑賞者の感覚に委ねています。

制作過程。手足でキャンバスとなる麻布を足で引っ張っている様子。
(作業用の靴とエプロン可愛い)
大きく出来た皺に絵の具を重ねる。

この行為を何日も繰り返しながら制作しました。
膨大な量で行われる一瞬の迷いと一瞬の決断。それらの集積がひとつひとつの作品となりました。

〈入江〉
〈海〉
〈街角〉
〈町〉

最後の成果発表では「現時点で自分の作品の在るべき姿を見ることができた」と言ってくださりました。またテーマを持って制作する機会が新鮮だったようで、良い滞在になったようです。

Artist In Residence 2024

(さらっと振り返ろうとしたら色々思い出してきて長くなっちゃった)
そして2度目となる今回は、いわゆる美術系作家ではなく、舞踏家と呼ばれるパフォーマーの方々を招聘します。

「キュレーターとドラマトゥルクのはざまを縫う」?

そもそもパフォーマーを招聘したいと思った動機について、
「パフォーミングアーツの創作の場において、美術でいう『キューレーター』、演劇でいう『ドラマトゥルク』として企画・制作に携わることは可能かどうか」という実験心が出発点となりました。
(また、現在熱海は再開発の話で盛り上がっており、当施設が位置する熱海市渚町もその対象です。数年後には形がガラリと変わることが決定している街で、パフォーマーを対象としたレジデンスや公演をしたならば、街自体が実施するパフォーマンスアートの現場性をより高める要素の一つとして機能するのでは、という若干の自虐性も含んでいます。)

ただ、キュレーターという語彙が国外と国内でニュアンスが違うように、ドラマトゥルクという言葉も幅が広そう。

で、ぽちぽち調べたり周りの演劇関係者に聞いたらやはりそうらしい。

そもそも「ドラマトゥルク」という言葉が日本に上陸したのが割と最近。使われる場も、演劇やコンテンポラリーダンス、舞踏などさまざまだし、そこからカンパニーや個人でもまた分かれていくっぽい。担う役割の線引きすら一般化されていない言葉を念頭におきながら動くのはなんかしんどそう。

なので、「キュレーターとドラマトゥルクとして動く」ではなく、「キュレーターとドラマトゥルクのはざまを縫う」というイメージで、(一旦)進むことにしました。縫いながら、また別の動きが出てきたらお知らせします。

次の記事ではもうすでにガツガツと始まっているパフォーマーさんたちとの打ち合わせ等の様子などをまとめたいと思います。連載っぽくなってきた!


ナギサウラスタッフ・スミカ