【短編小説】綺麗めなカフェに思い切って入ってみる。カフェの中の全体が…
綺麗めなカフェに思い切って入ってみる。
カフェの中の全体が見えるような1番奥で、1番角の席に座る。
空間の中心にいるよりも、全体を眺められるような外側にいる方が安心するからだ。
他のカフェを利用するときと同じように席に座り、同じようにブラックのアイスコーヒーを頼む。
コーヒーが来るまでの間手持ち無沙汰にしていると、華やかな女性2人が会話しているのが目に入る。
「やっぱ人と話しながら食べるご飯が1番美味しいよね!」
「わかる!1人で食べてても味しないんだよね」
2人はそれぞれのお皿に乗った小洒落たケーキをつつきながら話していた。
それは違うんじゃないかと思った。それは楽しいであって美味しいではない。
食事の美味しさと会話やその他の状況の楽しさが組み合わさった総合的なポジティブな感覚を”美味しい”と評しているだけで、厳密に言えば総合的に楽しいや気持ちいいが正しいのではないか。
もし美味しさを純粋に求めるのであれば、食事以外の情報を遮断し食事にだけ集中することで味や匂いを取得できる量を減衰させない、もしくはその食事に関する知識を蓄えることで認識できる情報の量を増加させるという手段の方が適切なのではないだろうか。
だから結論としてやはりそれは、楽しいであって美味しいではないと私は考える。
そんなことを考えているときにちょうどコーヒーが届いた。
新しく来たお店とはいえ見慣れたアイスコーヒーだ。
それを少し口にした。
いつもより”美味しい”と思った。