虫の鳴きを「声」と捉える日本人
8月第2週の食とココロの処方箋
厳しい暑さが続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
晴れていたと思ったら急に雷が鳴って大雨が降るような不安定なお天気ですね。
暑さが続いて体力も落ちやすい時期です。
《コーナー①》
最初のコーナーは、今週の暦です。
一年を24に分けた二十四節気と、さらに三分割して72に分けた「七十二候」をご紹介しています。
「立秋(りっしゅう)」
二十四節気は、8月7日から8月18日まで「立秋(りっしゅう)」、秋の気配が漂い始める頃。
暦便覧には、「初めて秋の気立つがゆえなれば也」とあります。
小暑、大暑という「暑中」の時期が終わり、ここからは残暑と呼ばれる頃になります。
現代の8月では猛暑の真っただ中、秋の気配はまだまだ遠く感じますね。
「涼風至(すずかぜ いたる)」
七十二候は、8月7日から12日までは、立秋の初候「涼風至(すずかぜ いたる)」、涼しい風が吹き始める頃。
厳しい暑さの中でも、ふと吹いてくる風や、風鈴の音に涼しさを感じることができそうな七十二候です。
「寒蝉鳴(ひぐらし なく)」
13日から17日までは次候「寒蝉鳴(ひぐらし なく)」、夕暮れ時にヒグラシが鳴く頃です。
ヒグラシは、日が暮れる夕方頃に鳴き始めることから「日を暮れさせる」という意味でその名前がついていますが、鳴き声から「カナカナゼミ」とも呼ばれます。
「蒙霧升降(ふかききり まとう)」
そして、18日から22日までは立秋の末候「蒙霧升降(ふかききり まとう)」、深い霧がもうもうと立ちこめる時期。
立秋とは言っても、まだまだ暑さは続きそうです。
虫の「声」!?
それでも、夕暮れ時に聴こえてくるヒグラシの声は、涼し気で、ひととき蒸し暑さを忘れさせてくれるような気がしませんか?
日中に鳴いているミンミンゼミやニイニイゼミとは一味違って、何となく哀愁を帯びた感じは、まさに夏の終わりの夕暮れのイメージです。
こんな風に、虫の声の違いを聞き分けて「夏らしい」だの「涼しげ」だの言っているのは日本人くらいなのだそうですよ。
スズムシ、マツムシ、コオロギなど、昔から虫の声を楽しんできた日本の文化。
そもそも、虫の「声」として捉えているのは、日本人とポリネシア人だけだという話を聞いたことがあります。
共通点は、「母音中心の言語」だとか。
その他の言語が母国語の人は、虫が鳴く「音」として認識しているので、雑音にしか聞こえないというのには驚きました。
環境音のBGMには、川のせせらぎや風に木が揺れる音などと一緒に、虫の声も入っていることがありますが、あれは日本ならではの感覚なのですね。
蝉の声といえば
蝉の声といえば、松尾芭蕉のこの句をご存じの方も多いでしょうか。
「閑(しずか)さや 岩にしみ入る蝉の声」
1689年(元禄2年)5月、芭蕉が曽良と共に「奥の細道(おくのほそ道)」を旅した時に、山形県・山寺の立石寺で詠まれた句です。
蝉が鳴いているのに「閑さ」とは?と、一見不思議に感じるかもしれません。
立石寺は、山寺という名の通り岩山の上に立っているお寺で、下から見上げると、「こんなところにどうやって立てたのだろう」と驚くような所です。
今でこそ観光地になっていますが、苔むした大きな岩と古い大木に囲まれたその場所は、辺り一帯静寂に包まれていたのでしょう。
その場で体験した心の閑さも伝わってくるようです。
旅の途中で人に勧められて、わざわざ20㎞以上も反対方向に歩いて訪れたという山寺。
旅にはたくさんの出会いがありますが、予定では訪れるはずのなかった場所でこんな名句が生まれるとは、縁ですよね。
食とココロの処方箋
産業医 櫻庭千穂