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【靴の思い出帳】第3頁 饗宴のVフロント
こんにちは。ながたつです。
靴の思い出帳。第3回目。本日は饗宴のVフロントと称して、Vフロントダービーのお話をします。「Vフロントって、なに?」という方も多いでしょう。日本ではあまり馴染みのない形ですので、まずはその大枠をお伝えします。
CHEANEYのVフロントダービー
この靴はCHEANEY(チーニー)というブランドの靴です。現在のJOSEPH CHEANEY & SONS(ジョセフチーニー)で、屋号を変える前の靴。残念ながら、モデル名はよくわからないですが、日本で買おうとするとVフロントは現在扱いがないので、今となっては貴重な靴となりました。
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Vフロントって、なに?
Vフロントとは、靴の羽根がV字になっているものです。靴ひもを結んだ時に、靴を上から見るとV字になっています。羽根とは靴ひもを結ぶ穴があるところですね。これがパタパタとできる形になっています。
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先ほども言いましたように、日本ではあまり馴染みがなく、それゆえに見つけるのも困難で、必死に探しました。では、どうしてそこまでして探したのか。一体、そこまでして欲しかった理由はなんでしょうか?
パーティに履く靴、それがVフロント
冠婚葬祭をはじめとしたフォーマルな場面は、昼と夜に分けることができます。昼の儀式は、たとえば結婚式など、やるべきことを主に指します。対して、夜は宴、つまりはパーティです。タキシードを着る場面、と想像してもらうと分かりやすいかもしれません。
ここでいう昼に履くべき靴は、すでに持っていました。第1回と第2回でご紹介した靴たちです。第2回のリンクを下に貼りますので、ぜひご覧ください。
しかし、夜の宴に履く靴を持っていませんでした。無論、タキシードも持っていません。しかし、靴だけはどうしても昼と夜、両方揃えたかったのです。普段使えるかはさておき・・・
最も夜の宴にあっている靴は一般的にオペラパンプスや、内羽根のプレーントウとされています。ここでは細かいことは申し上げませんが、以下のサイトがとてもわかりやすいので、こちらに詳細を預けましょう。
わかっていただきたいのは、最も宴に合う靴は普段使いできない。しかし、その中でも普段使いでき、夜の宴に履くことができる靴がある。そう。それがVフロントです。
見つけた時は嬉しかった。これで昼夜を問わず、フォーマルシーンに対応できる!かっこいい大人にまた近づいたような気がしました。宴で履くことはないこともわかっていましたが。
宴で履けたが、うまくはいかんもの
しかし、そんな折、Vフロントが活躍できる宴があったのです。ありがたいことにお呼ばれしました。あまり詳しくは言えませんが、昔の職場にてお祝いごとがあり、その祝賀会に参加させていただけたのです。
タキシードはさすがにいらなかったので着ていませんが、Vフロントが輝く場面があったことは心底嬉しかったです。しかし、当日は雨。気合を入れて手入れした靴はあっという間に雨でぐしゃぐしゃになりました。水が跳ねて、泥だらけに。会場に着いて手入れしたものの、イマイチでした。
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きっと人生で唯一の宴。ふさわしい場面で履くことはもうないだろうと思うのです。このVフロントのデビュー戦は、雨と泥にまみれた姿となってしまいました。
きっと、この靴を履く相応の場面がくることはないでしょう。悲しいけど、そんな場面に恵まれていることはそうありません。少なくとも、僕の人生では。
一方で、またくるかもしれないと期待する自分もいます。だから、その日に備えています。いざ、また宴に呼ばれた時、すぐに対応できる安心感がたしかにあるのです。
「たまに」に備える余裕とかっこよさ
服や靴など、アイテムを持っている中で、数年に一回しか着ない服、人生で一度しか着ない服はきっとあります。礼服がそうですし、結婚式で新郎が着るタキシードや、新婦が着るドレスなんかがそうでしょう。
でも、それは単にタンスの肥やしになっているのではない。来るべき日に、すぐに引っ張り出せる。そうして備えている大人はかっこいいと思うのです。無駄と割り切るのではなく、来るべき時に、宴の靴を箱から出して、手入れする。この大人にしかない余裕に、僕は惹かれています。
だから、この靴はいつでもピカピカにしておこう。せっかく、普段使いもできるのだから、時々履いて、宴での会話や食事を楽しめるようになじませておこう。
凡庸な日常、見方ひとつで宴にもなる
宴にふさわしい振る舞いも日常でしておこう。普段からやったら、無駄にエレガントで、無駄に優雅で、無駄に高貴で、それはそれは滑稽だけど、毎日しよう。
エレガントで、優美で、高貴な振る舞いは、日常を楽しくしてくれるかもしれません。台所にたって、野菜を切る。この何気ない動作も美しくしよう。ゆっくり、包丁とまな板を取り出して、慌てず、無駄のない動作で野菜を下ごしらえする。それだけで、毎日の料理は、ちょっとしたイベントになる。
饗宴にふさわしいVフロントを、チノパンやデニムに合わせて履く。これだけで、凡庸で退屈で無彩色に映る日常にも彩りがあるかもしれない。隠れている機微を見出して、感動できるかもしれない。日常にはあまりに華美なつま先、景色を映すくらいピカピカのつま先が、自分の笑顔を映してくれるかもしれない。
儀式も宴も日常も、言葉で勝手に区切っているだけ。だから、映る景色の見方を変えるだけで、凡庸な日常も宴になるかもしれない。そんな期待をさせてくれるVフロントを、これからも履いていきましょう。
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