中島知久平の「必勝戦策」。7ページまで。謎の空白
はい。まずは画像を上げます。ページの真ん中部分は見づらいですね。強引に折り目をつけるのは流石に……。
では、太字で本文を打ち込みます。
如何に生産増強に敢闘しても四圍の客観的情勢に帰納し、玆、一、ニ年の間に於いて、日本の生産力が米国に し得るに至ることは思いもよらざる所である、輸送力其の他の関係より、生産絶対数量の差は、寧ろ更に擴大するの憂さへあるのであります。
故に、他に劃期的対策を講ぜず、只軍に生産増強のみに依って勝敗を決せんとするならば、勝敗を帰結は既に明瞭であつて、日本の運命は極めて憂慮すべきものであると断ぜざるを得ないのであります。
之を第一線防衛の現実に就いて熟視すれば、更に明確に意識することが出来ると思うのであります。
日本は、今次戦争にて獲得したる戦略要域を外郭線として防衛態勢を採って居るのでありますが、米国は此の外郭線に対し、先ずソロモン、に反攻の火蓋を切り、戦闘は日に日に熾烈を極め、容易ならざる容想を呈して居るのであります、其の結果、一機でも早く、多く、ソロモン、へ、ソロモン、へと悲痛の聲が叫ばれて居ります、ソロモンはどこまでも守らなければならないことは勿論である、然し乍ら、一切をソロモン、に集結して此處さへ守り通せば日本の国防は安全を期し得るかと云うと、断じてそうは参らぬことを銘記しなければならない。
若し、ソロモン、だけが日、米を通ずる隘路であって、他から来る道はないと云うならば、此處さえ守っていれば安全であるが、天空は無縫にして、飛行機の攻撃には道はない、何處からでも来れるのであります。
現に敵は千島方面に頻に偵察に爆撃に遣って来る、若し此の方面に飛行機の備えが手薄とならば、直ちに占領せられて敵の航空機地となり、国防の危機は極めて重大化することは申す迄もないことである、従って、此の方面にも優秀機と軍需品の配備を欠くことは出来ない。
以上です。謎の空白部分、写真で気づきましたか? ガリ版刷りなのに、謎の空白があります。修正箇所は、紙を貼って修正文字を入れています。
なのに空白がある。
私の憶測ですが、前回、「工業力が戦争の結果に直結し、アメリカは日本の二十倍以上です」と説明したので、流れからして「負ける」の文字が入るでしょう。
だがしかし、もしもこの極秘文書が流出したら「中島知久平は日本を負けると思っているけしからん奴だ!」と糾弾され、必勝戦策が握りつぶされる恐れがあります。
あえて空白にしたのは、口頭で説明したか、あるいは相手の想像力に委ねたのかと思います。
では、それを踏まえて長島流に説明をしたいと思います。
「どれだけ生産増強しても四方を客観的に分析すると、この一、二年、日本の生産力がアメリカに追いつかれるのは思いの外で、輸送力などその他の関係により、生産力の差はさらに拡大して辛いものであります。
それゆえ、他に画期的対策を講じないで、ただ軍に生産増強だけで勝敗を決するするならば、結果は既に明確であって日本の運命は極めて心配すべきものと断じ得ないであります。
これを防衛の現実についてよく見れば、さらに明確に意識することが出来ると思います。
日本は戦争で獲得した戦略要所を外郭線として防衛態勢に入っていますが、アメリカはソロモン諸島の反攻から火蓋を切り、最前線は激化しています。その結果、「ソロモンへ、ソロモンへ」とソロモンへの防衛の悲痛な叫びがありますが、ソロモンはどこまでも守るのは勿論ですが、軍備をソロモンに集結して守りきっても、日本の国防は安全ではないことを断じてそうではないことを心に刻まなければならない。
もしもソロモンだけが日米の隘路(国境線)であって、他から来る道はないと、ここさえ守っていれば安全ですが、空には国境線はありません。飛行機による攻撃はどこからでも来ます。
現に敵は千島方面に頻繁に偵察機や爆撃機が来ます。もしこの方面に飛行機の備えが手薄となれば、直ちに占領されて敵の航空機地になり、国防の危機は極めて重大化することは申すほどでもなく、この方面にも優秀な機体や軍需品を配備を欠くことは出来ない」
あたりでしょう。当時の新聞記事をろくに調べてないのですが(または大東亜戦争の時系列)、世間一般では「ソロモン諸島の防衛」が声高に叫ばれていたのだと思います。
知久平さんは「仮にソロモンに大量の軍備投下で防衛に成功しても、空から爆撃機が別方向でやって来る」と、まずは当たり前のことを言います。
政治駆け引きなのでしょう。いきなり難しいことを説明すると「馬鹿にされている」と人は思ってしまいます。基本の話をしてから本題に引き込む予定だっと思われるのが、文面からにじみ出ています。
歴史の答えを知っている私、及び私たちから見ても「非常に丁寧だな」と思っていいでしょう。謎の空白部分は「察する」こともできるでしょう。
はい。今日の旧仮名遣いのお勉強です。
四圍←四方
無縫←縫い目がないこと 「空には山や川がない。飛行機ならどこからでも攻められる」
隘路←あいろ 狭い道。漫画「キングダム」を読んだことがある人なら説明不要かな? まさに函谷関
此處←ここら
へりくだり、な使い方な模様。前にも述べましたが知久平さんは下に下に出ています。
他、分からない単語がありましたらお手元のスマホを使ってググってくださるとより一層理解できるかと思います。
(と下に出てみる)