アメリカが世界一の国になった思想的な理由(ヘブライ思想×ヘレニズム思想)
歴史や思想を通じて「アメリカが、世界一強い国になった理由」を考えてみたいと思います。
アメリカが世界一の国になった理由
それは、第二次世界大戦において勝利することで、覇権国家になることができたからです。
では、なぜ勝つことができたのか。
アメリカ本土がほとんど戦場にならず、かつ十分な資金と技術があったため、強い軍事力を使って勝てたのです。
なぜ十分な資金があったのか。
ヨーロッパの国々が第一次世界大戦で争っている時に、それらの国々に大量の軍需物資を売って莫大な利益を得ることができたからです。
なぜ大量の軍需物資を売ることができたか。
アメリカの広大な土地で物の大量生産ができたからです。
イギリスの産業革命の技術を使ったんですね。
なぜイギリスの産業革命の技術を使えたか。
アメリカはイギリスの元植民地で、イギリスとの交流も多く、産業革命の技術に触れる機会も多かったからです。
なぜイギリスで産業革命が起こったのか。
イギリスに十分な資本があり、その多くを王様ではなく資本家が保有していたからです。豊富な資本と商業の発展が合わさって、様々な技術革新を生み出すことができたわけです。
なぜ王様ではない人間が資本を多く保有できていたのか。
イギリスで市民革命が起きた結果、市民の権利が拡大したからです。
なぜ市民革命が起きたのか。
市民の間に自由と平等という思想があったからです。
なぜ自由と平等という思想があったのか。
ヨーロッパの文化的基盤として、ヘブライ思想とヘレニズム思想が存在したからです。
アメリカが強い理由を掘り下げていくと、アメリカを生んだイギリスに行き当たり、イギリスが強い理由を掘り下げると、ヘブライ思想とヘレニズム思想というヨーロッパの文化的基盤に行き着くのです。
では、ヘブライ思想とヘレニズム思想とは一体何なのでしょうか。
ヘブライ思想
ヘブライ思想は、名前の通りヘブライ人の思想です。
ヘブライ人とは誰でしょうか。
約2600年前に、ユダヤ教を信じていた人たちのことです。(後にユダヤ教の信者はユダヤ人と呼ばれるようになりますが、この頃はまだヘブライ人と呼ばれていました)
そのため、ユダヤ教はもちろん、のちにユダヤ教から派生して生まれたキリスト教もまた、ヘブライ思想という大枠の一部に含まれます。
大ざっぱにいうと、ヘブライ思想=ユダヤ教・キリスト教的な思想、という事です。
ヘブライ思想の特徴
それは「一神教」です。
ただ一つの神が宇宙を創造した、という事を彼らは信じています。
彼らにとって、神は物理法則のさらに上位に位置するので、それを勝手に書き変えたりもできるという事です。海が割れた~、とか大洪水を起こしてノアの箱舟を~、という科学的にはあり得ないような聖書のストーリーも「神が全知全能なため起こしうる奇跡だ。物理法則ですら神は書き換えうる」と信者は考えます。(個人的には、科学を生みだした西欧がこのような考え方をしているのはとても面白いポイントだと思います。西欧のキリスト教を信じる科学者のモチベーションの源泉は「神が創造したもうたこの世界の背後に隠れた法則を見つけたい」というものなのかもしれません)
ヘレニズム思想
ヘレニズム時代※に生まれた思想を、ヘレニズム思想と言います。(※古代ギリシャが軍事的に強い国だったため、今でいう中東のあたりの地域に強い影響を与えていた時代のこと)代表的な思想として、ストイックという言葉の語源となった禁欲主義をかかげるストア派や、快楽(=心の平安)を最高善とするエピクロス派があります。
このヘレニズム思想は、人間の理性を中心に据えて生きようとした古代ギリシャ文化から生まれたものです。なのでここでは、そのヘレニズム思想の源流となった古代ギリシャ哲学の特徴を見ていきたいと思います。
ヘレニズム思想の源流となった古代ギリシャ哲学の特徴
それは「真理の探究」です。
この世は何からできているのか。
人間の生きる目的は何か。
善とは何か。
そういった根源的な問題を理性を使って考えていこうとする文化が、古代ギリシャ時代にはありました。
先ほどのヘブライ思想が「信じる」事を重視しているとしたら、
古代ギリシャ哲学は「考える」事を重視しています。
そして、その発想は後のヘレニズム思想にも受け継がれていくのです。
ヘブライ思想とヘレニズム思想の融合
では、それらの思想がどう融合したのか。
それを知るためには、それらが融合することで生まれたものを見てみるのが良いと思います。
それが、先ほど紹介した「自由と平等」です。
それこそ、二つの思想が融合して生まれた概念なのです。
「自由と平等」とアメリカ独立戦争
今から250年ほど前、アメリカがイギリスの支配から独立するための戦争が起こりました。(当時、アメリカはイギリスの植民地でした)
イギリスによる理不尽な支配からの「自由と平等」を掲げたアメリカ独立戦争です。
では、その「自由と平等」という発想はどこから生まれたのか。
「神の前に全ての人間は平等である」というキリスト教の思想が土台にありました。
「神の前に全ての人間は平等なはずだよね。なのに、イギリスが好き勝手にアメリカの法律を決めるのっておかしくない?」という考えが人々を突き動かしたわけです。
そして、その「全ての人間は平等である」というキリスト教的な考え方を土台として「全ての人間が平等になった世界で、人間は何を目指すべきか?」と考えた時に、かつて古代ギリシャ人が理想とした自由の概念が取り入れられたのです。
古代ギリシャ時代に生まれた学問に「リベラルアーツ」というものがあります。
哲学者・プラトンが生み出した学問で、「様々な教養を学ぶことを通じて、自由に考える力を身につける」ことを目的としています。
そのプラトンの師匠である哲学家・ソクラテスは、こんな事を言いました。
「一番大切なことは、単に生きることではなく、善く生きることである。」と。
善く生きるためには、何が善い生き方なのかを知っていなければいけません。
そして、それを知るためには、自分の頭で自由に考える力が必要なのです。
ソクラテスは人生の最期に処刑されてしまうのですが、その処刑の前日、上記のメッセージを自分の弟子たちに残して死んでいきました。それは言い換えると「自由に考えることで、本当の善を見つけよ」という事ではないでしょうか。
ソクラテスの死後、その考え方は先ほど紹介した弟子のプラトン、さらにその弟子であるアリストテレスへと、脈々と受け継がれていくことになります。
そして彼ら3人は、以後の西洋哲学に大きな影響を与えるようになっていくのです。実際に「すべての西洋哲学はプラトン哲学への注釈に過ぎない(≒プラトンより後の時代の西洋哲学は、プラトンが言っていた事に解説を加えているに過ぎない)」「アリストテレスは万学の祖(≒アリストテレスはあらゆる学問のはじまりに位置する人物)」と言われるほど、その後世への影響は大きくなっていきます。
つまり、古代ギリシャ哲学には「これら3人の偉大な哲学者のように自由に考える事が、より良く生きる事に繋がる」という根本理念があるのです。
アメリカ独立戦争の理念の話に戻ります。
まず「神の前では全ての人間は平等なはずだ」というキリスト教的な発想があり、そこに「人間は平等になった後、自由に向かってよりよく生きるべきだ」というギリシャ的な理想が掲げられました。
これが、「自由と平等」という思想の正体です。
ヘブライ思想(の特にキリスト教)とヘレニズム思想(の特に古代ギリシャ哲学)が融合して生まれた、強固な文化的基盤なのです。
この自由と平等というのはアメリカ独立戦争の際に言語化されたものではありますが、実はヨーロッパ文化圏にはさらにその前から「自由と平等」的な思想があります。(今から約500年前、ルネッサンスにより古代ギリシャ哲学が復興し、宗教革命によりキリスト教が改革されたことによるものです)
西欧の人々にとって当たり前に存在していて、逆に普段は意識しないくらいの感覚。
日本人にとっての神社やお寺、八百万の神様みたいな感じでしょうか。
アメリカが強い理由
「覇権を取るのに有利な、広大な土地があった」
「しがらみのない土地で、一からルールを作る事ができた」
「産業革命で栄えたイギリスと深いつながりがあった」
「第一次・第二次世界大戦でアメリカ本土がほとんど戦場にならなかった」
など色々な理由があり、どれも一理あると思います。
しかし、そういった歴史が生まれた根底には、自由と平等という発想を生みだした、「ヘブライ思想」と「ヘレニズム思想」というヨーロッパ・アメリカ共通の文化的基盤があります。それを知っておくことで、欧米の歴史を「思想」という一つの軸で概観することができると思うのです。