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医療現場での効果的な教育方法

「教えた」と「学んだ」は異なりますよね。
教育とは『学習者の行動に価値ある変化をもたらすプロセス』です。

学習者が成長するにはどうしたらよいか。ポイントは2つです。
①安全な学び場を作る
 ②良い点を伸ばす

です。学びをまとめましょう。

安全な学びを作る

1.安全な学びを作るために
 ・未熟な点があっても学習者の存在が脅かされたり、
  プライドを傷つけられたりしない
 ・分からないことは、なんでも気軽に聞ける
 ・何かあったことがあったら、必ず助けてくれる
 ・自分がチームの一員として受け入れられる実感を持てる

2.学習者は挑戦ゾーンで成長する
人が「安心できる/自分のコントロール下にある」と感じられる心地よい領域が安心ゾーン comfort zoneです。学習者にとって十分に力を発揮できる領域であり、修得した技能を発揮する領域です。そのため、安心だけど成長することはできません。

学習者が成長するには、comfort zoneから挑戦ゾーンstretch zoneに飛び出す必要があります。このstretch zoneは、怖れの領域fear zoneや学びの領域leaning zoneとも表現します。その先にあるのは、混乱ゾーン panic zoneになります。

例えば、研修医にとって、
 Comfort zone:検温、血圧測定
 Stretch zone:動脈採血
 Panic zone:虫垂炎手術の執刀
ちょっと極端ですが、このようなイメージを持つと分かるでしょう。

Stretch zoneは、「よっと背伸びして頑張る」、「ちょっと難しいので練習する」という内容になります。

3.心理的安全性
学習者にとって「ちょっと頑張る、挑戦する」ためには、安全が担保されていることが前提にあります。ジェットコースターは安全バーがあるから、怖いけど楽しいのです。それと同じ。そのため、心理的安全性を担保する必要があります。

チームの心理的安全性とは、チームのメンバーが、リスクを冒し、自分の考えや懸念を表明し、疑問を口にし、間違いを認めてもよく、そのいずれをもネガティブな結果を恐れずにできると信じていることである。エドモンドソンに言わせれば、「率直であることが許されるという感覚」である。

心理的安全性とは何か DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

心理的安全性を確保するために
 ⑴ 土台を作る
  理由をつけて感謝を伝える
  多様な視点を歓迎することを伝え、態度で示す
  挑戦を歓迎し、間違いは恐れなくてもよいことを
  伝え、態度で示す
  指導医から積極的にコミュニケーションをとる
  ×「何かあったら言ってね」
    →こちらから声をかける
 ⑵ 参加を求める
  研修医の意見は最後まで遮らず、批判せずに聞く
  どんなときもGood Question!
  指導医から研修医の思考を深め、
    発言を促す質問を問いかける
 ⑶ 生産的に対応する
  サポートする姿勢を示す
  フィードバックは「行動」に対して行う
  能力や過去を単に批判しない
  ×なんでそんなことしたの?
  ×なんでもっと早く報告しなかたのか?

良い点を伸ばす=フィードバック技法

「良いところ」を見つけて言葉にして伝えることが必要。人間、ダメ出しはできるけど、良いところを見つけてほめることは難しい。

1.医療現場でのフィードバックFeedbackとは?

研修医の臨床能力を高めるために必要な情報を共有し、次の臨床現場で役立つようにすることです。

どうすればいいか?

『聴き、認め、次に生かす』の3つが必要。

具体的にどうしたらよいのか?

聴く
・研修医にSOAPを言わせる。特にAPが大事。
(S:主訴 O:身体所見や検査結果など 
 A:評価 P:プラン)
・終わるまで、遮らない、質問しない、評価しない
・研修医の「教育的診断」を行う
 何をどこまで理解しているのか?
 指導医に何を求めているのか?
・その後、患者の診断に必要な情報を得る。
注意! 患者の診断のために研修医から情報収集をするようなコミュニケーションは「聴く」にはなりません。

認める
・研修が正しくできたことに対し、「積極的に」、「言葉で」認めることが重要
・お世辞や根拠のない褒め言葉はいらない。

次に生かす
・改善点は、次に生かせる形で指摘する。
 例)今度〇〇したらどう?、
   〇〇すると上手くいくよ。
注意! 指導医ができることではなく研修医ができることを伝える
・研修医自身が改善点に気づくようにリードする
 例)心疾患の可能性がある患者でリスクファクター
  を確認してなかったね(起こった事実を述べる)
 例)採血時の注意点は何だっけ?
  (知識を想起させる)
 例)つまり急性発症で体動時にみられる
  腰痛なんだね。(指導医の言葉でまとめる)
 例)帰宅した後の低血糖発作があったら
  どうしようか?(将来予測されることを述べる)
・原則を教える
 例)頭痛の強い発熱患者では髄膜炎は鑑別に
  挙げよう。
・教える内容を選択する(できれば1つ)

忙しい臨床現場でのフィードバック技法

フィードバックが大事とは分かっても、忙しいんだ!というあなたに朗報です。

One minute preceptor method
 1.意見を聴く
 2.根拠を確認する
 3.良い点を認める
 4.原則を教える
 5.改善を図る

注意点をまとめます。
1の段階で、教育者の解釈を言わなで聴くに徹します。
2の段階で、「どうしてそう思うの?」と研修医の考えを促す。研修医の思考枠組みを壊さないように。
3の段階では、「〇〇できたのは良かった」とやった行動を褒めます。
4の段階では、教えるポイントは1つに絞る。あれこれ教えたい気持ちは分かるけど、それはぐっと抑える。
5の段階では、「次に〇〇するときは△△に注意するとよいね」と具体的かつ実現可能な内容を伝える。

せめて、2分程度、教育の心になって研修医の方を向いてください

参考図書

怖れのない組織

『恐れのない組織』は、ハーバード大学教授エイミー・C・エドモンドソンによる革新的な作品です。この本は、職場での心理的安全性がいかに学習、イノベーション、成長を促進するかを明らかにします。エドモンドソン教授は、ピクサー、フォルクスワーゲン、福島原発などの事例を通じて、対人関係の不安が組織にどのような影響を与えるか、そしてそれを克服した組織がどのように機能するかを解析します。失敗から学び、成長する文化を築くための具体的な方法を提供し、読者に行動を促します。この本は、リーダーシップとチームワークの専門家による洞察に満ちた一冊であり、あなたの組織を変革するための必読書です。

心理的安全性 最強の教科書

本書では、心理的安全性を高めるための「考え方」と「行動」を、具体的な事例とともに解説しています。著者は、20年間の日本での経験を基に、成果を生む強いチームの心理的安全性を定義し、組織を理想状態に導くための「理解編」「マインドセット編」「実践編」の3つのPARTでアプローチを提案しています。この本は、マネジメントに携わる全ての人たちにとって、職場のストレスを減らし、意見やアイデアが飛び交い、生産性と成果を向上させるための決定版。

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