かつて23億米ドルの評価額をつけたアグリテックスタートアップBoweryが倒産
https://pitchbook.com/news/articles/bowery-indoor-farming-agtech-company-ceases-operations
かつて23億米ドルの評価額をつけ、垂直農法で野菜を栽培・販売していたアグリテックスタートアップ、Boweryが倒産したとのこと。
運営する農場が病原菌に襲われてしまい出荷減を余儀なくさレアことが直接の要因であるようだ。
米国の垂直農法関連のアグリテックスタートアップ大手で残っているのはソフトバンクビジョンファンドが出資するPlentyのみと思われる。
ソフトウェアのようにバグをみつけたらコードを修正してプロダクトを改善できるビジネスモデルとは異なり、食べ物を扱う以上、原因を根治するまで出荷を停止せざるを得ない。Boweryは根治に向けた対処策を講じている間にベンチャーキャピタルからの資金調達環境も悪化し調達が難航し、倒産に至ったものと思われる。
アグリテックというビジネスモデルの難しさを改めて感じたニュースであった。以下、Pitchbookに掲載された記事の参考和訳である。
(以下、参考和訳)
1.要旨
Boweryはジェネラル・カタリスト、GV、テマセク、フィデリティ・マネジメント等の大手投資家が支援するアグリテックスタートアップで、2024年10月末に全事業を停止した。
Pitchbookによれば、同社が保有する屋内農業工場を含むすべての施設は閉鎖され、従業員は直ちに解雇されるという。資金調達や会社売却を試みてきたが、合意に至らず、2024年10月末に倒産を迎えた。
垂直農法の先駆者であったBoweryの破綻はあまりに突然のことであり、倒産後に養液栽培と灌漑システムのスイッチが切られた後も、ペンシルベニア州ベツレヘムにある屋内農場施設には、農産物を引き取りにトラックが到着していた。なお、Boweryは大手のスーパーマーケットであるホールフーズやアルバートソンズと提携し農作物を出荷していた。
Boweryの全盛期は2021年に23億ドル(約3,450億円)の評価額をつけたこ頃だった。ジャスティン・ティンバーレイク、ナタリー・ポートマン等のセレブや一流企業から総額7億(1,050億円)ドル以上のベンチャーキャピタルを調達した。
Boweryに限らず、AeroFarms 、AppHarvest、Kaleraを含むいくつかの著名なアグリテックスタートアップもこれまでに昨年連邦破産法第11条の適用を申請している(AeroFarmsは2023年11月に経営陣を刷新の上、資金調達を行い復活した)。
アグリテックスタートアップは、エネルギーコストの上昇とベンチャーキャピタルによるアグリテックセクターへの投資が急減する中で、資金調達に苦戦している。
2.Bowery社の創業から全盛期まで
2015年に設立された当社は、創業者のFain氏によれば、屋内農園は従来の農地と比べて1平方フィートあたり100倍以上の生産性があり、水の使用量も1平方フィートあたりで95%少ない、と述べている。
「食品のサプライチェーンを再構築する」というビジョンを掲げた当社には、洗練されたデジタル・マーケティング、サラダのチェーンレストランであるSweet Greenから自然保護団体に至るまで幅広いパートナーシップを組み、また大手VCや有名セレブがこぞって出資をした。
当社の野菜とハーブは無農薬で「とんでもなく風味豊か」というキャッチフレーズがついていたその分価格もかなり高かった。たとえば、2024年、当社の野菜はホールフーズ・マーケットで1パウンドあたり16ドル近くで売られていたでいたが、これは通常の野菜が1パウンドあたり6ドルであったことを考えれば、非常に高価であったことがわかるだろう。
だが、当社はそれでもこのプレミアム価格の喜んで受け入れる顧客層を開拓していった。
資金調達について述べたい。俳優のナタリー・ポートマン、シンガーソングライターのジャスティン・ティンバーレイク、F1ドライバーのルイス・ハミルトンといった有名人までもが、当社に資金を投入した。ハミルトンとポートマンはともに菜食主義者で、環境問題に積極的に取り組んでおり、Boweryは魅力的な投資先に映ったようだ。ベンチャーキャピタルではジェネラル・カタリストやグーグル・ベンチャーズ、機関投資家ではシンガポールの政府系ファンドであるテマセク等、著名な投資家からの資金調達に成功した。
ピークは2021年だった。当社は機関投資家であるフィデリティがリードした3億米ドル(約450億円)のシリーズCラウンドで注目を集めた。この死因調達により、屋内垂直農場スタートアップとしては過去最高の評価額である23億米ドルの企業となったのだ。
また同時期に当社は低金利の条件で1億5000万米ドルの借入を行った。これらの資金を研究開発やM&Aにに投じ、2022年初めにはイチゴ摘みロボットの会社を買収した。それでも当社は常に赤字であった。
当社は非常に厳格に管理された環境で野菜を栽培することにより、コーシャの基準に抵触する虫の発生を防いできた。当社の元従業員3人によれば、コーシャ食品を販売する米国の大手Kayco社は、最終的にバウリー社の最大の小売顧客となった。当社は、厳格な基準を遵守し、コーシャ認定を受けた青果物も開発した。
3.病原菌による被害
2023年5月、当社の農場が病原菌に襲われた。フィトフトラ(植物に害を与える微生物)が発生したのである。
当社はフィトフトラを隔離するため、個々の栽培棟にそれぞれ別の灌漑システムを構築するなど、システムの改良に多大な投資を行った。しかし、それでも感染の拡大を防ぐことはできなかった。当社は、フィトフトラに感染した農産物を販売することができなかった。
当社の収益は2023年末から減少し始めた。同社はVCからの資金調達を継続的に試みており、シリーズDの目標額2億2000万ドルのうち9400万ドルを10月に確保した。
フィデリティは、2021年のメガラウンドを主導してから約2年後の2023年後半に、当社の評価額を85%以上引き下げた。加えて、KKRのFS部門がが、当社の融資返済能力に疑問を呈し始めるようになる。
そんな中キャッシュバーンを少しでも減らすため、当社は2023年から数回のレイオフを実施した。また、以前から予定していたテキサス州とジョージア州における2つの新工場の開設も見送った。
しかし、コスト削減だけでは当社の事業を救うには十分ではなかった。
4.販売業社との提携中止〜倒産
病原菌の影響により、流通業者が注文した量の農産物を出荷することができなくなり、当社と食料品流通業者との関係は悪化した。
当社は供給量を病原体が発生する以前の水準に結局回復させることができず、前述したアルバートソンズもホールフーズも、2024年初めには当社との提携を中止した。
一方その頃、さらに悪いことに、ベンチャーキャピタリストたちは、屋内農業の将来性に対し、懐疑的になりつつあった。持続可能な屋内農業の運営は常に野心的な目標だった。屋内農場を拡大するには、電力とインフラの両方に莫大な資本投下が必要だからだ。
ベンチャーキャピタルは、屋内農業を含むアグリテックスタートアップに対する投資を劇的に減らしている。ピークであった2021年には、屋内農業の新興企業がVCから29億ドルを調達した。PitchBookのQ3 2024 AgTech Reportによると、2024年の最初の3四半期で、屋内農場はわずか3億2900万ドルしか調達していない。
こうした中、創業者でありCEOであるFain氏は会社を救済するための合併交渉を行ったが、結局実現しなかった。
Fain氏が2024年10月30日(水)に従業員との全員会議を招集したときは、どこかの企業に救済合併されるということが発表されるのでは、と考えた従業員もいた。だが、そうではなかった。Fain氏は金曜日までにすべての業務を停止すると従業員に告げた。
公開された書類によると、ベツレヘムとマサチューセッツ州ノッティンガムにあるBoweryの施設の180人以上の農家が解雇され、ニューヨークにあるBowery本社のスタッフも解雇された。
Boweryは、「世界中の農家が食べる農産物の栽培方法に革命を起こす」というビジョンを、VCや有名人、従業員に売り込んだ。
しかし、そのビジョンを現実にすることは不可能であることが判明した。結局、Boweryの破綻は、何世紀も続く従来型の農業をディスラプトすることを掲げたものの、「言うは易く行うは難し」という結果に終わってしまった。