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ベンチャーキャピタルの仕事は「外れ値」に投資をすること by マーク・アンドリーセン

ベンチャーキャピタルの仕事は100%「外れ値」、それも極端な外れ値への投資です。「弱点がない企業では無く、強みがある企業に投資しろ」というのが私たちのコンセプトです。最初は当然のことかと思えますが、これがなかなか微妙な判断を要するものなのです。
ベチャーキャピタルとして標準的なやり方は、チェックボックスを埋めていくことです。「創業者よし、アイデアよし、製品よし、初期顧客よし」と次々とチェックを埋めていった挙句に「オーケー、投資しよう」と決断します。
その結果探し出した投資先は、注目すべき魅力が何もない会社だったりするのです。それらには、外れ値になるような圧倒的な強みがありません。
裏を返せば、本当に素晴らしい強みがある会社には、たいてい深刻な欠点もあるということです。だからベンチャーキャピタルに警告したいのは、やばい欠陥があるからと投資先から外していたら、大勝利者になる企業に投資しないということになるということ。探すべきは、弱点なんか目じゃなくなるほど、かけがえのない強みがある企業です。

竹中てる実訳「残酷すぎる成功法則」より

以上はシリコンバレーの大手ベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの創業者であるマーク・アンドリーセンがその昔、スタンフォード大学で行った講演の一部抜粋である。

なぜ、「チェックボックスが全て埋まった企業は凡庸な企業」になるのか。おそらく、チェックリスト方式のスクリーニングは「損をしない」企業を探すためには有効だが、「10倍、20倍に成長する」企業を探すためにはあまり役に立たないからだ。

チェックリスト方式のスクリーニングについて、以前私が勤務していた銀行における審査プロセスを思い出した。

銀行における融資の審査では、「経営者は不正をしていないか」「財務諸表は健全か」「返済能力は十分にあるか」「事業内容に強みはあるか」といったチェックリストを全て埋めて、お金を貸すことに問題がないかどうかを判断する。

銀行のビジネスとは1万円を貸したら利息として100円を返してもらうものである(金利が年利1%の場合)。このチェックリストは何のためにあるかといえば、「貸した1万円に利子の100円をつけて、一年後にきちんと返してくれるか」を判断するためにある。貸した金を少しだけ増やして返してくれるか・取りっぱぐれは起きないか、というネガティブスクリーニングを行うことが目的なのだ。

一方でベンチャーキャピタルのビジネスとは1万円を10倍、20倍に増やしてくれる企業に投資するものである。「損をしない」どこか「圧倒的なリターンを生み出す」ポテンシャルを持つ企業に対し投資を行う。

その圧倒的なリターンを出す企業は「外れ値」であり、そもそも通常の優等生がネガティブスクリーニングのために作ったチェックリストの評価基準に収まるような企業ではない。

ドラえもんで例えれば、チェックリストが全て埋まるタイプはなんでもそつなくこなせる出来杉君タイプだ。

一方で「外れ値」を狙うのであれば、実はあやとりや拳銃等、一芸に秀でたのび太のようなタイプにかけることになる。そして残念ながらのび太はチェックリストは全てチェックがつかない。だが、のび太の強みであるあやとりや拳銃が、世の中に役に立つ圧倒的な価値を持つ場合、それはチェックリストの範疇を超えた有望な投資先に変貌する。

私が昔、出向していたベンチャーキャピタルの創業者の方は、投資を決める会議(投資委員会)のメンバー全員が「良い会社だ」「素晴らしい会社だ」と言うスタートアップほど、投資決定は慎重になる、と聞かせてくれたことがある。

理由は、「満場一致で『良い』と評価される会社は、すでに誰かか同じことをやっている可能性が高い。つまり目新しさも斬新さもない可能性が高い。結果として凡庸な投資先に終わる可能性が高い」からだ。

以上、投資家としては、チェックリストなどどうでもいいくらいの強みを持った会社を見つけることに集中すべきだということが重要だろう。

一方でスタートアップとしては、「そつなく満遍なくこなせる優等生になるのではなく、多少問題はあっても何か一つ圧倒的な強みを持つべき」というのが冒頭のマーク・アンドリーセンの言葉から学べることだろう。


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