小樽貴賓館 (旧青山別邸)
実は今日、小樽に行ってました。帰って会議の予定も入ってましたので、小樽市内に滞在したのは、1時間半程度。
観光の街小樽は、恐ろしいほど静かで、運河通りの露店が消えたのはもちろん、お土産屋さんもシャッターを下ろしているか閑古鳥。
そんななか目的は、小樽貴賓館 (旧青山別邸)に子ども達を連れて行きたかったのです。
なお、館内は撮影禁止ですので、ご興味のある方は、公式サイトより、雰囲気だけでも感じてください。
旧青山別邸
青山家は明治・大正を通じ、にしん漁で巨万の富を築き上げました。その三代目、政恵が十七歳の時、山形県酒田市にある本間邸に魅せられ大正六年から六年半余りの歳月をかけ建てた別荘が旧青山別邸です。
旧青山別邸は平成22年、国より登録有形文化財に指定されました。
約1500坪の敷地内に木造2階建てで建坪は190坪。家屋の中は6畳~15畳の部屋が18室、それぞれに趣が異なり、金に糸目をつけず建てられた豪邸です。(HPより抜粋)
僕はここが好きなんですよ。
とはいえ、ここに行くのは10年数年ぶりです。
贅を尽くした建物は、まさに「大正ロマン」とでもいいましょうか。
北海道の歴史の一ページ
北海道の子ども達は、もう「ニシン」と聞いてもピンとこないんですよ。
うちでは時期になると時々ニシンも買って、開いたり干したりすることがあります。余所のうちはどうかわかりませんが、ニシンを売ってることも減ってるし、若いお母さんはニシンなんて買わないんじゃないでしょうか。
小骨が多いし、正直、今時の子ども達はあまり喜ぶ魚ではありません。
ご存じの通り北海道はかつてニシン漁が大変盛んだった頃がありますが、そんな一時代の栄光を本物の家にお邪魔して垣間見ることができるというのは貴重な施設だと思っています。
それと、本州では割と当たり前かもしれませんが、本気の日本家屋というのは、北海道はなかなか見ることができません。そういう意味でも、本州への憧れがよく現れている建築様式は珍しいのです。
静まりかえった館内
以前は観光客で大変混んでいたのですが、今日は貸し切り状態。
コロナの影響はもとより、とどめを刺すような猛吹雪。地元の人だって、よほどの事情がなければ出歩くのをやめるような天気でしたからね。
開館時間は午後4時までで、午後3時頃到着。
入り口に入るとスタッフの方がでてきて「見学ですか?」って聞かれました。
もう、閉館の準備をしていたか、その時間でも、本日唯一の来場者だったのかもしれません。
消してあった照明やBGMも、わざわざ入れてくれました。
暖房も消してありました。
毎日数百人の見学があったであろう施設が、ほぼゼロに近い状態ですから無理もありません。
対策として、厚手の靴下を貸してくれました。
それでも、板の間では立っていられないほど冷え込んでいますので、畳の部屋へ時々避難しながら見学していきます。
ふすま絵などの美術品や調度品は自ずと目を引きますが、長押に使っている素材、床の間の作り方、ガイドのように説明しながら子ども達を案内していきました。
体験の積み重ねが教養となって
正直いって、とても見る人の教養を問う施設です。
テーマパークと違って、ただの古い家ですから。
狩野派の画家が北海道でも絵を残していたのか!とか、廊下の長押は12m以上の柾目の檜を用意させたことに興奮する!とか、そういう目線がなれば楽しくありません。
だから子ども達は、別にそれほど楽しくなかったでしょう。
でも、それでいいのです。
今日のことは10年後でも覚えているでしょうし、この先の人生で関係のある話に触れることもあるでしょう。かつてのニシン漁の話、木材の話、日本画の話、黒檀・紫檀・鉄刀木で作られた床の間の、あらゆる文化の話とリンクしたときに、体験がよみがえるはずです。
生きた教養とはそういうものだと思っています。
文化施設の未来
この手の歴史的建造物もそうですし、美術館や博物館などの文化施設は、今後どうなってしまうのでしょうか。
今は、希望的観測で、コロナさえ収束すればたくさんのお客さんが戻ってきてくれるはずだと考えているに違いありません。
今日は、僕ら家族が1時間弱の見学で3850円を支払いました。
歩くのも辛いほど冷え込んだ100年前の家を覗くだけという体験であれば高く感じますが、施設のポテンシャルとしては、個人的にはむしろ安く感じています。ただ、数名のスタッフがすることもなくうろうろしているだけで、本日も大赤字であることは想像に難くありません。
このまま、残すべき文化、知っておくべき教養ということも人々の意識から薄れて、経営を立て直すのは大変厳しいことのように感じました。
GoToが復活すれば・・とか、もはやそんなレベルではない、静けさを感じてしまいました。
現代画家の作品も
旧青山別邸の受付施設にもなっている貴賓館のホールも見事です。
狩野派の作品や、荘厳な巻き上げの格子天井は、北海道にゆかりのある画家の天井画になっています。
以前、仕事でお世話になっていた僕の知り合いもこの中に一人参加しているものですから、その方の絵を探すのも、子ども達のゲームになっていました。
小樽貴賓館をあとに
帰りには、支配人らしき人が、玄関まできて声をかけてくれました。
「水族館の帰りですか?」と聞かれました。
そう、小樽水族館のすぐ近くですので、はしごする観光客は多いと思います。ここのためだけに来たことを伝えると驚いていました。
「来てくれて本当に嬉しかったです」って、最後まで見送っていただきました。
きっと、どの施設も同じような状況だと思いますが、なんとか存続してほしいものです。