晴耕雨読:「学習する組織」(再び、組織は個の集団である:第11章 チーム学習)
■はじめに
ピーター・センゲの「学習する組織」(邦題)は原書名を表していないし、誤解を招きかねない訳である。この本は、私の見る限り、企業がその競争力を維持するためのヒントを示した本である。ノウハウ本でもなければ技術本でもない。
散文的に話題がちりばめられた本書は難解であり、その取り扱いには悩むだろう。
それでも、この本は経営革新には以下の事項が必要だと断じている。
(1)「志の育成」
・自己マスタリー
・共有ビジョン
(2)「内省的な会話の展開」
・メンタルモデル
・チーム学習
(3)「複雑性の理解」
・システム思考
今回は、その中の「チーム学習」について確認してゆこう。
第11章になる。
■序文(P40)での説明
「個人で映えることができない洞察をグループとして発見を可能にするような、グループ全体にじゆに広がる流れ」という文脈でダイアローグが語れ、それは「チームのメンバーが前提を保守して本当の意味でのともに考える能力である。」としている。
そのため「チーム学習はきわめて重要である。なぜなら、現在の組織における学習の基本単位は個人ではなくチームであるからだ。チームが学習できなければ組織は学習しえない」と指摘している。
個のビジョンから組織のビジョン、個の学習からチームの学習、そして組織の学習へとつながってゆく。
■システム思考のディシプリンでの位置づけ
第11章の最初に「チームで成果を出す」と言うことでバスケットチームの例が示されている。チームの方向性を一致させることの重要性を説いている。私は「綱引き」を例に取るとわかりやすいのかと思う。すなわち、全員の力を同じ方向にしかも同時に発揮しなければ力を発揮できないというメタファである。
しかし、それだけでは不十分であるとこの書は示す。
「チーム学習とは、メンバーが心から望む結果を出せるようにチームの能力をそろえ、伸ばしてゆくプロセスである。チーム学習は共有ビジョンを築くディシプリンの上に成り立つ」
そして、
「個人ビジョンの延長線上にあるのが共有ビジョンになる」と指摘し「有能なチームは有能な個人の集まりなので、自己マスタリーの上に成り立つものである」としている。
しかしそれだけでは不十分であり、組織全体の学習に結びつけなければならず、そのために「チーム学習」が重要であるとする。
■チーム学習の要諦
チーム学習には三つの不可欠な側面があるとして以下をあげている。
(1)チームは、一人で考えることよりも、大勢で考えることでより知性を高める潜在能力を引き出す方法を学ばなければならない。
(2)チームのメンバーが他のメンバーをいつも意識、互いの行動を補うように行動すると当てにできる「実践上の信頼」を築く。
(3)チーム学習の実戦とスキルを自分たち以外にも繰り返し教えることによって、他の学習するチームを育ててゆくこと。
こうしたことは「意識」しただけではなく「手法」が必要である。そのための考え方として、「自分たちの考えていることを”深化”させるためのディスカッション」と「新しい知見を見いだすための”探究”を目指すダイアログ」が重要であると述べている。
「ダイアログ」を日本語にすると「対話」と訳すことが多い。しかし、本書ではそうした表面的なことではなく、その意味的な区分をしている。
「ダイアログでは、複雑で微妙な問題を自由かつ創造的に探求し、互いの話にじっくり「耳を傾け」自分の考えを保留する(いつでも見直せるようにする)。対極的に、ディスカッションでは、様々な考えを発言したり、弁護したりして、その時に下さなければならない決定の裏付けとなる最善の考えを追求する。(括弧内は中野の注)
ディスカッションは「説得する」行為であり、ダイアログは「発見する」行為である。
そのために、三つの基本条件を挙げている。
(1)全参加者が自分の前提を「保留し(吊り下げ)」なければならない。つまり自分の前提を文字通り「みんなも前に吊り下げるようにして」おくのだ。
※これはメンタル・モデルの再編にもつながる重要な考え方だ。
(2)全参加者が互いを仲間と考えなければならない。
※これは、安易にまとめようとか、面倒な問題には目をつむると言った自己防衛的な行動は避けるべきであることも含む。
(3)ダイアログの「文脈を保持」する「ファシリテーター」(進行役)がいなければならない。
※同時にリーダーがリーダーシップを発揮しなければチーム学習は実現できないことも意味する。
■チーム学習の阻害要因
こうしたチーム学習を阻害する要因として、本書では「習慣的な防御行動」あげており、比較的大きく紙面を割いている。
「習慣的な防御行動は、・・・自分たちの考え方をさらけ出すのに伴う当惑や恐れから我が身を守るために染みついた習慣である」と指摘しており、それは「相違点を丸く収める」「勝者気取り的な遠慮のない意見」が場を支配することで学習を妨げることになると指摘している。
これを防ぐためのリーダーシップにも触れている。
「(メンバーが)習慣的な防御行動が作用しているのに気づいたら、自分もその一部だと思って間違いない。熟練したマネージャーならば、防御が防御を生むことがないように自己防衛に向き合うことを学んでいる。そういう人たちは、まず(自らも自己防衛していることを認め)自己開示によって、そして自分の自己防衛の原因を探求することによって、習慣的な防御行動に向き合う。」
「必要なのは・・・メンバーが本当に望んでいることについてのビジョンに、そして今の現実についての真実を語ることに徹底して忠実であることだ」
自己マスタリー、共有ビジョンが大切な理由がここにある。これを疎かにしてチーム学習はない。
■チーム学習を進めるための課題
ダイアログの一つの結論として以下のように述べる。
「ダイアログを通して、チームのメンバーは、作用し得るより大きな知性について具体的な経験を積んでゆく。この経験が、チームのメンバーの「自分たちはどう行動するか」というビジョンを強化する。」
「だが、今の現実を覆い隠すのではなく、見るスキルを伸ばすこともしなければ、チームの学習能力は信頼できないものになる。また振り返りと探求のスキルがなければ、自己防衛が生じたとき進路からそれてしまう、状況に左右される学習になってしまう。」と警告する。
その上で、「意味のある練習や稽古が事実上全くないことが、おそらく、ほとんどの経営チームが効果的な学習単位にならない最大の要因だろう」と警告し、ではどうするべきかの指針を示している。(ここでは長くなるので省略)
■チーム学習の先にあるもの
本書は経営に関する書籍である。したがって、このチーム学習を題材として「学習」を取り上げるのは
「おそらく、経営チームのまさに最大の重荷は、こうした複雑で絶えず変化する現実に、単純な静的問題のために設計された言語を道具にして立ち向かうことである。」そのためのシステム思考と云える。
本書の最後に以下の問いかけを投げている。
「顧客基盤を拡充しなくてはいけないのに、現在の取引先にもっと売ることに問題をすり変えていないか」
「もしそうなら、どうすれば分かるか」
■次の読むべき場所
ここまでで、「学習」に至る要件や注意点を適帰されてきた。
残るディシプリンは「システム思考」であるが、その前に、なぜ「そもそもシステム思考が求められるのか」をもう一度確認しておこう。
そのために次回は「第2章」と「第3章」を読み解く。