晴耕雨読:「学習する組織」(変容の担い手:第15章 リーダーの新しい仕事)
■はじめに
第1章には5つのディシプリンとは独立して「メタノイア」という項が設けられている。メタノイアは「心の転換」と訳されているが、多分に哲学的な用語なので理解は難しいだろう。「真の学習は「人間であるとはどういうことか」という意味の核心に踏み込むものだ。」として、心の奥底の持ちように触れている。
しかし、こうした「メタノイア」が学習する組織に不可欠だとしても、なぜふさわしい組織を作れないのかと言う問いに応えることがこの章の主旨なのだと思う。
その答えとして「新しいリーダーの役割」をこの章では取り扱っているが、一方で矛盾もある。個人が学習しないのであれば組織が学習しないというのであれば、リーダーがいなければなぜ組織が学習できないのかの解は記述されていない。また、リーダーの育て方も提示されていない。
この章は、単に要件が記載されているだけとあらかじめ承知しておく必要がある。
■リーダー像の誤解
「変化をもたらす力を持っているのは階層のトップにいる人たちだけであり、階層の下の方にいる人たちはその力を持っていない」という思い込みは、リーダーはただひとりという誤解を生み出す。「リーダーは英雄である」という思い込みも含まれる。
リーダーは一種類ではなく、タイプとして現場リーダー、ネットワークリーダー、幹部クラスのリーダーなどをあげており、それぞれの役割は違うと述べる。また、それらのリーダーが担う役割も従来の枠組みでない3つ新たな枠組みを提示している。
■リーダーの三つの役割
詳細をここで要約することは避ける。
実際の記述を読んでほしい。ある種のガイドを提示する。
①設計者としてのリーダー
彼らが向き合うのは「生きたシステム」である。これを再設計すると言うことは前章までに指摘してきたことへの配慮が必要である。例えば、「学習インフラ」が代表となるだろう。また、先の戦略構造で指摘した「基本理念の設計」にも及ぶ。
「組織設計の第一の仕事は、経営理念-社員が行動の指針とする目的やビジョン、基本的価値観-を構築することです。」と述べ、その重要性を列記している。
②教師としてのリーダー
「教師としてのリーダーの仕事も、多くの場合、組織に欠けている重要な能力に気づくことから始まる」としている。そのベースは、前章まで繰り返し取り上げられているように「組織のあるべき姿」に至るための能力の欠落であるが、それを組織として向き合うためにはコミュニティが重要であり、その事例が個々には記載されている。
③執事としてのリーダー
ここでは、「サーバントリーダーシップ(導く人々に奉仕するリーダー)」を題材にしている。事例をいくつか挙げて、ビジョンに基づく「全体にとって正しいことをすること」を求めている。
ただし、何をもって「執事としてのリーダー」と評価できるかはわかりにくく、水先案内人として、この書が有益かは分からない。
■人間になろうと努力する
この章の最初から最後まで一貫しているのは「人間であること」の問いかけである。
人を束ねて、集団を率いるリーダーの話は、事例として取り上げたとしても本質的ではない。自分たちがどうあるべきかを行動規範として、コミュニティを構築し、インフラ整備をすることが求められる人材が必要であり、これが学習する組織の構築を左右する。
とはいえ、ノウハウがあるわけではなく、個々のエピソードを積み上げてもハウツーにはならない。本書のわかりにくさを押し上げてしまう所以であろう。
<続く>