最低賃金を考える(経営者の責任)
■稼いでこいと云って稼いでこれるならあんたはいらない
もうずいぶん立つが、ある企業の最前線で営業を担っていた人の発言だ。
会社が存続するためには、利益を上げなければならない。そのための原資は売上である。したがって企業活動で「売上増加」を目指すのは間違っていない。
しかし、売上は企業活動の目的でもなければ目標でもない。単なる制約条件である。
食事をして栄養をとるのは人生の「目的」や「目標」にしないだろう。安定した生活は制約条件である。あるいは必要条件に過ぎない。
経営者の仕事は経営資源を整えることである。
■払うべきものを払えないで利益を出すことに意味はあるのか
利益活動は、価値の低い場所から高い場所にものの移動を行なうことにより利益を生み出すものである。海で簡単に捕れる魚を、山間部に持って行き珍しい食材として提供するメタファがわかりやすいだろうか。
利益を多くするために「コスト」を下げる努力をすること自体は理解できる。
しかし、支払うべきものを支払わない経済活動はいずれ破綻する。
なぜなら、支払うべきはずのコストを払わなければ、いずれその製品やサービスは供給力が無くなるか他社に流れる貸して無くなるからだ。
■人件費はコストではない。投資である。
人件費も同じである。払うべき給与を払わなければいずれ人はいなくなる。
人件費をコストと考えるから削ろうとする。
そうではない。人件費は投資である。投資能力の無い会社はいずれ市場から見捨てられる。いつまでも劣化したサービスしか提供で奇なるからだ。
■悲しい最賃法の議論
2022年8月1日現在、最低賃金の議論が進められており一応の決着を見たようだ。
○物価高で「過去最大」決着 中小支援が不可欠―最低賃金引き上げ
2022年08月02日
難航していた2022年度の最低賃金(時給)をめぐる協議は、全国平均の目安額を過去最大となる31円引き上げることで決着した
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022080101093&g=soc
こうした議論に付随するのは、経営への圧迫である。下記の記事内容が問題の所在を明確にする。
もっとも、すべての労働者に適用される最低賃金の引き上げは、企業の人件費の増加に直結する。製品価格へ原材料値上げの転嫁が進まない中小企業の経営を圧迫し、宿泊・飲食サービス業などコロナ禍で打撃を受けた業種にとっては一段の重荷となる。
日本総合研究所の山田久主席研究員は、継続的な最低賃金の引き上げには「生産性向上や業態転換を進める中小企業への本格的な支援が必要だ」と指摘する。今後は、下請け企業がコスト上昇分を取引価格に転嫁しやすくするための環境整備のほか、設備投資をする企業への助成拡充などより幅広い支援策が求められそうだ。
前半の記載は、要は「払えない」と言うことにつきる.これは下記の記事にも反映される。
○最低賃金31円引き上げ 日商会頭「企業の支払い能力、反映されず」
2022/8/2
「コロナ感染再拡大の影響が懸念される飲食・宿泊業や、原材料・エネルギー価格など企業物価の高騰を十分に価格転嫁できていない企業にとっては、非常に厳しい結果」
https://mainichi.jp/articles/20220802/k00/00m/020/010000c
論点がおかしいのは、必要な経費がかかっているのに価格に転嫁できないビジネスモデルがおかしいという議論が抜け落ちている点だろう。彼らはボランティアで経営活動をしているのだろうか?
だからこそ、生産性向上、小規模企業の統廃合、ビジネスモデルの刷新を図らなければならない。それも今すぐにだ。
■低所得者で成り立つ経済はおかしい
そもそも、最低賃金での年収はどうなるのだろう。最低賃金での給与の計算方法は厚生労働省のサイトを見ると出てくる。試算をすると、額面で月額20万円(交通費や残業を除く)なので年収では240万円になる。いわゆる低所得者層になる。
これでは、日々の生活もままならず、自分に対して将来への投資などもできない。
自分の生き方を決め、学習する機会も能力開発の場を得る。そんなこともできない社会に未来があるとは思えない。
社会の公器である会社経営がそんな役割も果たせないことに恥じ入って欲しい。
<閑話休題>
(その他の記事)
●最低賃金は過去最大31円引き上げ、早期に「1000円」と鈴木財務相
2022年8月2日
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-08-01/RFYL1DDWX2PS01
●最低賃金31円引き上げ 物価高を反映、過去最大幅
2022/8/1
https://nordot.app/926718644394557440
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?