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ISO9001では処分は求めていない

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https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220121/k10013441961000.html
国交省統計データ書き換え 事務次官ら処分 大臣も給与自主返納
2022年1月21日

国土交通省が国の統計の中でも特に重要な「基幹統計」のデータを書き換えていた問題で、斉藤国土交通大臣は、事務次官を訓告、当時の統計担当の幹部らを減給とするなど合わせて10人を処分したと発表しました。
斉藤大臣みずからも、大臣給与と賞与を自主返納するとしています。

【記事に思う】

モリカケ以前から、都合の悪い記録は作らない、廃棄する、改竄するが政権の常識になっていたのだろう。年金問題以降、同じことを繰り返す。

処分が必要なのではなく、原因を探り解決策を見いだすことが重要だ。
もっとも原因を特定するということは難しい。ISO9001での審査をしていても、起きたことを原因としてしまうと解決策が「教育」や「周知徹底」になってしまう傾向になる。

ISO9001では「10.2 不適合及び是正処置」として下記を要求している。

10.2.1 苦情から生じたものを含め,不適合が発生した場合,組織は,次の事項を行わなければならない。
a) その不適合に対処し,該当する場合には,必ず,次の事項を行う。
その不適合を管理し,修正するための処置をとる。
その不適合によって起こった結果に対処する。
b) その不適合が再発又は他のところで発生しないようにするため,次の事項によって,その不適合の原因を除去するための処置をとる必要性を評価する。
その不適合をレビューし,分析する。
その不適合の原因を明確にする。類似の不適合の有無,又はそれが発生する可能性を明確にする。
c) 必要な処置を実施する。
d) とった全ての是正処置の有効性をレビューする。
e) 必要な場合には,計画の策定段階で決定したリスク及び機会を更新する。
f) 必要な場合には,品質マネジメントシステムの変更を行う。
是正処置は,検出された不適合のもつ影響に応じたものでなければならない。

処分を求めていないことは理解しておく必要がある。誰かの責任を求めているわけではない。原因を明確にすることを求めている。しかし「原因」とは何かは規格では定義されていないので一般的な用語としてしか理解できない。

安易な分析をすると、起きたことをそのまま書いてしまうことになりかねない。
たとえば、小林化工の水虫薬に睡眠薬を混入させた問題で

「作業員の勘違いにより重大なミスが起きた。有効成分のイトラコナゾールを加えるべきところ、製造所内にあった睡眠導入剤の成分を入れてしまった」
(https://www.asahi.com/articles/ASNDB6D4NNDBPTIL017.html)

と言う文脈で「勘違い」を原因としてしまうと、教育や周知徹底に収束してしまい、メカニズムの話しに行かないので注意が必要だ。

最初のニュースでは、処分のことだけの記事なので、国土交通省から「「建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る検証委員会」の報告書について」という資料が公開されているのでこれを見てみよう。

重要だと思われるところを抜粋する。少し長いが見て欲しい。

第6章 本件各問題の原因論
第1 本件合算問題の原因
1直接的な原因
建設受注統計に使用されているシステム上、通常の業務ルーティンにおいては、過月分調査票の数値を公表済みの集計結果に反映させる方法が存在しなかった。
2間接的な原因
本件統計室の職員に対するヒアリングによれば、本件統計室においては書面決裁がなされることは少なく、上司に対する報告等は口頭で事実上伝えるだけにとどまることも多いとのことである。
第2 本件二重計上問題の原因
1直接的な原因
本件二重計上は、平成22 年から平成23 年10 月までにかけて検討されていた推計方法の変更の過程において、集計の現場で本件合算処理が行われていたにもかかわらず、回収率の逆数を乗じる推計方法を採用したことによって生じたものである
2間接的な原因
平成22 年から平成23 年10 月にかけての推計方法の見直しの過程で、本件統計室課長補佐以上の者が本件二重計上問題を認識できなかったのは、建設受注統計調査の集計等の実務を担当していた本件統計室の係長以下の者と、欠測値の推計による補完方法を検討していた課長補佐以上の者の間で十分な情報共有がなされておらず、いわば情報の分断が生じていたことにあると考えられる。
ここでも合算問題と同様に、集計作業は係員以下の現場作業で、室長ら幹部が集計作業を現場任せにしていたという分業意識が背景にあったと考えられる。
また、平成25 年4 月以降において、係長以下の係員が本件二重計上に気づかなかった原因も、目先の業務で手一杯で、回収率の逆数を乗じる推計方法の変更といった統計の理論的な問題と現場集計作業の実際とを結びつけるような思考を働かせることができなかったことにあると考えられる。
第3 事後対応問題の原因
1直接的な原因
本件統計室の本件二重計上問題の発覚後の対応は、上記のとおり、対外的に、本件二重計上の事実を明らかにせず、令和3 年4 月分からの推計方法の変更に潜り込ませて本件二重計上の問題が表沙汰にならない形で収束させようとしたと認められ、これを「隠ぺい工作」とまでいうかどうかはともかく、幹部職員において、責任追及を回避したいといった意識があったことが原因と考えざるを得ない。
2間接的な原因
上記の間接的な原因についてみると、次の点が指摘できよう。
①短任期と業務過多
本件統計室の室長、課長及び審議官といった建設受注統計に関連する歴代管理職は、短ければ1年、長くとも2 年程度で異動することが通例となっている(なお歴代の室長の中にはわずか2 ヶ月で異動となったものも存在する。)。
このように短期での人事異動が前提となっている場合、職員は自らの任期中に問題を発見したとしても、当該問題への対処を行うことが自らの利益にならない(むしろ不利益になる)場合、それを隠蔽して自らの任期をいわば「やりすごす」インセンティブを持つことになる。
そして、本件統計室は慢性的に業務過多となっていたところ、問題への対処という通常業務外の業務が発生することは、本件統計室の通常業務が回らなくなってしまうという管理職としての大きな不利益の発生を意味することになる。
このように、本件統計室の業務過多と管理職の短任期が合わさり、本件統計室に関連する管理職は、自らで問題を解決せずに先送りするインセンティブを有するという構造的な問題が存在した。
②問題の発覚が現職職員の不利益になる構造
本委員会のヒアリングによれば、本件統計室は、平成31 年の一斉点検で建設受注統計以外の統計に問題が発覚したことにより、一部管理職が非常に神経質になっていたとのことである。
これは、問題が発覚した際に、自らがその問題の原因でないとしても、「問題の発覚した業務の担当者である」ということをもって、組織内外から批判やマイナス評価を受けるためであったと考えられる。
このように、問題の発覚が(その原因でない)現職職員の不利益になる構造ゆえに、問題への対処を行う職員において問題を隠蔽し又は問題を矮小化させるインセンティブを有するという構造的な問題も存在した。
第7章 再発防止策(提言)
第6 章で検討した本件各問題の原因も踏まえ、本委員会は、以下の再発防止策を提
言する12

①業務過多の解消
本件各問題の背景には、本件統計室における慢性的な業務過多があったものと考えられる。そして、その業務過多は本件統計室への所属人員の数の問題ではなく、必ずしも十分に業務を遂行できない職員も配置されていた結果、一部の職員に業務が集中するという形で生じていたものと考えられる。そのため、見せかけ上の所属人員の数ではなく、業務を遂行するために必要十分な数の人材が適切に配転されるという形での人員配置を行い、業務過多の解消を行うことが必須と考えられる。
また、上記のような過去の人員配置の
背景には、人事政策における統計業務の軽視があるように見受けられるところ、統計業務の重要性を認識した上での人員配置がなされるべきである。
②統計を統合的に理解する職員の配置
建設受注統計を含む統計一つ一つについて、集計から制度設計までを統合的に理解する職員を配置し、情報の分断を防ぐべきである。
もっとも、ある統計を統合的に理解する職員は新設の職員である必要はないが、上記①のとおり、本件統計室は慢性的な業務過多になっている以上、現職職員の一人をこのような職員として位置付ける場合、その分、現在担っている業務内容を削減する必要があることは言うまでもない。
また、集計方法を含めた業務マニュアルが作成されていれば、制度設計を見直す者においても、当該マニュアルを確認することで具体的な集計方法を把握することができ、制度設計の見直しに活用できるのであって、集計方法も含めた業務マニュアルの作成も重要である。
③職員の専門知識の習得
本件合算問題及び本件二重計上問題の背景には、本件統計室の職員が統計についての十分な知識を有していないことがあると考えられる。
④専門家との相談体制の構築
⑤問題発見時の対応方法の明確化及び問題の発見と解決を奨励する風土の形成
本件における事後対応が不適切となった背景には、問題発見時の対応方法が不明確であり、かつ、問題の発見が現職職員の不利益になるという構造が存在する。
そこで、問題発見時の対応方法を事前に定め、明確化すべきである。また、問題の発見と解決を奨励する風土を形成し、問題を発見した者が人事上も不利益を受けなくする(むしろ、問題を発見し解決した者が人事上プラスに評価されるようにする)ことも必要と考えられる。

ISO9001で求めている、個人での活動のばらつきを抑えるための作業標準、責任や権限の明確化とともに認識を高めるためのリーダーシップなどが欠如していたことが分かる。

さて再発防止につながるだろうか。多分また同じことを引き起こすだろう。
処分でしか、周囲を納得させることができないのであれば、これ以上風土改革などに進めるとは思えない。

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