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<裏情報>レナウン民事再生開始決定から見える内部確執

どうも、やまもっつぅんです。

【5/21 追記】
本投稿の翌日(5/21)に
東洋経済に予想通りの記事が出ました。
▼東洋経済の記事
https://toyokeizai.net/articles/amp/351531?page=2

今回は、
2020/05/15に東証一部上場企業の
大手アパレルの「レナウン」が、
東京地方裁判所から再生手続き開始決定
及び管理命令を受けた件について

「再生業務」を主としている弊社としては
今回のレナウン社から公式で出ている
『民事再生手続開始決定等に関するお知らせ』を見ても  

「普通じゃないな」という印象を受けました👀  

▼弊社の民事再生手続きにおける実績
「民事再生手続き」における
◉手続き支援
 - 資金繰りや財産評定作成支援
◉M&A支援(フィナンシャル・アドバイザリー業務)
を弊社メンバー(3人)は、
「3年」で「のべ20件程度」行っている実績があります。
(通常、民事再生手続きは平均すると
 1年に1件やる人もそうそういません)

そのため、
ニュースでは流れない裏情報
ちょっとマニアックな感じでお話します👀  

これを読むとこれが分かる

◉レナウン民事再生に関するニュースの裏側が分かる
◉「事業再生」というものがどういうものなのかが分かる

何が異例なの?異例ポイント

・東証一部上場企業で”初めて” 
 法的整理(民事再生)手続きの開始決定がでた
・民事再生手続きが債権者申し立てであること
・手続きの業務執行が現経営陣ではなく、管財人主導の管理型であること

なぜ異例になった?その理由を考察

上記レナウン社の民事再生の発表と合わせて、
◉東証一部上場企業で法的整理(民事再生)手続き
今後は管財人の下でスポンサー探索を実施する
という旨があわせて発表されました。

結論から言うと、
株主と会社(役員)の間で事業方針に
大きな隔たりがあった
ために
このような形になったものと思料しています。

その理由を、下記3つから考察していきます。

① なぜ、数ある法的手続きの中で
 「民事再生手続き」を選択したのか?
② なぜ、民事再生手続きの申請方法が
 「債権者申立てかつ管理型」を選択したのか?
③ なぜ、事前にスポンサー探索等を行わなかったのか?

上記考察の前に、
法的整理手続き及び民事再生手続きって何?
というのを説明しますね🌱

法的整理手続き及び民事再生手続きとは

まず、法的整理手続きの中に民事再生手続きがあります。

◉法的手続き
その申立てにより、
開始決定より前の全ての債務の支払いを一度棚上げとし、資産状況を調べたうえで、残った資産を換価し、
それによって得た金銭を棚上げした債務者に対して
優先順位の高い債務から順番に
配当もしくは弁済する手続きのこと。
◉民事再生手続き
開始決定前(申立てから開始決定までの共益債権化手続きをした場合は申立前)の
一般債権を「再生債権」
担保権を有する債権を「別除権」
租税債権や労働債権(従業員給与等)は「優先債権」
と言い、
換価資産を別除権や優先債権へ返済したのちに、
残った債権を再生債権の弁済に回すことになります。

法的手続きは会社の意向により
『再建型』と『清算型』に分けられます。  

今回の民事再生は『再建型』であり、
会社として、今後も事業継続意向があることが前提となります。(=レナウンは民事再生開始決定後も事業継続をしている)  

再建型である会社更生と民事再生の違いで大きいのは、
『期間の違い』と『再生手続き中の執行者の違い』が挙げられると考えています。

会社更生は、
財産の管理処分等が裁判所から任命を受けた管財人が行い、債権者への拘束力も強く、1年程度時間もかかります。  

会社更生が厳格な手続きである一方、
「民事再生」は
債務者(会社)の現経営陣が管理処分等を行える
 ※ 裁判所から任命された監督委員の同意が必要
債権者への構成力は弱い(そのため債権者の多数が同意している必要がある)
期間は再生計画の決議まで約半年程度で済む

という理由から
会社更生と比べて自由度が高い手続きとなっている。

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①なぜ数ある法的手続きの中で、民事再生手続きを選択したのか

「再建型手続き」は
会社更生と民事再生の二つがありますが、
**
”東証1部上場会社の民事再生法開始決定は初”**
という通り、
東証1部上場のような大きい会社では
「会社更生法」を申請するのが通常
です。

会社更生は過去の例でもJAL、武富士やエルピーダメモリなどの大きい会社が申請しており、レナウンにおいても会社更生法の適用でも良かったものと思われます。

では、なぜ民事再生法を選択したのか?

これは、
・事業を守るためスピード感を大事にした
・株主との関係から会社更生が選択できなかっ
た  

の2つが原因と推察されます。

「法的整理後」は、
被害を被った取引先(債権者)が
取引継続を断るケースや  

取引を継続したとしても、
「現金」での取引が条件(キャッシュオンデリバリー:COD)となる場合が多く
限られた現預金でやりくりするため
仕入れや経費支払も限定され
一般的に売上高も減少し、商圏毀損も一気に進みます。

そのため、
遅くなればなるほど企業価値が下がっているため
スポンサーがつかない(もしくは条件が悪い)ため、
迅速にスポンサーに事業を譲渡できる民事再生手続きを選択した事が考えられます。

通常は、
再生計画の決議を持って
スポンサーへの譲渡が許可されるため
・民事再生であれば半年
・会社更生であれば1年程度  

時間がかかり、
その間の運転資金や事業毀損の問題がありますが、
民事再生実務において
「再生計画外で事業譲渡する」という方法を多く使用します。  

これは、民事再生法第42条に規定されていますが
経済合理性(清算価値保障の原則)があり、
スポンサーへの譲渡をする事が適当と裁判所が許可した場合は、開始決定後であれば再生計画の決議を待たずに譲渡を実行できます。

【民事再生法より抜粋】
(営業等の譲渡)
第四十二条 
 再生手続開始後において、再生債務者等が次に掲げる行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。この場合において、裁判所は、当該再生債務者の事業の再生のために必要であると認める場合に限り、許可をすることができる。
一 再生債務者の営業又は事業の全部又は重要な一部の譲渡
二 再生債務者の子会社等(会社法第二条第三号の二に規定する子会社等をいう。ロにおいて同じ。)の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)

もう一つの民事再生選択の大きな理由・・・
というか、これが直接の原因だと思われますが、
株主との関係から
会社更生が選択できなかった可能性
があります。  

↓ ↓ で、詳しく説明します。

②なぜ民事再生手続きの申請方法が債権者申立てかつ管理型を選択したのか

今回のレナウンの民事再生は
「会社」が申立申請したのではなく
「子会社」のレナウンエージェンシーが行った債権者申立てとなります。
(申立時に持っていたレナウン宛て債権額は625百万円)

<<<これは本当に異例です>>>

民事再生は通常、
取締役会決議で可決されたのちに申立代理人(弁護士)を経由して裁判所に申請します。

表3を見てもらうと、
レナウンは取締役(監査役除く)10名のうち
親会社から5名、中国の銀行出身者が1名となっています。  

中国の銀行出身の社外取締役は
親会社から派遣されたと想定されますので、
6/10が親会社から来ている役員となり
上記申立ての議案を否決する力があります。

画像3

では、親会社として申立てを
否決する動機があるか?を見てみましょう。  

表4のような資金繰りを例にとると・・・  

まず、
それぞれのステークホルダーにとって何がベストか?
についてですが、  

「会社」からすれば
事業の継続(雇用の継続)が一番ですので  

もう資金が詰まるのは見えているため、
出来るだけ現預金が多い段階で民事再生に入りたいと思うはずです(従前説明したように申立後は今ある現預金で経営しなければならないため)。

だとすると、
15日に申立てをすると
18日の2,000と29日の4,000の支払いをいったん止めれるので、一番現預金が多い2,500を持って民事再生手続きに入れます。

しかし、「株主」から見た場合、
法的整理になると紙切れのように株価が下がってしまいますので、出来るだけ避けたいというのが一番となります。

そのため、15日の申立てではなく、
29日の4,000支払いのギリギリまで頑張って努力するのを選ぶ可能性がありえます。

別に15日に申請しなくても29日の支払いまでは生き残れるので、25日の週で大きな売上が立つかも?という希望を持てるという事です。

そうなると、
上記取締役会で否決される可能性は高いわけなので
そもそも15日に会社申請による民事再生は出来ないという事になります。

画像4

上記の理由より、
取締役会での可決が困難となった結果、
子会社からの債権者申立てを考えたのではないかと思われます。

子会社のレナウンエージェンシーの代表取締役は
竹谷 裕行氏(HPより)となっており、
代表権が日本人という事からも
中国側の取締役が派遣されていないもしくは過半数以下であると想定されます。
(孫会社まで取締役を派遣しないのは人的リソースの問題からも良くあります。)

よって、
レナウンの事業継続を少しでも高くするために
15日にレナウン側(日本側)である子会社によって
債権者申立てを行ったというのが考えうる真相です。

※ 会社更生法における債権者申立は債権総額の1/10が必要ですが、レナウンエージェンシーの債権残高625百万円、負債総額13,879百万円のため、債権者申立てが出来ない

また、
現経営陣による再生手続きの主導ではなく
あえて管理型(管財人による手続き主導)を選んだ理由については、
現経営陣(=親会社の意向を汲む)であると
「会社の利益」のためでなく、
「株主の利益」になる行動をする可能性があるため  

管理型を行うことで
公平に債権者のため・会社のため・従業員のためになると考えたからと思料されます。

親会社との確執については、
レナウンが親会社である山東如意科技集団有限公司の子会社である恒成国際発展有限公司に対して有する売掛金(5,324百万円)を、期限である2019年12月期に回収できず貸倒引当金計上(2020/2/25)した段階でアラームが鳴っていたように思われます。

③なぜ事前にスポンサー探索等を行わなかったのか

民事再生手続きにおいて、
申立時にはスポンサーが概ね決定しており
申立てと同時にスポンサー名を公表する方法があり
一般的に「プレパッケージ型民事再生(プレパッケージ)」といいます。  

プレパッケージ型は、
通常型と比較してスポンサーが決まっている安心感から商圏毀損が通常より緩やかになるメリットがあります。

今回、このプレパッケージを選択しなった理由は
親会社の意向で条件が合わないもしくは探してすらいなかった可能性が考えられます。

親会社(株主)としては、
特に海外であるというのもありますが、
事業を残したいというインセンティブがあまりない事が考えられ、あくまで経済的対価としての株価がどれだけになるか(どれだけ回収できるのか)という点がメインとなっています。

株主価値は、
企業価値から有利子負債等の債権者価値を控除した金額になるため、企業価値<債権者価値の場合は、株価はマイナスとなりますが、まさに現状のレナウンはそのような状態であったと思料されます。

そうなると買い手はつかないため、
債権者価値を減らす方法で引き受けを検討します。

具体的には、
有利子負債カットを伴う私的整理や
有利子負債や商事債務等債務一切をカットする法的整理手続きを行います。

ただ、株主としては
そうすると株価としてほぼ全額帰ってこない事になるため、私的整理や法的整理前提のスポンサーとの交渉は行っていない可能性が高く、その事によりプレパッケージ型が選択されなかったのだと推測されます。

まとめ

今回のレナウンの民事再生については
「異例づくし」であり、
上場会社故の経営と資本の分離があったからこそ
起きた問題でありますが、
会社・従業員のために様々な検討をした経営陣の苦労が見て取れたので、その気持ちが少しでも皆さんに伝わればと思って書いてみました。

今後は、事業再生ADR(私的整理)のように、
株主責任という問題はありますが、
整理手続申請しても上場が維持できる仕組みを
法的整理でも可能に出来れば、
株主にとっても再生後の回収可能性が出てくるため
経営側とベクトルを合わせた企業再生に向けた取り組みがしやすくなる
と思われます。

以上。


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