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今日のジャズ: 7月28日、2024年@コットンクラブ東京

KURT ROSENWINKEL's
THE NEXT STEP BAND REUNION
at COTTON CLUB, Tokyo (2nd Stage on July 28)

Kurt Rosenwinkel (g)
Mark Turner (sax)
Ben Street (b)
Jeff Ballard (ds)

現在ジャズの主流を行く辣腕揃いのバンドを率いて、ジャズギターの最前線で活躍するカートローゼンウィンケルが来日するというので、久しぶりにJR東京駅丸の内南口から至近のコットンクラブに出向いた。

ブルーノート東京
→高崎芸術劇場
→コットンクラブの日程

コットンクラブは、ブルーノートの約半分の大きさ(収容人数180名)ながら、ブルーノートよりもスペースがゆったりと贅沢に作られていて、手狭な感じが無いため、腰掛けて落ち着けるだけで、改めて再訪したいと思った。前回訪問したのを辿ってみると、約八年前のウォルフガングムースピール(ギター)のトリオ公演なので、時の経つのは早いと感じるとともに、ぽっかり空いたコロナ禍の影響の大きさと、コットンクラブのジャズからポップス等を交えた幅広いジャンルの公演にシフトした音楽志向の方針転換によって随分と間が空いたことを実感した。そう、最近ニュースになっていた中森明菜さんのファンイベントが今月半ばに開催された場所がここ、というとなんとなくイメージが湧くかもしれない。同系列のブルーノート東京がロゴ同様に青の色調に対して、コットンクラブは赤のイメージでステージの背景やソファーの色も同色で統一されていて、シャンデリア等の装飾もあり、クールなブルーノート東京と艶やかなコットンクラブといった好対照の印象を受ける。

公演前のコットンクラブ

この公演のお目当ては、ブライアンブレイドのフェローシップバンドで以前観たことのあるウィンケルのリーダーシップによる演奏は勿論のこと、ドラム好きとしては、タイトでキレの良いスリリングなスタイルのジェフバラードを一度は観ておきたいという想いがあった。ジャズの巨人チックコリア、現在ジャズを牽引するブラッドメルドーやジョシュアレッドマンのアルバムで、正確無比なリズムを刻んでいると思いきや隙を突く不規則な一撃や畳み掛けが魅力で、音楽を聴いていて多彩なリズムを繰り出すダイナミズムに溢れるこのドラマーは誰だろうと思うと、大抵バラードだったからだ。

ジェフバラード

そして、テナーサックスのマークターナーも気になる存在で、2000年頃から名前はあちらこちらで目にするものの、なかなか聴く機会に恵まれず今日に至ったというケース。

残るベースのベンストリートは、全くの初耳ながら、経歴を見るとアンドリューシリルや、ダニーロペレス、イーサンアイバーソンといった個性的なピアニストのアルバムにも参加している実力者のよう。

これら四人が若手の頃に結成された、”The Next Step”というユニットが再結成されてツアーを組み、アジアに来訪、日本にもやって来たという経緯で、再結成にあたって、結成当時のライブ音源(1996年@Smalls, NYC)が来日中にリリースされていた。

約28年前のライブ収録作品
左からストリート、ターナー、ウィンケル、バラード

チケットは事前に完売。観客の年齢層は比較的若く、音楽を演っていそうな男性二人組を複数見かけたのが興味深かった。ほぼ開始時間通りの19:30頃に公演が始まる。ステージに向かって左からウィンケル、その右奥にストリート、前面にターナー、右手にバラードという配置。

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帽子をかぶっているイメージが強いウィンケルに帽子は無く、構えることなくステージに立つとギターを手に取り、颯爽と演奏を開始する。

侘び寂びが効いているリバーブ、ディレイとコーラスを交えた木鳴りの枯れた音色が特徴

最初の曲は先のCDにも収録されている”Minor Blues”ウィンケルとストリートのユニゾンによるリフを背景にターナーのサックスが主旋律を奏で、バラードがアクセントを付けたリズムを繰り出して力むこと無く生まれるこのバンドの世界観はかなり独特のもの。バラードの鋭く、空気圧が客席でも感じられそうなキレのあるハイハットの力強さに感銘する。

19:45頃から二曲目に突入。バンドが疾走し始めると登場するウィンケルの「、テレレ」という特徴あるフレーズは、恐らくこの曲。ウィンケルは、弦を弾く位置を右手側左手側と移動させることで音色の剛柔をコントロールしていた。

この曲を聴いていると、図太いベースのブイブイとドライブする力強い存在感に気付く。脇役的な存在のベースではあるが、ストリートは音量も大きく重低音が効いていて他のメンバーに引けを取らずに、直球のアプローチで縦横無尽に立ち回る。公演後に調べてみたら、重鎮のミロスラフビトウスとデイブホランドに師事したとの記述があって納得した。今後も注目していきたい。今回の収穫の一つだ。

ベンストリート

20時頃に三曲目が、ウィンケルのソロパッセージで始まる。難なく無尽蔵に生み出されるフレーズを聴いて改めてジャズギター界を背負うテクニシャンでもある事を認識する。なんとなくモンクっぽいトリッキーさがある楽曲の中で、ターナーの浮遊感に溢れるテナーが彷徨う。ここからは、ウィンケルのInstagramに掲載されていた曲リストを頼りに曲を紹介します。このリストが公演時にウィンケルの足下、エフェクター類の横の床に直置きされていた模様。

左が1st、右が今回の2ndセット

その曲は、2008年リリースのアルバムでターナーも参加している”The Remedy”からの”Safe Corners”だった。

バラードはスティックからブラシに持ち替えての演奏で、綺麗なシンバルの音色が印象的だった。

曲終了後の20:10を過ぎた頃にウィンケルによるアナウンスがあり、バラードが使用している「ヤマモトシンバル」、言い換えて「アートシンバル」の紹介があった。ライブで楽器についてアーティストが語る場面には遭遇したことがないので、さぞアートシンバルを愛でているよう。その山本さんのXに掲載されていた内容がこちら。

https://x.com/artcymbal/status/1817847007433928712?s=46&t=D-p3X9Sv9jSwVI5U7msPPw

そのシンバルは繊細で雑味や濁りのない、純氷のように透き通った音色という印象。そしてバスドラムの前面を見るとカノウプスとある。こらもまた日本のメーカーだ。一流のドラマーがハイハット以外、大手では無い通好みの日本メーカーのドラムキットを愛用するというのは、とても喜ばしいことだ。そのシンバルの音色が気になる方は、こちらの動画でご確認ください。

バラードとストリートは、今回の公演の合間を縫って栃木在住の山本さんを訪問していました。バラードの表情から満足度が伺えます。

7月26日付の山本さんのX投稿より

そのウィンケルのアナウンスで、先のThe Next StepのCDリリースの話と、それらの演奏曲を含む580ページあるという自作150楽曲の解説やTAB譜を含む音符を記載した書籍の紹介もしていた。

自身が立ち上げたレーベルからの出版で
価格は100ユーロから

20:15分から演奏を再開。ウィンケルは、変則チューニングを施してボサノバ調の演奏を爪弾き始める。ターナーの抽象的で着地点が見えない、クールに浮遊するように旋律が彷徨うスタイルは、何処となくテナーの巨人ジョーヘンダーソンを彷彿とさせる。似たようなスタイルのウィンケルとの相性は勿論良い。ストリートのベースソロも楽しめた。

マークターナー

20:25頃からウィンケルの代表曲、”Zhivago”が披露される。これを生でこのメンバーで聴けるのはこの上無い贅沢。以下は先の1996年収録のライブ音源で、このメンバーにメルドーが加わっている。ウィンケルのメインギターを製造している日本のウエストビルギターのInstagramに来日のタイミングでその変則チューニング動画が掲載されていたのでご覧ください。因みにウィンケルのシグネチャーモデルは定価56万円。

先の書籍からのZhivagoのTAB譜
https://heartcore-records.com/products/kr-ultimate-book-of-compositions

そして次曲、20:40頃からギターをラックにかけて背後にあったピアノに腰を掛けて演奏を始める。ウィンケルはピアノのアルバムも発表しているから驚きは無いが、何でもこなしてしまう才能に羨望する。

スタインウェイを弾くウィンケル

その曲はこちら。

20:50頃に演奏を終えてステージを降りると、アンコールがかかり、もう一曲を演奏して終了したのはほぼ21:00、盛り沢山で充実したステージだった。そのアンコール曲は、セットリストに”Budo”と記載されているが特定できなかった。

因みにブルーノート東京でのアンコールでは、”The Next Step”や”Use of Light”が演奏されていたが、このどちらでもない印象。

ウィンケルのギターが、自身のバンドで前回より聴きどころが多かったので、お腹一杯な程に満足した。高い抽象度がありながらも、揺らぎのない信念と美学から生み出される一貫性を持った独特の語法によるフレーズ、フェローシップバンドではあまり登場することのない、速いパッセージやリズムギターがとても新鮮で耳心地良かった。

公演終了後のステージの写真がこちら。

ウィンケルのセットアップ
左のギターはヤマハ製
バスドラムにカノウプスのロゴがある

ウィンケルにはブルーノート東京公演もあったが、音響には差はなく、ステージがより近いし、贅沢なスペースとバーテンダーさんによる大変美味しいメニューには無いカクテルの提供もあって、コットンクラブを選んで正解だったと思った次第。

スッキリとした酸味のあるフレッシュなカクテル

最後に話が逸れますが、前回コットンクラブに来た時に観たのが、ウォルフガングムースピールのブライアンブレイドのドラムを交えたトリオで、バラードと同じカノウプスのドラムセットを使っていることもあって、そのドラム二人の比較が気になった。

調べてみたら、ムースピールとベースのラリーグレナディアに、バラードとブレイドがそれぞれ加わったトリオ演奏があったので、ご興味のある方はご覧ください。先ずは、バラードがこちら。

そしてこちらがブレイド。

如何でしたか。個性的なムースピールですが、トリオ編成だけあって、ドラムの影響力がその演奏にかなり大きな影響を与えていることが分かります。

そして四月にブルーノート東京で観た、ブレイドを含むダニーロペレストリオにターナーが参加して昨年天寿を全うした巨人、ウェインショーターの楽曲を演奏するステージがブルーノートNYで10月に予定されていて、こちらも大変気になります。

チケット代金は$34.99〜$51.99/人

そのペレストリオのライブレポートはこちらからどうぞ。

今日も素敵な一日をお過ごしください。

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