【読書録】窪 美澄『夜空に浮かぶ欠けた月たち』
直木賞作家・窪 美澄(くぼ みすみ)さんの作品。
心がじんわり温かくなれる連作短編です。やわらかい印象の素敵な装丁が作風にとても合っていると感じました。
以下は出版社の紹介文と目次です。
私、もしくは身近な誰かのお話
小説の舞台は遠い異国や未来ではなく、
少しだけ日々に疲れてしまった、ごく普通の人たちが暮らす東京の片隅です。
印象に残った文章があります。
2編目『パイプを持つ少年』で、主人公の忘れっぽい会社員が椎木メンタルクリニックを初めて訪れたシーンの一節です。
ふと、自身の記憶が蘇りました。
私も頭痛や不眠で心療内科にお世話になったことがあります。
主人公と同じように、待合室で診察を待っていたときに周りが「普通に見える人」ばかりだったので、少し不思議な気持ちがしました。きっと私も「普通に見える」ごく普通の人であり、患者だったのだと思います。
自分に花マルをあげたくなる
作中で主人公の患者たちは、自らの抱える"生きづらさ"を
時には泣きながら、精神科医の旬先生とカウンセラーのさおり先生に聞いてもらいます。
椎木夫婦はそっと寄り添い、考え方を少し前向きにするアドバイスや
無理をしなくていい、誰かに頼っていいんだと、頑張りすぎている主人公たちの焦りをそっと緩める言葉を贈ってくれます。
日々の仕事に忙殺されていると、あれもできない、こんなこともできない、と自分の不出来ばかりを数えてしまいがちになりますが
椎木先生たちの温かい言葉を目にすると、なんだか小学生の頃のように自分のできたことを見つけて花マルを付けたくなるような、そんな思いがしました。
誰かに話を聞いてもらったような気持ち
読み終えると、温かくスッキリした気持ちになれました。
私自身がさおり先生にカウンセリングしてもらったような気分です。
窪 美澄さんの小説は『よるのふくらみ』が初めてで、今回2作品目だったのですが、言葉選びや文章の温かさがとても素敵なので、他作品も読んでみたいと思います。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?