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「三方良し」の現在的積極的アプローチ

 「三方さんぽう良し」とは、近江おうみ商人(近江は今の滋賀県)が商売の心得とした言葉で、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」のことで、売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もすることにより、商売が繁盛し、永続していくという思想のことです。

 実は、この順番には意味があります。

①売り手(企業)が良い
 企業がきちんと利益を出し、株主はもちろん、従業員にもきちんと還元することです。
 これがまず「前提」であり、企業に利益が出ていないと、その企業には永続性はないと言えます。
 ですので、「売り手良し」が何より先に来ているのですね。
 この中には、20年くらい前に流行した潮流の復活の兆しがある「ES(従業員満足度)」も含まれ、まさに「売り手良し」を構成する要素と言えます。

②買い手(消費者・顧客)が良い
 企業が、良い商品やサービスを適切な価格で、消費者・顧客に提供することを通じて、消費者・顧客の満足(「CS(顧客満足度)」)を高めていく必要があります。
 日本では、かつて、歌手の三波春夫が「お客様は神様です。」と言い、それが有名になって、お客様優先の発想がありますが、経営のことを考えずに、お客様だけに良くすると(例:過剰な値引きやサービス)、企業自身が持たなくなって、経営は先細りになってしまいます。
 デフレマインドにまだ侵されているこの国ですが、近日のインフレ傾向が戻りつつある中、「失われた30年」の間、過剰な値引きがどれだけ経営を先細りにしてきたか、考え直す時機が、来ているのかもしれません。

③世間が(法令・倫理等に照らして)良い
 これは、社会貢献と言ってもいいのですが、まずは、法令や倫理等をきちんと守ることが大切です。
 これは、まさにみなさんもご存じの「コンプライアンス(法令等遵守)」です。
 コンプライアンスは、年々、過剰なまでに意識されるようになってきており、確かに、法令等に照らし、いけないことは、「アウト」なのですが、この意識が浸透しすぎた嫌いがあり、企業経営そのものを萎縮させています。
 この「法令等に照らし、アウトのことは、やってはいけない」というのは、まさにそのとおりなのですが、この「アウト」のことに着目する考え方は、従来ベースのコンプライアンスであり、これは「ネガティブ・コンプライアンス」とでも言うべきものです。

 上記の3つの「良し」を守ることは、現在の世の中においても、企業経営でとすべき内容であることは、間違いありません。

 しかしながら、現状、③で指摘されるような「コンプライアンスの肥大化」が、企業経営をしばりつけており、別の視点からのアプローチが待たれているところです。

 ①で指摘した「ES」、②で指摘した「CS」には、一般的に、アプローチの順番があると言われています。

 ESを高めていくと、従業員に余裕ができ、周囲との協調関係が生じ、それがいわゆる「協働」関係であり、それにより事業は次第に好転していくと言われています。

 ESが高まっていくと、顧客にもより適切な商品やサービスの提供が可能となっていき、CSも高まっていきます。

 このような状態下では、自社や顧客を裏切るような法令等違反の状態にはなりにくいと言われています。

 実は、法令等違反という「ネガティブ・コンプライアンス」的なアプローチが、経営をただただ萎縮させる傾向があるのを嫌悪して、上記のような「ES⇒CS」のベクトルから、結果的に法令等違反を起こさせないというアプローチが注目され始めています。

 これは、人間の良い面を見る「ポジティブ・コンプライアンス」とでも言うべきアプローチです。

 このような視点から、「三方良し」をとらえ直すのも面白いと思います。

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