#19 ゲーム的リアリズムの誕生
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東 浩紀(2007).ゲーム的リアリズムの誕生──動物化するポストモダン2── 講談社
本書紹介 from 講談社BOOK倶楽部
現代日本の物語的想像力の行方とは? オタクを中心として大量に消費されているライトノベル、ゲーム等の作品分析を通じて、ポストモダン社会の生をも見通す。文芸批評に新たな地平を切り拓いた快著。
前著より5年半! 物語の行方がここにある!!
話題を呼んだ前作『動物化するポストモダン』より5年半の待望の続編です。本書では、前作の問題意識(オタクの消費行動を分析することで現代社会を読み解く)を引き継ぎつつ、さらに「涼宮ハルヒ」シリーズなどのライトノベル、「ひぐらしのなく頃に」などのゲーム、舞城王太郎の小説などを読解することを通じて、日本の物語(文学)の行方について解いていきます。明治以降の「自然主義的リアリズム」、大塚英志の「まんが・アニメ的リアリズム」に対して「ゲーム的リアリズム」とは何か? まさに文芸批評の枠を超えた快著です。
*目次*
序章
ポストモダンとオタク/ポストモダンと物語/
ポストモダンの世界をどう生きるか
第1章 理論
A.社会学
ライトノベル/キャラクター1/ポストモダン/
まんが・アニメ的リアリズム/想像力の環境/二環境化
B.文学1
現実/私小説/まんが記号説/半透明性/文学性
C.メディア
「ゲームのような小説」/ゲーム/キャラクター2/
「マンガのおばけ」/ゲーム的リアリズム1/コミュニケーション
第2章 作品論
A.キャラクター小説
環境分析/『All You Need Is Kill』/ゲーム的リアリズム2/
死の表現/構造的主題
B.美少女ゲーム
美少女ゲーム/小説のようなゲーム/『ONE』/
メタ美少女ゲーム/『Ever17』/『ひぐらしのなく頃に』/
感情のメタ物語的な詐術
C.文学2
『九十九十九』/「メタミステリ」/プレイヤー視点の文学/
世界を肯定すること
<付録A>不純さに憑かれたミステリ――清涼院流水について
<付録B>萌えの手前、不能性に止まること――『AIR』について
本書感想
年明けくらいに本著の前編『動物化するポストモダン』を読みました。そのときに「東氏の著作のつながりが見えてくると面白いのだろうなあ」と記していました(以前のInstagram)。続編である本書はまさにつながりが見えてとても面白かったです。
「前著を前提としているが,単独でも読めるように書かれている」(p.14)本書ですが,可能であれば前著を読んだ後に読むと議論の深まりが感じられるように思います。
前著で提案したポストモダン論を礎に,作品を想像する環境が二環境化していること(「現実」と「データベース」)を指摘し,そしてこの論点が既存の文学批評と対応関係を持つことを論じます(自然主義的リアリズムとまんが・アニメ的リアリズム)。
しかし,既存の文芸批評では評価の低かったメタ物語性(物語の結末が一つに定まらない)をもつゲーム的な小説が,メディアという視点(コンテンツ志向メディアとコミュニケーション志向メディア)を加えることで,新たな文学の可能性=批評を有することが論じられます(ゲーム的リアリズムの誕生)。
物語の読解から物語の構造の読解へ。「自然主義的な素朴な読解と異なり,物語と現実のあいだに環境の効果を挟み込んで作品を読解するような,いささか複雑な方法」(p.157,傍点省略)である環境分析的な読解へ。
文学論でもあり,メディア論でもあり,批評の方法論としても読める貴重な本かと思いました。
ところで,ポストモダン化に伴う作品の変化として以下のことが指摘されていました。
「自然主義の足枷から解放され,面倒な情景描写や人物設定をする必要を感じない若い作家たちは,その多くが,読者への刺激を最大限かつ最速にするため,サブカルチャー的な記号をできるだけ効率よく配置しようと試み始めている。つまりは,分かりやすい展開を備えた印象的なキャラクターと,同じく分かりやすい展開を備えた類型的な物語を組み合わせ,そのうえでいかにディテールを積みあげて読者の心を動かすか,という点に作家の関心が移っている。(p.299)
先日,『ぼくは愛を証明しようと思う。』の読書感想で「物語のプロットはありきたりです」と記しましたが,この指摘を踏まえて考えると違う読解ができるなと思いました。
物語のプロットがありきたりなのも,登場人物がよくある感じ(非モテ男性とマッチョイズムなモテ男性)なのも,ディテール(恋愛工学)による読者へのインパクトに関心があったからなのかな,と。そしてそれが功を奏していて,『ぼくは愛を証明しようと思う。』を読むと,心だけでなく身体も動かす影響力を持っている。そのようにも読解できるなと思いました。
いつの時代の本なのか?という視点で小説を読むのも面白いなと思いました。
(以上はブログの再掲)
ページ数から見る著者の力点
本書は序章を含めると3章から構成されています。序章は12p,第1章『理論』は128p,第2章『作品論』は138pでした。
序章は前編の振り返り。第1章は作品を読み解くための道具作り。第2章は実際の作品の読解。という構成です。
第1章と第2章でページ数が大きく異ならないことから,道具作りもそれを使った実践もどちらにも重きを置いていることが読み取れました。